研究テーマ

ATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし─編集者の暮らしの目線から─」(2/4)

2012年5月23日

このレポートは、2012年2月19日にATELIER MUJIで行われたATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし」を採録しています。

伊藤 これは30号で山口県の「あえて小さな家」という特集で取り上げたものです。

山田 海辺の街なんですけれども、この家は私が雑誌『モダンリビング』時代に出会った家で、とにかく忘れられない家だったんですね。
そのときは「ローコストの家」というテーマでやったんですけれども、本当に農業用倉庫を利用してつくられた家で、設計は中村好文さんです。
住み手、画家のIさんという方の住み方がすごく惹かれるものがあります。当時はブランド物のイタリアン家具とかがすごくはやりの時代だったんですけれども、このお宅を訪ねたときに、そういうものが1つもなくて、でもとても美しいというか、気持ちがいい、何か忘れられない。1つ1つ家具も彼がちょっとパリで暮らしていたときの安い、のみ市で買ったものだったり、無名のものなんですが、本当に私はこういう暮らしが一番好きだなと思いました。それで実は『住む。』の創刊号のときにも、ここでご紹介したいと思い頼んだのですが、何かちょうど外壁を塗っているところで、「嫌だよ」とか言われて、それでまた何度か、もう追っかけのようにお願いしたのですが、このとき初めて、「そこまで言うなら負けたよ」とかと言ってくれて、訪ねた家です。
素材は本当に安いものしか使っていないけれども、置いてあるものがすべて自分の美意識というか、その視点で選ばれているものなんですね。それと庭がとても広いんです。草花は奥様が世話しています。野菜なんかもほとんど買わずに済むぐらいつくっていらして。とにかく格好いいんですね、しかも。お料理も地元の何かおいしいエビや何かを買ってきてつくってくださったりして。住まいのありようとして、私はこれが、私にとっての原点かなという気がしています。住み手がつくる家ということをもっとも感じた家でした。
猫がいますね。草花も全部自分のところから奥さんが摘んできて入れています。置いてあるものもみんな古い。古道具屋さんで買ったものとか、パリ時代に買ってきたものというのがほとんどです。
これがIさんのアトリエ部分です。

ジャズが流れていて、彼がコーヒー豆をひいて入れてくれて、何か本当に空気感が忘れられない家でした。
この花がいっぱいで、あの1本の木も最初は小さかったらしいんですけれども、これ訪ねたのが家を建ててから23年目ぐらいなんですね、ことしが25年目になると思いますので、大きく育って。

伊藤 ホースが。

山田 長いホースで。このたたずまいを見ると、もう、いかにも農業用倉庫というのがもろにわかります。当時できたばかりのときは、やっぱりこの辺台風がひどいらしくて、雨が壁の中に入ってきたという悲惨なことを言っていましたけれども、結局そこは直して、張り直したということを言っていました。
外壁なんかもご自分で塗り直しているんですね。はしごをかけてやっていて。大変ですねという話をしたら、「まあ、僕は画家だからペイントは同じだよね」みたいな話をなさっていました。

伊藤 アトリエということだと、時間の使い方としては創作活動と庭で過ごすという時間の使い方のバランスなどが気に入っていらっしゃるんでしょうかね。

山田 そうですね。ええ、そうだと思います。

伊藤 ここに写っているのはデレク・ジャーマン、映画監督の。

山田 彼をすごく好きということで。何か似た写真がありますよね。さっきの庭仕事の様子なんかは。
この2階がちょっとした奥さんの寝室というか、そんなふうに使われています。ソファのカバーなんかも奥様が編んだものです。時間がたっぷりあるのでというふうにおっしゃっていました。
これが真横から見ているところで、コンクリートブロックを白くペンキを塗っていますね、あの左の壁は。左にはキッチンと、手前はトイレになります。
家具やなんかも、ほとんど20数年前に訪ねたときと変わっていませんでした。小物がふえたり、ちょっとしたいすがふえたり、そんな程度です。

伊藤 これエントランスですね。季節によって随分変化があるんですね。

山田 随分違うのかも、ええ。私も2度しか伺っていないので。

伊藤 次は栃木県のMさんですね。

山田 栃木県足利在住の建築家です。ご自邸なんですけれども、とてもある意味普通の家です。いわゆる建築家が設計した、いかにもという家では全くありません。ぬれ縁があって、瓦屋根の家で、和室と板の間の食堂があってという、ごくごくスタンダードな家です。これも25年目ぐらいにお訪ねしています。瓦のところが家で、下に見えるのがご自身の設計事務所です。中も本当に普通の家ですが。
軒の深いぬれ縁があって、ここがなかなか気持ちのいい場所です。この庭は奥様がいろいろ考えてつくられているようです。菜園ではなく花とかそんな感じですね。
お子さん3人いらしたんですけれども、もう皆さん独立して出て、このご夫妻で住まわれている家になっていました。

