MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト リレートーク vol.5
世界の団地再生・日本の団地再生

※このレポートは、2015年3月11日に行われたトークセッションを採録しています。

松村
日本は当時、それ程深刻な問題はありませんでした。例えば団地が全部もう空き家になりそうだとか、あるいは犯罪の巣になっているとか、あるいは経営難でもうどうにもならなくなっているとか、そういう問題は欧米では顕著に出ていましたが、日本ではさほど出ていませんでした。欧米では、非常に深刻な社会問題と団地の問題は密接に関わりがありました。当時日本では何が起きていたかというと、バランス釜型の風呂を大きくして新しいバスタブに取り替え、給湯器を外に付ける、というような設備の更新等をしていただけです。しかし、日本でも今団地の問題はかなり深刻になってきています。
松村
今どういう状況かというのを団地を含めてお話しますと、日本では、現在一人当たり住宅を0.48戸も持っている。本来はつくる必要が全くない。一方アメリカは0.42戸です。アメリカは、戦災をほぼ受けていないため、第二次世界大戦より前にあった住宅はほとんど戦争では壊れていない。日本はほとんどの大都市が戦災に会い戦前のストックを引き継いでおらず、戦後に建てただけなのに、アメリカより一人当たりの住宅が多くなっています。どういうことかというと、日本は戦後これまでものすごく一生懸命建ててきたということです。例えば戸建住宅。月々20万くらい返してる方もいらっしゃるようなローンを組んで、借金をして投資、家賃も投資、それで建設業は「3K(汚い・キツイ・危険)」と言われながらも延々と家をつくっている。それでやっとこの充実した量のストックを持つに至ったということをまず全員で感謝しないといけない。お陰様でこのストックをなんとか生かしていこうよという時代を、我々から次の世代は迎えることが出来たのです。もう建てなくていい、もうローンを組まなくていい、もう土日も休まず働かなくていい。建物に関して言うと、空き家がいっぱいでてきているのをうまく使っていくともうちょっとみんな豊かになるよね、という時代を迎えている。

この流れで、日本には非常に面白いことが起こっているんです。社会階層がかなり特定の階層に固まっているヨーロッパやアメリカの団地問題とはちょっと感じが違うところがあります。
松村
「多摩平団地」という昭和33年から35年に供給された団地について紹介します。殆どのところはUR自身が既に建て替えて新しい10階建て程度の集合住宅になっています。ただ5棟だけ4階建ての階段室型、50年以上前のものがそのまま残っていて、空き家になっていました。この建物を今ではURが事業者に貸しています。事業者から建物の家賃を払ってもらって、そこで収益性のある事業をしてもらう。その代わり、URでは出来ないような新しい事業ができないかということで、新しいタイプの住まいとコミュニティが生まれています。一つはシェアハウス。もともと30戸あった住棟で、一つの住居を三人がシェアするかたちで間取りをつくっています。1階には共同のキッチンや洗濯場、シャワールーム群もあり、結構良いお家賃でも入っているのですが、ここは経験のある事業者が経営をしています。もう一つは高齢者向けのサービス付き住宅。そこは自分たちで投資してエレベーターを新たにつけて、それでも充分収益が上がるような事業の組立をして、実際に高齢者の方がお住まいになっています。
二棟をシェアハウスとして若者に、もう二棟は高齢の方に。その住棟の間には菜園付き住棟があります。これは昔の団地の良さで、建物と建物の間の間隔が広い。そこを菜園にして貸し出しているのです。事業者は3社、これを一緒に一つの街にしていこうという取り組みです。今までも住居の中を変えて新しいタイプの人に住んでもらおうという取り組みはもちろんあります。しかし新しい人たちが団地に入ってくることで、団地の中に新しいコミュニティが出来ていく。ここでは、高齢者の人たちと、若い人と、菜園付き住宅のご家族たちで餅つきや、しょっちゅうパーティーもやっています。とても楽しそうです。
ここでは、もとのURに住んでいた住人が、シェアに住んでいる学生と手紙のやり取りをしていたりします。団地を綺麗にしていくのはもちろんのこと、そこから入ってきた人たちとどういう新しい街をみんなでつくっていくかということまで組み込んで、しかも非常に楽しげです。先ほどお話した欧米の事例の中には、こんな楽しげな感じのところはなかった。日本ならではの新しい団地再生だなあと思いました。

それからもう一個最近の事例ですが、いわゆるセルフリノベと言われている動きもご紹介します。少し前まで日本の賃貸住宅は、釘を打つとだめ、画鋲でもだめ。世の賃貸住宅は、出て行くときに敷金として預けていたはずのお金から全部引かれてほとんどなにも返って来ないよ、という噂が流れている。そういう“原状回復”というもとの状態に戻してください、それはあなたの責任です、という契約があるんですね。しかし、これだけ空き家が出てきていると建物オーナー側がその契約の内容を解除してしまうという作戦も出てきています。

