


MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト リレートーク vol.5
世界の団地再生・日本の団地再生
※このレポートは、2015年3月11日に行われたトークセッションを採録しています。
- 高原
- 断熱性能ですか、難しい課題ですね。まず、建設当初目指した二つの性能水準についてご説明します。団地の性能水準ともう一つが住宅の性能水準です。
団地性能水準についてですが、考え方として、我々UR職員は先輩から、集合住宅というのは本当は戸建に住みたいけれどもやむを得ず、または一時期住まわれる方が集まっている環境において、戸建では享受出来ないことを「集合する」ことのメリットとしてしっかり打ち出すことを団地の配置で考えなさいと教えられ、日照・通風・プライバシーに配慮した住棟、プレイロットや人車分離の安全な空間、災害時の設えなど“団地の配置”は比較的良いものをスペックとしてもっていると思います。
一方で、住宅そのものについては、日進月歩で要求が高まっていますが、やはり断熱性または遮音性という部分が課題としてあります。日本では外断熱はコスト的にも技術的にも難しいという中で、内断熱の形で断熱材の基本性能を少しずつ上げていこうとしています。サッシも木からスチール、スチールからアルミ、アルミもまたカバー工法で賃貸住宅の改修の流れを汲んで変化しています。ただ、例えば「玄関ドアをなんとかしてよ」というご指摘があっても、改修費用の回収をどうしていこうか、ドア単体では少額でも全体ではとても高額になってしまう。この辺りは、お住まいの方々とのお話合いを重ねながら少しずつ進めるというのが当面のところです。今MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトなど、少し家賃が引き上げられるようなものについては基本性能を上げて団地の魅力を高めています。 また、遮音性も新しい素材や仕組みを入れ、技術開発をやっていきたいと考えています。 - 土谷
- 意地悪な質問でしたけれども、確かに基本性能について非常に難しいということは今言われたとおりです。しかしそれを上回るほどの魅力というのも団地にはあるかなと。その中で一つ先生のほうからお話があったように“コンバージョン”についてうかがいたいです。例えば住宅がオフィスになったり、オフィスがシェアハウスやダイニングになったり。あるいはカフェがあるような集会室をライブラリーに。住宅として使っていたものを別の用途に変更する。それ以外にも中だけじゃなくて街にも開いていく、その点についてちょっとお聞きしたいと思います。
- 松村
- 団地の良さというのは、一棟だけ街に建っているマンションとは全く違って、屋外を含めて計画されていて、非常にしっかりした外の空間の中にあるっていうことと、やっぱりそれだけの人間が住んでいるというコミュニティ、街であるということですね。だから、街があるということはマイナスになることっていうのはないですけれども、プラスにしていこうというのが今の社会。日本の住宅地、本来の住宅地は全部そうですけれども、住宅だけが建っている。もうちょっと地方の山間部で過疎を圧倒的に先に経験したエリアではIターン現象起きている。どんどんそこに新しい仕事の人たちが入っていくということで、住宅だけではない方向で街が変わっていく。住まいだけやっていては仕方ない。URさんの団地は結構法律で飲食店などにするのは厳しいようですが、住宅以外、宿にしちゃうっていうのもある。オフィスはオフィス街、住宅は住宅街、その間を通勤するという20世紀的な日本人の生き方のモデル。これ自体が変わっていく時代に邪魔な規制を解除することも必要です。URさんも高齢者のための福祉施設を団地の中にいれていくっていうチャレンジを既にしていますけれども、いろいろな用途の空間とサービスがこれからの街をつくっていくのだろうと思います。またそこで新しい仕事をする人たちが、住宅なのか仕事場なのかわからないまま使っているというのもすごく面白い。これから10年ぐらいの間に、こういうことはどんどん起こるでしょう。
- 高原
