研究テーマ

小池一子氏トークイベント採録(4/5)

2009年11月11日

総合的なライフスタイルが品ぞろえの中でつくられるのです。それを忘れずに、いつも言っていきたいんです。

このレポートは、2009年9月23日に池袋西武店で行われたトークイベントを採録しています。

現代の東洋の美と智恵を導入したいとロンドンから

ロンドンに、パリに、MUJIの風が吹く。(1991年)

1990年代には、世界の主立った都市に、無印良品が招かれるようになりました。
ここで、ロンドン店にまつわるエピソードをご紹介しましょう。そこには、単に日本から出たブランドが業績よく、ものがよくて海外に進出したというだけではない、もっと内側のストーリーがありました。
ロンドンには、東洋から美や知恵について取り入れることを社是にしてきた、1875年創業のリバティ百貨店があります。皆さん、プリントなどでよくご存知だと思いますが、彼等は中国の繻子や、中近東のカーペットなどを輸入して販売し、ロンドンにおけるオリエンタル・スタイルの中心を担っていました。
そのリバティ百貨店の女性プロデューサーから、手紙が来たのです。中には「今の時代に東洋から何を導入するか、私たちは5年間、青山の無印良品に通い、勉強させてもらいました。そして、現在の東洋から導入したいのはこのブランドしかないと思いました」と、綴られていました。私はその女性に会いましたが、本当に無印の大ファンで、なんとかロンドンに無印良品の店を開店しようと、尽力してくれました。
そして、表通りから一本入ったカーナビー・ストリート側に、店を開こうということになりました。カーナビー・ストリートといえば、ロンドンが一番輝いていたときをつくった、1960年代のサブ・カルチャー発祥の地です。当時のリバティの経営者たちが「あらゆることはカーナビー・ストリートからはじまる。MUJIもそうだ」と、興奮していたことを覚えています。

当時、無印良品の名称については、漢字がきちんと使われていて、カタカナや英文表現を使いませんでした。ロンドン1号店の開店に際してもイギリスのチームは、ロンドンでもそうしたいということで、無印良品をそのままローマ字で表現してはどうかと考えていました。
けれども、実際に無印良品は、英語ですごく言いにくかったものですから、打ち合せのときにも、皆さんはこれを省略して「MUJI」(ムジ)と言っていたんです。
そこで、田中一光さんにこのことについて、「MUJI=無地というのは、プレーンという意味ですよね」と話してみたら、すぐに「いいですねえ」ということで、あちらの社長がみえたときに、MUJIというロゴが即刻生まれました。
それ以来、無印良品は海外ではMUJIになりました。今でも私はよその街に行くと、その街にあるMUJIを訪れることが好きなんです。いろいろな都市に出ていったMUJIの、その後発展していった姿がそこにはあります。
ただ、日本の無印良品できちんと言っていきたいのは、無印良品の商品ひとつひとつが、ただ単品としてあるのではなくて、総合的なライフスタイルが無印良品の品ぞろえの中でつくられるということです。それを忘れずに、いつも言っていきたいんです。

生活がみえてくる。(1995年)

このポスターは、新宿の店ができるときに、「人間もまた動物の一員、自然界の一員ということを表現したいね」というアートディレクターの田中さんの考えにもとづいて、山下勇三さんと検討してできたものです。
もしデザインを志す方がいらしたら、よく見ていただきたいと思います。この、墨で描かれた一筆描きのイメージに、企業色のエンジの線が一本入ることで、何かが見えてくる。
そこで私は、「生活がみえてくる」というコピーをつくりだしました。
いつもコピーはいくつか書き、それをアートディレクターが、これでいきましょうと選んでくれました。ライフスタイルというものを考えてほしい、というキャンペーンから生まれたものですが、このときも、3人の楽しい仕事になりました。