研究テーマ

開発秘話 宮澤先生インタビュー

5 開発秘話 宮澤先生インタビュー

新しい新生児肌着の設計を検討するにあたり、文化服装学院の宮澤国博先生にご協力いただき、文化服装学院と良品計画が共同で研究を進めてきました。

今回は共同研究者である宮澤先生に、開発の経緯や設計を考えたときの想いなどをインタビューしました。

  • 学校法人 文化学園 文化服装学院
    第2グループ・生産管理・CAD研究室
    宮澤 国博 先生
    プライベートでは電車と元気に走り回るのが大好きな2歳の旺太郎(おうたろう)くんのパパ。 旺太郎くんの洋服に宮澤先生や奥様が以前着ていたものをリメイクして、パパオリジナルの古着アイテムを作ることもあるそう。 またお休みの日は旺太郎くんと一緒にうどんやお好み焼きを料理したり、大好きな電車を一緒に見に行くイクメンパパです。

Q1.新生児肌着を研究し始めたきっかけは何ですか?

宮澤先生きっかけは、自分の家庭に子供を授かったことです。産前産後準備品を何度も見に行くうちに、ベビーの肌着に興味を持ち始めました。ベビー肌着は、見た目はあまり違いが無いのですが、実は縫い目や素材にこだわりがあったり、着せやすくなるような工夫がなされていたりするんです。そこで自分の子供にどんな肌着を着せたいかを考え始め、パターンを作成し縫製してみました。新生児肌着は生まれて初めて身にまとい、以降2,3か月は肌着をメインにして日常生活を過ごす大変重要な衣類です。自分の子供にはできるだけ肌にやさしく、着心地の良いものを着せたいと思い研究を始めました。
公園で遊ぶ宮澤先生と旺太郎くん
旺太郎くんの子育て体験からこの肌着は誕生しました
着せたい肌着が形になってくると、個人の研究で終わらせるのはもったいないなと感じ始めました。できれば多くの赤ちゃんに着てもらって、この肌着の着心地を体感してもらいたい。また着てもらった意見を聞くことができれば、もっと改良できるのではないかと思いました。多くの赤ちゃんに着てもらうために製品化できたら、と思ったので、企業との共同開発を検討しました。その中で良品計画の名前が挙がりました。運よく担当者の方にアポイントが取れ、研究内容をお話したところ共同研究という運びになりました。共同研究にしたおかげで商品開発はもちろん、アンケートやモニターチェックなど個人の研究ではできない範囲まで評価や検証を行うことができました。サンプルを納得のいくところまで何度もつくり直し、今回の形となりました。 でも残念だったことが1つあります。今回の肌着は、自分の子供に着せたいと思ってつくったのですが、研究を開始してすぐに、新生児肌着を着用できる期間が終わってしまい、初期のサンプルしか着せることができませんでした。。。

Q2.今回の新生児肌着の設計アイデアはどんなところから思いついたのですか?

宮澤先生1)袖の部分のアイデア 新生児肌着の多くは、ラグランスリーブという構造の袖がついています。袖がついている衣類は総じて寝ている状態で手を動かすと生地と肌との間に摩擦がおきます。また、縫い目が肌に常時当たっていることによって、肌に縫い目のあとが付きます。
自分の子供が寝ている時に、背中はどうなっているんだろうと思って見てみると、肌着のしわや、ラグランスリーブの縫い目の跡がくっきり残っていたのです。大人だったら自分で着心地の悪い部分を直すことができますが、首も座っておらず、自分で体勢を変えることのできない赤ちゃんにはできません。これを何とかしたいと思いました。 2)ゆとりについてのアイデア 日本の新生児肌着のサイズは比較的大きめに作られており、ゆとりが多いという特徴があります。生まれたばかりの赤ちゃんは身長49.0cm前後、体重3kg前後ですが、3か月後には身長60cm前後、体重6kg前後と、大幅にサイズが変わるのですから、ある程度の期間を着ていただくためにゆとりが多いのは当然ですが、より多くの赤ちゃんが着る事ができるように、余分に入っているゆとりも多く、実際の赤ちゃんのサイズを考えるとゆとりが多すぎるのではないかと思いました。そこから、適切なゆとりはどのぐらいなのかを考えました。 3)立体的な縫製方法についてのアイデア 紳士服、婦人服を作る際に、立体的な形をつくり、着やすくする為に生地に「くせとり」という処理をします。「くせとり」とは、裁断された生地をアイロン操作で成形することにより、平らなパーツを立体的な形状に変化させることをいいます。手間はかかりますが、特にジャケットやパンツには立体的で動き易く、体にフィットし、着心地の良い服をつくるために、この方法を用います。ただ今回はカットソーの肌着です。カットソーで「くせとり」をするという話を聞いたことはありません。しかしカットソーにも「くせとり」を用いることでより着やすいものができるのではないかと考えました。

Q3.使用アンケートやモニター会でのお母さんたちの反応はいかがでしたか?