写真提供:メゾン青樹

松村
これは「メゾン青樹」という、この世界では結構有名な会社が運営している“ロイヤルアネックス“という民間の賃貸マンションです。オーナーの青木純さんは、親から事業を受け継いだ時点で空室率が高く、とんでもないことになっていたと。どうしようかと考え、思い切って「自由にやっていい」っていうマンションにしちゃおうよ、ということで自由に壁を塗ったり、キッチンを変えてみたり、仕上げ材も選べるというかたちにしたら、これがバカ受けで、そういうことが好きな人たちが集まった。集まってきた人は嗜好が似ているので「みんなで◯◯さん家の壁塗ろう!」という声かけがあったりして、楽しく工事したようです。そこでコミュニティが生まれるという、およそ僕の世代では考えられない、そういった賃貸マンションが年々日本中で増えてます。
松村
これは、福岡の“吉原住宅”です。賃貸を経営している人たちが、セルフリノベーション可能な物件ですと言って情報出すと即決まるそうです。つまり、自分でいろいろ改造したいと思っている需要のほうが供給より多い。福岡ではまだ供給が少ないので、福岡では「セルフリノベ物件です」というだけで即日いっぱいになる。そういうことが起こっています。

大変面白い動きで、この人たちが言うには「賃貸こそフリー」だと。従来は賃貸に我慢して住んでいるというイメージがあるので、お金を貯めて、ローンを組んでマンションを買って自由になるという勝手な思い込みをしていたけれど、この賃貸住宅に関わる新しい取り組みは、『賃貸だからこそフリー』だと。まずローンフリー、それから、セルフリノベ。分譲だといずれ中古で売らなきゃいけないと考えて、実はあんまり自分で改造しないことが多い。しかし、この賃貸のオーナーがやっていいって言っているから自由にやれる。今、賃貸が一番自由であるという人たちが増えています。
都市での取り組みとしてMUJI×URのプロジェクトも含めて、社会問題をどうしようかという感じではなく、もっと楽しくこの国民的なストックを皆で楽しく使って住んでいこう、そのための資源として空き家などを積極的に使っていく時代になると思います。そんな風にしている国あんまりないと思います。世界の中でも日本って最高と言われるような団地再生を進めていただければと。私はあくまでも観察者です。誰かが楽しくやっていれば、より楽しく報告できる。そういうことで今日は終わりたいと思います。 どうもご静聴ありがとうございました。
土谷
ありがとうございました。さきほどの外観の話で、日本のUR団地ですが、内装については比較的自由にできますが、外観を自由にというとなかなか難しい。断熱性やさっき言ったように増築しちゃうとかこの辺になるといわゆる生産、家の問題になるので難しいんですけれども、そのあたりはどうお考えですか?
松村
そうですね、一つはこの写真の例なんかは、建物の外観は真っ白に塗ったり青く塗ったりそれぞれの色をやり断熱なんかしてない。
日本では今、「こんな団地が好き」という団地ファンが結構出てきています。つまりある種の昭和的な、今どうしても再現できないような団地の感じ。1960年代の団地。1970年代以降の団地。1960年の団地に学生を連れて行ってみたら「かっこいい!」と言っていました。現代では再現できない、ある時代だけが持ちえた感じをプラスで評価する人たちが入ってくる分には、そこを思い切って変える必要はない、ということになりますね。
もう少し専門的に言いますと、断熱材は室内側に入れたほうが工事費を安くできる。それを室外側に付けるとなると結構工事費がかかってしまう。それを家賃で回収しなければいけないとなると、結構難しいことではありますね。ただ北欧では、外側に断熱材を付けないと生活ができないということですね。日本では生活に影響がないので、そこまでお金かけて性能を上げたいということではなく、こんな外観でいいの?って。玄関なんて、いきなり階段からすーっと入っていく、これが良いと思う人もいるから。
多摩平団地の外観の話ですが、さっき申し上げたように事業者が3社いて、それぞれ外観が全然違うものになっています。色を塗っただけ、だけど全体雰囲気が俄然変わっちゃったっていうことです。
土谷
ありがとうございます。多摩平団地は素敵ですね。大きな改修をしないけど、色を変える。MUJI×URは一戸ずつリノベーションしてきました。しかしインパクトとしては大きいものだったと思います。MUJIの部屋に住みたい人が集まってくるという仕掛けをつくってきました。
団地は、階段室があり、北側も南側も開いていて、緑も育っている。しかし一方で冬は寒く、断熱性能は低い。こういった団地の基本性能を解決する仕組みはないんでしょうか?