研究テーマ

ATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし─編集者の暮らしの目線から─」(3/4)

2012年5月23日

このレポートは、2012年2月19日にATELIER MUJIで行われたATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし」を採録しています。

伊藤 では、次の家に行きましょうか。

山田 埼玉県所沢の若いご夫妻の家です。

伊藤 「小さな『農』に向かう」という特集での家ですね。

山田 そうです。農業ではなくて、あくまでも農というか、耕すことを身近にという人たちを選んでいます。

伊藤 まだお若い。

山田 そうですね、30代前半ぐらいですね。かなり広い畑。これは基本的には奥様がほとんどなさっているということです。

伊藤 こちらのお家にいらっしゃるまで、全然土をなさっていなかったというようなことを。

山田 そうなんです。それで本だの、そういうもので勉強して始めて。でもかなり上手にいろいろ野菜はできていました。小屋はご主人がつくっているんですね。とても上手です。もう、びっくりするぐらい。ここで農作業のすべて、長靴から土から入っているんですね、道具から。

伊藤 大きさとしてはどのぐらいの小屋ですか。

山田 1坪弱ぐらいでしょうか。

伊藤 でも大変働き者の小屋ということですね。

山田 私は平屋がとても好きで、環境を邪魔しないというか、あまり存在感が強いものよりは、とけ込んでしまうのが好きです。

伊藤 これは薪ですか。

山田 そうです。もう、相当ストックしています。薪ストーブを土間のスペースに後から入れたんですね。そのための薪を、やっぱりご主人が薪割りをして入れているようです。

伊藤 これで1年分? 何年分か? ですね。

山田 いや、そんなに。1年分ぐらいではないですか。
ここが、この家は板の間なんです。それでいろりのようなものがあって、あとは畳、テーブル、座卓ですね。いす生活ではない。

伊藤 若い方で座る生活、いすを使わない暮らし方をなさる方、今いらっしゃるんですね。

山田 いらっしゃいますね。掘り炬燵形式にしたほうが私は楽だと思います。実はちょっと、私は座卓、苦手です。足がしびれて。ただ、許容量が多いというのはありますね。いすの数が要らないから。

伊藤 あれは障子なんですね。

山田 雪見障子なら逆ですよね、上が。

伊藤 目隠しというか。

山田 上にも上がりますので。
ここが、黄色く写っているんですけれども、土壁です。台所ですね。これもとても機能的ないい台所です。下は割とオープンな形で。

伊藤 畑で収穫したものを、ここですぐ調理なさる。

山田 そうですね。縁側からこう入ってきたりなさっていますけれどね。伺ったときが夏だったので、ほとんどこれはあまり使っていませんという。

伊藤 ここはおふろですね。

山田 おふろも見晴らしのいい。
これが食事中。向こうにいるのが建築家の方です。キッチンが少し低くなっていますので、キッチンに立っている人と、座で座っている人との目線が合うようには計画されています。
ここが玄関なんですけれども、裏庭に行く通りといったらいいでしょうか、たたきのスペースがここまで貫通しています。私は「土間」というテーマも本当に好きで、外とのつながりがとても深くなります。

伊藤 次はマンションの改修をなさった家ですね。特集が「時をつなぐたしかな改修」ということで。

山田 築25年ぐらいのマンション、中古のマンションを買って入るときに改修して住まわれたそうで。ここはMUJIの収納をとてもうまく使っていらっしゃいます。

伊藤 これですね。

山田 グッズとしてのおさまり方など規格があるので、とても使いやすいなと思うんですね。この家も本当に上手に使われています。この改修設計した方が使い方がとても上手なんですね。それで一度、収納のテーマのときに、市販の素材を使って収納を考えてくださいというテーマでお願いしたことがあって、そのときにも示されていたやり方なんですけれども。
このちょっと小上がりになっているところの下の部分、引き出しになっているんですけれども、実はMUJIの収納を使っているんですけれども、前面に板を張っているんですね。それでポリプロピレンというか、その材が見えないというか。

