MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト リレートーク vol.5
世界の団地再生・日本の団地再生

※このレポートは、2015年3月11日に行われたトークセッションを採録しています。

松村
ただ今ご紹介いただきました松村と申します。今日は一般の方の目線で、建築がどういうものか考えようという講義にしたいと考えています。タイトルは『世界の団地再生・日本の団地再生』。
今日お話しする内容は少々古く、今から14年前くらいの研究データですが、そんなに状況は変わっていないと思います。団地は日本特有のものであると思っている方が多いと思いますが、実は世界中にあります。大抵、近代化が進んで人口構成が変わっていくと都心部で特に大型の集合住宅が必要となります。これは、新しい家族をつくっていく人たちの住宅需要が大量に発生していることと見受けられます。その時に団地という形式で住宅がたくさんできれば、効率よく密度高くつくれるという発想は当然のことです。そのため団地というのは世界にどこでもあるような一般的な居住スペースです。
日本よりも先に団地をつくっている国はヨーロッパです。1990年ごろ、海外の、特にアジアの学生や研究者から日本の建物のつくり方が結構効率的にできているから、それを勉強したいという声がたくさんありました。中国、韓国あるいはマレーシア等、様々な国から。日本がかつて一番団地をつくっていた時期が1970年頃で、その頃にいろいろな建物の組み立て方、その効率化のような方法論が出てきています。それを勉強したいという国から1990年頃に次々と来日してきました。
しかし、その際、1970年代に高度に発展した技術でつくった団地が人々の住まいとしてどんな状況になっているかをそもそも知らないと、いくら技術を伝えても本質的なことは教えられないのではと思ったのです。実際、1990年頃には老朽化してきているところもありましたので、日本よりも早く団地をつくってきたヨーロッパあるいはアメリカの工業化した団地というのはどうなっているのかと調べ始めました。

その時にスウェーデンの友人からこの写真が載っているレポートが送られてきました。
松村
これはストックホルムで1960年頃に建った団地の一つの建物です。これが単に建て替えられたものならレポートにするほどのことでもないのですが、何故これがレポートになったかといいますと、スウェーデンにとって、建て替えずにもとの建物の不都合な部分を大胆に直し、再生させた初めての事例だったからです。
例えばもとの外観が全部コンクリートのむき出しのためグレーで暗い。さらに、あんまり人からも気に入られなかったということがあります。それから駐車場整備をしていないところに車がどんどん増え、道だったところに車が停まるようになってしまった。それからガラスの窓が見えますけれども、当時1960年ごろは北欧でもサッシはアルミサッシで、ガラスが一枚ぐらいしか入っていないので寒かったのですね。
松村
こちらはリノベーションされた後ですが、まず外壁の色が黄色っぽく変わっています。鉄筋コンクリートというのは建物の構造にとって大事な部分で、中に鉄筋が入っています。コンクリートが雨風にさらされ、あるいは暖かい日射の後で夜に寒くなるという気候変動の繰り返しの中で、劣化していきます。そして劣化していくうちにクラック(ひび割れ)が入り、そこから雨が染み込み、徐々に中の鉄筋が錆びます。鉄筋は、錆びて酸化すると体積が増えます。そして鉄筋が錆びて膨張してくると、表面にあったコンクリートを押し出し、最終的にはボロッとコンクリートが落ちてしまいます。さらに、コンクリートの防護がなくなり雨が入ってくると鉄筋が更に錆びて、なくなってしまいます。そうすると建物を支える構造として期待していた性能を完全に無くすということが起こります。この現象は何十年もかけて進んでいきます。それに対してリノベーション後の建物は、コンクリートの壁の上に断熱材を取り付けて、さらにその外側に外壁をつくりました。そのためもとの外壁面よりも30cmくらい外に出ています。鉄筋コンクリートを劣化要因から護り、断熱性が上がるばかりでなく、色や質感を変えて外観も一新することができます。

それからサッシを見ていただくと再生後の写真ではトリプルのガラスが入っており、プラスチックサッシに全部窓が変えられています。それによっても断熱性が非常に高くなっています。最近のスウェーデンのエネルギー基準は厳しくなり、あまり暖房にエネルギーを使わないようにしようという方針が出ており、建物の断熱性を高めないといけなくなっています。

そして、この建物はもともとバルコニーがついていなかったのですが、住人にバルコニーが必要かアンケートを取って、その結果欲しいということだったので設置しています。
それから、1階から4階あたりに少し突き出ているところがありますが、ここは増築しています。この部屋にはもともと10人程の大家族が住んでいたのですが、さすがに手狭なので増築してあげたそうです。
また、かつては車が乱雑に停められていましたが、ここにもお金をかけて駐車場をつくりました。こうしてそれぞれの要素を分解していくと、何をやっているかがわかり、ここまでやったらもう建て替えるのと遜色ないくらいのコストなんじゃないかと思われますけども、敢えてこういうことをやっています。

スウェーデンだけではなく、フランス、ドイツ、アメリカ、デンマークの知り合いの研究者を訪ねまして、ちょっと日本に来てくれないかと招集しました。その時それぞれの国で行われている団地再生について調査してみようということになり、調査した結果をまた持ち寄って日本で分析することになりました。
松村
調査結果を今からお話しますけれども、この研究を1990年代半ばに始めたところで、もう一度各国を訪ねて行ったことがあります。アメリカに行ったときに、南の方のほぼ黒人しか住んでいないところに行ったのですが、この方向に自転車くらいのスピードで走っていたのですが、5分~10分くらいずっとこんな感じで続きます。よく見たら全部窓がない。窓がないどころか窓のサッシもなにもない。屋根も壊れていて、一切人が住んでない。これはアバンドンド [abandoned]という「捨てられた住宅地」。つまり団地再生をしなければ、最後はこんなことになるということをアメリカは身をもって教えてくれました。
どうしてこんなことになっていったかというと、もともと欧米の団地というのは日本のUR団地と違って、比較的所得の少ない人たちが集中的に入ったケースが多いです。はじめ、家賃が低く抑えられるというような公共集合住宅ですけれど、入居者からあまり家賃を取っていないがメンテナンスの費用は発生する。でも設計とか施工の質が思ったほどよくないとすぐに雨漏りしやすい。その修理を持ち出しでやるのかといったら、なかなかできなく雨が多少漏っていても仕方ないとなる。そのうちに、そこら中から雨が漏ってき、そこの家賃よりも高い家賃を払える人は外に出て行きその家賃までしか払えない人たちだけが残っていく状態になる。そうすると最終的には家賃収入が減り空き家が増えていく。減っていくとなおさらコストはかけられない。最後は社会的弱者、収入の低い、場合によっては収入のないという老人の一人暮らしとか、あるいは母親と子どもだけのしかもお母さんがちゃんとした仕事を得ていない、そういった人たちが残っていって大変治安も良くない状態になります。そこで住んでいた世帯を別の場所に移すと[abandoned]が完成します。そして残された団地は壊すのにもお金がかかりますし、建て替えるとなったらもっとお金かかりますから、このまま放っておくと、そこが街の中の癌細胞のようになる。街全体の価値も下がっていく。そのため、この状態になる前に投資することで、住宅地としての価値を再生する仕組みを作っていかないと駄目だということになります。これが団地再生の根本的問題であるということを欧米の方から教わりました。