


MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
団地リノベーション完成 ここだけの話 2018
※このレポートは、2018年1月14日に多摩ニュータウン ベルコリーヌ南大沢集会所で行われたトークイベントの模様を採録しています。
- 松本
- そもそもリノベーションとは、古いものを新しい価値で見直すところが一番のポイントと思っています。実際、現地を拝見させて頂いて、団地の良さ、例えば日当たりや風通しといったものが非常に良かったのです。
最近のマンションは容積いっぱいでつくられていますので、日当たりや風通し部分まで考えられているマンションは意外と少ないですけれど、40年前、50年前に建てられた団地は、本当に敷地が広く、住まいの中の本質的な部分を持たれているなということがありました。
それをわざわざ大きく変えてフルリノベーションする必要もないという考えに行き着きました。
- 松本
- 古くなった住戸をすべてなくして、新たにつくり直すのではなく、それまでの歴史を生かして、残すことで、新築ではできない魅力を出すことを意識しました。
例えば、古い柱や鴨居といった木部は経年変化をして味わいがあります。団地の象徴の1つと考え、残すことで空間のアクセントとしました。
水まわりは、やはり衛生面でも新しくするべきところととらえ、積極的に変えている部分になります。
- 松本
- 3つ目のキーワードです。今までは住宅すごろく、といわれるように、まず社会人になって1人暮らし、結婚して賃貸アパート、子供ができたので家を購入する、というのが一般的でしたが、家を購入する以上に賃貸に住むことを魅力的にしていきたいと思っています。
そもそも、賃貸に住むというのは、大変身軽で、住みたい街に好きな期間、住むことが可能です。それ自体は大変魅力的なのですが、賃貸住宅は、間取りが決められていて住む人が勝手に変えられず、住む人がそれに合わせないといけないということになります。ライフスタイルが多様な昨今においては非常に窮屈だなと感じます。そういった暮らしを解放することを考え、住み手が自由にできる部分、住み手が自由に編集できる余白のようなものをつくることを考えました。
- 松本
- リノベーションで大切にした考え方について。これは6年前から変わりません。引き続き、「生かす」「変える」「自由にできる」ということを大切にしました。
- 生かす:古くなった住戸をすべてなくして、新たにつくり直すのではなく、今そこにある古いものを新しい価値観で見直し、古くても魅力的な部分は生かしました。
生かした代表的な部分です。こちらはリノベーション前の状態です。木の柱や鴨居に注目してください。古い柱や鴨居といった、時間の経ってあめ色に変化した木部は、団地の象徴の1つと考え、残すことで空間のアクセントとしました。


- 松本
- 以前は押入だった部分は、襖をはずして、部屋とつなげました。部屋の一部としても使えますし、収納としても使えます。また、押し入れのかたちはそのまま残して白く塗装することで、古い団地の記憶を残しました。

Before

After
- 松本
-
リノベーション前の扉です。こちらも全体の雰囲気に合わせて塗装をして残しました。
古くてもシンプルで使いやすい機能と形のある取手を残しました。このような部分は、昔から変わらない普遍的な良さがあります。


- 松本
- 変える:水まわりなど、変えたほうが魅力的になる部分は積極的に変えました。
キッチンです。団地に合うように、食洗機やディスポーザーなどはつけず、必要最低限の機能をコンパクトにまとめたオリジナルの持出しキッチンです。特長的なのは、収納がないということです。それも住む人に自由に編集してもらう「余白」としています。

Before

After
- 松本
- 一般的な縁のある和室の畳は、古めかしく感じることがあります。また、畳にはテーブルやソファやベッドは置きにくいです。団地には、和室がたくさんあり、3DKの部屋全部が和室というものあたり前にあります。ただ、畳は遮音性が非常に高いのがよいところです。
じつは、URさんの場合、畳の部屋をフローリングにするとき、畳と同程度の遮音性が求められます。そしてその仕様で、畳の部屋全てをフローリングにすると大幅にコストがかかります。
そこで、MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクトでは、麻畳という新素材の畳を開発しました。麻畳は表面が強いので、床に座る生活だけでなく、テーブルやソファを置くこともでき、和風はもちろんのこと、洋風の暮らしでも選ぶことができます。


- 松本
- つまり畳だった部屋を、現代の暮らしにあう畳に変えるのが一番コストがかからないということです。麻のよいところは、い草と比べて表面が強く、床座としてはもちろん、テーブルやソファやベッドを置いて洋室として使用することも可能です。
また、日焼けによる経年変化がほとんどんないので、い草のような色あせがありません。そして畳なので、遮音性もそのままです。非常にお客様に好評の麻畳です。
そして配線類。通常、電気の配線が整理されていない状態になっており、躯体がコンクリートなので後から付けたものはすべて露出配線になってしまいます。
僕が一番衝撃的だったことの一つですが、本当に古い団地だと、なんと部屋にスイッチがないのです。多摩ニュータウン永山や町田山崎団地などがそうでした。写真のような樹脂製モールはどうしても見た目の印象がよくありません。電気の配線が整理されていない状態になっています。
そこで、電気配線を整理し、リノベーション空間の雰囲気に合うカバーをつけました。横引きは木製カバー、縦方向はPF管とルールをつくることで、どのプランでも同じテイストを保つことができるようにしました。

Before

After
- 松本
- 自由にできる:一般的な賃貸住宅は間取りが固定されていて、自分の暮らしを間取りにあわせなければならないことがデメリットに見えていたのですが、そういった暮らし方から解放されるよう、住み手が自由にできる部分をつくりました。

リビングとして床で過ごす

ダイニングとしてイスで過ごす
- 松本
- 無印良品のシェルフを組み合わせて間仕切としても使えるようにしました。暮らしによって間仕切りかたを変えることができます。

シェルフでの仕切りがない場合

シェルフでの仕切りがある場合
- 松本
- ダンボールふすまは軽いので移動が簡単です。空間の使い方は、ふすまの仕切りかたによって変えることができます。

ダンボールふすまがある場合

ダンボールふすまがない場合
- 松本
- 押入れは奥行きが深いので、もともとは布団などサイズの大きなもの以外の収納は扱いにくかったのですが、シェルフを並べることで洋服や生活雑貨など小さなものも収納しやすくなります。ふすまを取り払うことで、部屋の延長としても使用が可能ですし、カーテンをつけて収納とすることも可能です。床の板張りは意匠的なことだけではなく、部屋の延長としても使用できるよう、床の補強も兼ねています。
このように全部をこわすのではなく、ここはもともと押し入れだったんだな、とわかるように残すのも空間のデザイン上のアクセントになっています。


- 松本
- 空間の有効活用としては、通常はカーテンレールをアルミサッシから持ち出していますが、棚を設け、そこにカーテンレールを設置しています。このことで、棚上に絵や小物を置いて部屋のアクセントにできるようにしています。右の写真はさらにその進化形で、持ち出した板とサッシをぐるりと囲むように設置しました。そうすることで、サッシ上は棚として、サッシ下はミニデスクとして、またベンチとしても使用できるものを今年度は新たに開発しています。