伊藤 開けると、こういうふうになって。

山田 ええ、中はMUJIのです。それで前面に板を張ることによって、さっきの小上がりの感じに全然違和感なくおさまっているという感じです。
寺林さんという建築家はご自身も小さなお子さんがいらっしゃって、子供のおむつをかえたりするときにも、ほこりが入らないとか、とても細かな日常の気配りを感じるような設計をなさる方です。それでこの小上がりを勧められたというふうにおっしゃっていました。
これが全体の感じですね。奥のほうは細い感じで書斎スペースのようにして使っていらっしゃいます。お子さんの勉強部屋でもあるし、3つ並べて家族3人の書斎コーナーという感じですね。
冬は掘りごたつ式に使うことができます。だから収納は手前の部分だけなんですね。

伊藤 よく計算されたというか、寸法がとられているというか。

山田 そうですね。

次は特集「小さな畑と台所」というテーマでアーティストのNさんの家です。だからこれもほとんど彼が自分でつくっているような家なんですけれども、どこをとってもやっぱり絵になるという感じで、窓のスペースと作品というのが絶妙なバランスで。
大橋歩さんの『アルネ』に出ていて、台所小屋として紹介された家だったんです。それでいつかここにお訪ねしたいなというふうに、小屋好きの私としては思っていました。でも、ここまで農というか、耕すことをやっているとは実は思っていなくて、それでお電話をして聞いてみたら、「野菜もつくっています、いっぱい」とおっしゃられて、それでもう大喜びで出かけたという感じなんです。
段々畑です。全部ご自身で土どめをして、畑をつくられました。

伊藤 最初は畑というよりはアーティストのイメージでしたね。

山田 そうです、ほかの本でも紹介されているのは。ここまで段々畑をなさっているとは、行って初めて知ったという感じだったんです。これはテラスで食事をするんですね。台所小屋でつくって、このテラスで食事をしようというシーンです。
その次が、トイレなんですけれども、これもトイレ小屋があって、これも何かすごくないですか(笑)。トイレが2つ並んでいて、交互に、ここがいっぱいになると次にこっちを使うんです。堆肥にしていくんです。それが、土の中深いので全然見えないですし、実はエコのぽっとんトイレとかちょっと苦手なんです。行く前にこの話を聞いていて、ちょっと嫌だなと実は思っていたんですが、これが全然。上が開いていて通気もいいですし、何か本当にこれインスタレーション? みたいな感じの。私は感動しました、美しいです。木の床でブリキのあれがぽんと置いてあって、あそこにもみ殻が入っていて、した後そこにかけるようになっているんです、自分で。それで堆肥になっていくものなんですけれども。

伊藤 それも何かアートの行為のようですね。

山田 本当に、これはちょっと感動して。それで写していいですかというのをお願いしたら、ちょっとびっくりされたんです(笑)。これを写しますかみたいな感じで、ちょっと難色を示したんです、ここはちょっとみたいな。そうしたら結婚したばかりの奥さんが、「いや、それはいいんじゃないですか。私も好きです」と言ってくれて撮影できたというエピソードがあります。
これがアトリエ側のところで、この上に寝ているんですね、階段を上がって。その次も同じです。家と、さっきの台所小屋と右側、アトリエの関係がわかると思います。 今、左側が屋根のあるところ、そこにちょうど五右衛門ぶろを自作でつくっていらして、できたようです。

伊藤 『住む。』では、何回かに渡り長い時間、ご家族、家を追いかけるということがあると思うんですけれども、最後のこのお宅は、まさに長い期間、取材したお家ですね。

山田 北海道の真狩村というところで、羊蹄山のふもとなんですけれども、そこでパン屋さんをやっていらっしゃるJさんという方の家です。パン工房の方は中村好文さんに依頼したという。
ここはガレージキットを使った、これもほとんどセルフビルドの家ですね。パン工房のほうの画像は本日はほとんど持ってきていません。もちろんパン工房もすばらしいものができているんですけれども、ガレージキットを使って自分でつくったこの家、最初に行ったときに感じたのは、ただ小さな家をうまく住んでいるという何でもない家でした。さきほど登場したIさんと考え方が似ているんですけれども、Iさんのところは美意識がつくっている家ですが、ここはそういうこともなしに、ただ。 ツリーハウスをつくりました。ここがパン工房ができたところですね。外観が本当に、羊蹄山があのように見えて。

上の写真は、新しくできたパン工房とパンのお店です。
新しくしてから、このやっぱり小さな家をうまく仕切って、この裏側に子供のデスクが置いてあります。とても奥様が趣味のいい方で、きれいに見事に住まわれていました。

以上です。