宮澤先生アンケートやモニター会は大変参考になりました。
最初の3576人のアンケートでは、お母さんの肌着に対するイメージや現状、肌着への要望が把握でき、製品化するにあたって考慮するべき点を多く得ることができました。
例えば、素材に関しては、多くの方が綿100%やオーガニックコットンの肌着を求めているということがわかりました。今回の肌着はオーガニックコットンを使用しているので、多くの方々の意見を取り入れることができたと思います。やはり私も1人の親として、生まれてすぐの赤ちゃんには、できるだけ天然繊維の素材でできたものを着せたいという考えがあります。多くの方々が、同じ意見だったということがとてもうれしかったです。 また着用モニターアンケートでは着用した際のご意見を多く聞くことができ、自分が設計したものがはたして良かったのかどうかを確認することができました。特に心配だったことはサイズで、ゆとりを少なめに設定していることが、普段着ている肌着と比べてどのように感じられるかということでした。アンケート結果は幸い良い感想を多く頂戴し、自分の思いが間違っていなかったのだということが確認でき、ほっとしました。その他にも様々な改善につながる意見を頂戴でき、最終的な改良に繋がりました。 実際に赤ちゃんとご家族に来ていただいたモニター会では、お母さんはもちろん、お父さんやおばあちゃんの口からも子育ての悩みや、要望など様々なご意見を聞くことができました。何気ない一言が、今後の改善に繋がるキーワードを含み、対面でお話を聞いて情報収集ができる貴重な機会になりました。家族のライフスタイルも千差万別で、それぞれの家族に子育ての哲学や悩みがあり、子供と一緒に苦難を乗り越えて親も強くなるんだなと感じました。着替え時のストレスのテストは、思うように傾向をつかめるような結果にはならなかったようですが、言葉を話すことのできない、赤ちゃんの気持ちを知る為の第1歩ということで、取り組みは素晴らしいことだと感じています。いつか、赤ちゃんの感じているであろう些細な着心地の違いを知ることができればいいなと思います。

Q4.新生児の肌着を購入・着用する際に、知っておいていただきたい点を教えてください。

宮澤先生ベビーウェアを購入する際に、成長が早い赤ちゃんのことを考えて少し大きめのサイズを購入する方が多いのですが、できるだけ月齢や体重に合ったものを購入していただいたほうが良いと思います。ゆとりが多いということは、肌着の場合、背中にしわがたくさん寄ったり、衿や裾から冷気が入ったり、脇にフィットしない為にあせもの原因となったり、あまりいいことは無いのではないかと思います。 それから四季を問わず、着せすぎには注意してください。寒いだろうと思って重ね着させた肌着が、あせもなどの原因となることもあります。肌着は適切な枚数で、汗っかきの赤ちゃんの汗を適度に吸収し、程よく過ごせるように工夫していただくと良いと思います。
「電車とバスの博物館」での1枚。
アイデアを思いついた時に新生児だった旺太郎くんもこんなに大きくなりました。
加えて、取り扱う上で知っておいていただきたいことがあります。今回採用した、綿フライスという生地は洗濯で縮んだ感じになることがありますが、伸縮する素材ですので着せると元通りに赤ちゃんの体になじみます。また伸縮性に富んでいるという特性上、できれば洗濯後、干すときは洗濯ばさみで留めず、ベビー用ハンガーにかけて干していただくとよりよい状態が長続きします。 最後に今回の新生児肌着のおすすめポイントですが、構造も、縫い目も、縫い方も、今までにはないものになりました。見た目は他の肌着と大きな変化を感じることは無いかもしれませんが、たくさんのご家族のご意見を聞き、赤ちゃんに着用してもらい、赤ちゃんの事を考えてみんなで作った肌着です。私個人としては、自分の子供のためにと始めた肌着づくりですから大変気持ちの入ったものになりました。この新生児肌着は赤ちゃんとお世話をするお母さんやお父さんの為のものですが、着ている姿を見ている私たちも思わず笑みがこぼれるような幸せな気分になります。赤ちゃんの成長に伴って腕のあたりのシルエットが変化していく過程もお楽しみください。

次回はいよいよ7月25日(水)に発売を開始する新しくなった新生児肌着をお披露目します。
宮澤先生の子育ての実体験から生まれたアイデアと、たくさんのお客様からいただいたご意見を融合させて、生まれたばかりの赤ちゃんとお世話をするお母さん、お父さんが気持ちよく過ごせるようにと考えた肌着です。

工夫した点や、改良した点について詳しくご紹介します。