伊藤 このときの特集タイトルは、「内と外の間」ということで。

山田 それで、ぬれ縁のある家を選びました。完全な連載ではないんですけれども、「家物語」というふうにして、基本的に長く住まわれている家を出しています。大抵20年以上は住まわれている家を選んでご紹介しているんです。
ここもやっぱり長く住まわれたことによって、素材もすごく魅力的になっている家という。この方の設計する家は、地元の材を使っていて、とても骨格のきちんとした木造の住宅ですね。その木の使い方もすべて使い切りたいということで、製材所もご自身のところでお持ちで、構造材から小さな板材まで全部使い切るということでなさっています。
2間続きの和室があって、庭に面して。ここもやはりぬれ縁がずっとここまで続いています。

伊藤 2間続きの和室というのも、昔はよくありましたけれども。

山田 そうですね。25年前で、お母様がいらしたんですね。ここが本来はお母様の部屋だったということなんです。
これが台所。これも本当にスタンダードな台所で、ただ、とても使いやすいでしょうという。見た目が美しいとかそういうことではないんですけれども、子供を3人育ててきた台所という感じがしました。

伊藤 山田さん、そういうのはお宅に伺うと、すぐどのぐらいお食事をつくっていらっしゃるかとかいうのは、割合すぐわかるものなんですか。

山田 どうでしょうね。いや、見てはすぐはわからないんですけれども、もちろん話をしていて、あとお昼の様子とかというのを。もちろん1日しかいないですから、よくはわかりませんが、何となく伝わってくるものがありますね。お鍋の数とか(笑)。

伊藤 食堂ですね。

山田 ここが、板の間のところが食堂で、向こうに和室という感じですね。

伊藤 随分立派な木のテーブルが。

山田 これも最初に、家をつくったときに、何か大工さんが持っていた材とかおっしゃっていたのかしら、それを使った。ある意味無骨なテーブルですけれども、使い続けるにはいいなという。ここで何か仕事もしたり、子供たちはよく宿題をここでやっていましたというような話をしていらっしゃいましたね。
今はお2人になっているので、よく自転車で、近くまで映画を見に行ったりするときに自転車を使っていて、ぬれ縁に自転車を置いちゃっていますということなんです。

伊藤 随分幅の広いぬれ縁ですね。

山田 本当に広い、1間以上あるぬれ縁ですね。向こうがもう田んぼのところです、位置的に。

伊藤 洗濯物がどんとぬれ縁の前に干してあります。

山田 そうですね、普通は建築家の設計だと見えないところにとか、そういう配慮が行き届くんですけれども、あえてしていない(笑)。奥さんはぬれ縁のところで洗濯物を畳んだりとかしていらっしゃいます。取り込んで、そこで畳んで。ただ、障子がそこに入ります。障子のいいところは隠せるんですね。それで見ると、もう何か見えませんよねという、自慢もなさっていました。本当にやっぱり日本の建具のよさってありますよね。半端にしておいても、その位置がおかしくないという。
ここは日本の家の伝統的な家というか、それを今に生かしているという感じですね。
2階の子供の勉強部屋の窓です。そこの子供の勉強机には小学校時代のいたずら書きとかが残されていて、何か5人家族の暮らしの痕跡というか、それがすごく感じられる家でした。
向こうに見えているのが、製材というか、端材を使って、ご自身の工場です。みずからも板材をつくったりしていらっしゃいます。

伊藤 誌面の中で子供さんの「ネバー・ギブアップ」とかいう受験のときの書き込み、そういうのもそのまま残っていると(笑)。

山田 そうです。今、お1人が戻られて建築を継がれるようです。
これがさっきの和室のところの地窓から向こうの田んぼの緑が見えて、これも気持ちのいい光が入ってきます。

伊藤 ここは風も通りますね。

山田 そうですね、もちろん。だから日本の家のやっぱり風通しのよさとか、地窓というのは大きいものだと思います。
これがさっきお話しした、ぬれ縁で洗濯物を畳んでいる姿です。

伊藤 気持ちよさそうですね。いろんな作業がここでできると。子供さんたちもここで遊んで。

山田 ええ。それで昔の写真なんか拝見すると、子供たちが、近所の子供たちもいっぱい集まって、ここで遊んでいる姿のスナップ写真とかを拝見することができました。