|
|
|
|
|
写真はアフリカのカメルーン北部の山間地域にある「ディリ」という名前の小さな村です。かつてこの地を旅したフランスの作家、アンドレ・ジイドが「世界で一番美しい村」と称した場所。それがこのディリかもしれない。そんな噂のある村です。
電気もない、水道もない。もちろんテレビもない。村の中央にはひとまたぎで越えられそうな小川がひとすじ。土壁に草葺きの屋根を乗せた住居が濃い緑の中にぽつりぽつりと顔をのぞかせます。家々の周りには家族が食べるだけの穀物が植えられ、食事時になると家々の草屋根からゆっくりと白い煙が湧き出してきます。「なにもないがすべてがある」そんな形容がふさわしい静かで豊かな光景です。
さて、私たちの暮らしはどうでしょうか。経済がいかようであれ、日本に住む私たちの暮らしも豊かでなくてはなりません。地球や資源の限界を自覚し、環境に対する慎ましい配慮も生まれてきたはずの日本です。自然を汚す過ちを犯したけれども、それを回復させる努力を行うことで、鮭の上る川を取り戻した日本でもあります。自分たちの都市が決して美しいとはいえない様々な矛盾を抱えていることに気づいてからすでに久しい。そんな私たちが、これから向かうべき暮らしとはどんなものでしょうか。考えてみると、私たち日本人は自分たちの住まいをしつらえていく規範を長い間持たないで暮らしてきました。西洋化、近代化を目標にして、伝統的な日本の住まいを手放して以来、百年以上の歳月が過ぎました。しかしながら、現代という時代を暮らす住空間として、世界に誇れる住まいの形を私たちは手にしてはいません。
いかによりよく住まうか。この基本的な問いをまず発してみてはいかがでしょうか。そこから自由にご自身の住まいを構想してみてください。夢を語るのではなく、現実として。ただし、その形を「2DK」とか「3LDK」などという記号に置き換えることをやめてみましょう。不動産売買のチラシにいつの間にか影響を受けて、本来は自由であるはずの住まいの姿が私たちの意識から遠ざかっているかもしれません。豊かさのひとつは、人それぞれの営みにふさわしい住まい方を発見していくことではないかと無印良品は考えています。
無印良品はいくつかの方法で住まいを提案します。そのひとつは「編集」という考え方。生活の空間は建築の都合で決められるものではありません。むしろ暮らしが積み重なって、住まいの空間が育っていくと考えた方が自然でしょう。5,000アイテムにのぼる無印良品の商品はバラバラな製品ではありません。すべての製品の背景には究極のシンプルを目指す明快な思想があります。従って、それらは単なる商品の集合ではなく、自由に選べる5,000アイテムとして編集された「暮らし」なのです。皿はスプーンやフォークと連携するのみならず、冷蔵庫やソファ、そして収納器具と連携しています。それらの組み合わせによって調和のとれた住まいの空間を構築していくことができるのです。
ふたつ目は居住空間としての「インフィル」への取り組み。建築の構造体を「スケルトン」と呼び、目的に合わせてしつらえる内部を「インフィル」と呼びます。マンションの老朽化やビルの空きスペースの増加が問題となる日本では、インフィル再生への対応が今後は大変重要になっていきます。無印良品は、床・壁・天井・水まわり・収納などを極めてシンプルに再構築するプロジェクトに挑戦しています。その第一号は、合理的な収納を考えつくすこと、そして空間の分割を廃することにより、ゆったりした一室空間として誕生しました。生活の変化に応じて間取りを自在に変化させることのできる新し住まいです。無印良品のすべての製品がこの空間にベストフィットすることは言うまでもありません。
これらをさらに発展させて、木造住宅、そしてコンクリート住宅の構想も進んでいます。よく工夫された日用品が良質な生活を育み、そこから優れた「住まい」が生まれる。無印良品は着実に、そしてていねいに「家」に向かいます。 |
|
|