- URは政策的な位置づけがもともとあります。平成19年にリノベーション設計チームが発足し、取り巻く規制を一度とっぱらって思う存分やってみよう、ということで、西東京市・東久留米市のひばりが丘団地で、また西日本支社では、もう少し地に足を着けたかたちで、堺市の向ヶ丘団地で住棟リノベーションを実施しました。それが『ルネッサンス計画1』で、規制を緩和する新技術にトライアルをしていき、今ある建物は新築と比べると劣っているけれども、例えば、外側から構造的なアンカーを少し足すことによって、耐震性を増やし、外断熱も出来るし、エレベーターも付けられる、というような使い方もようやく認めていただけそうなところまで来ています。
あとは、国の理解も得なければいけないのですが、特に消防法が難しく、そこをうまくクリアして行政と手を握るような状況になれば、一つ一つ改修の芽が出てくるかなと思います。
また、URではソフト的なことを取り組んでおります。セルフリノベという先ほどおっしゃった内容のDIY的なところも、昔のなんとなくファッションで出てきたものが本当のニーズになりつつあるかと感じています。高島平では女優の中田喜子さんにも実際に本格的なDIYをやっていただきました。また、先ほど触れた屋外空間では無印良品と組んで、空いている場所でキャンプや防災訓練をしてもらい、もう一度豊かな屋外空間を体感してもらったり、学生さんがUR賃貸住宅に住んでいただけるように規程類を見直したりしています。
最終的には、更なる規制緩和に向けて我々の試行錯誤を通じた成果がみなさんにご利用していただけるよう頑張っていきたいと思います。 - 土谷
- 先ほどのセルフリノベーションの話で、これは本当に不思議なことが起きていると思いますけれども、自分で変えるっていうのはアメリカ人なら当たり前にあったことですが、日本でもペンキを塗ったり床板を貼ったりセルフリノベーションをしていくことを楽しんでいる人がいます。自分でつくるというのはすごい変化だと思うんですけれども。
- 松村
- いろんな環境条件で世代間でかなり感覚が違う。一つはネット環境ですね。ネット環境で例えばハンバーグと検索したら、いくらでも作り方が出てくる。そういったレシピサイトのようなもののDIY版も出てきています。そのサイトを見ていると「DIYが楽しい」と書いてある。そしてどこでなにを買えば良いのかという物流関係の情報もほとんど載っている。少し前までホームセンターもそこまで充実していなかったけれど、今じゃホームセンターのDIY用資材も豊富になっています。中にはそれをネット上で売っているものもある。そういう意味で圧倒的にDIYができる環境が整ってきている。そこに、会社員の人が5時半に帰るみたいなことを言っていて、どうやら自分の時間というものの重要性に自然に気づいているんです。こうした若い世代の人たちは自分の時間の中で楽しいことを見つけている。というのが圧倒的に大きいのだろうと思います。
アメリカでも1970年に入った頃からDIYが女性にも浸透していきました。つまり、DIYをきつい仕事ではなく楽しいこととして捉えている。きつい仕事だと思っていたけど割と結構楽しんでできるんだという理解がこのころ進んでいたということですね。今では日本で「DIY女子」という言葉も出てきていて、カリスマDIY女子がいて、そういう意味で大変面白い時代になってきていると思います。 - 土谷
- 今日はリノベーションの参考、または自分の家の参考にもしたいとの方が随分多かったですけれども、少しまとめてみます。「今までの時代は100%を求めてきた」ものが、「セルフリノベーションは未完成で少し壊れるかもしれないけど良い」と変わった。25万かけて1ヶ月、1日3時間ずつ直してリノベーション。プロだとできないことを考える。キッチンをステンレスに変えるだとか。自由度の高いことを。ここからいま先生がおっしゃったように、リノベーションで自分の家をやったら終わりなのですが、そのスキルがウェブで共有されていってどんどん広がっていく。リノベーションが二度美味しい、三度美味しいということで、いままでは100%つくるっていうのが100じゃなくていいんだ、80でいいんだ、っていうので余力を残す魅力があるのではと思っています。
ぜひ、今日こられた方、ご自身でトライアルすることもあると思いますし、もしかするとURの団地、今セルフリノベーション対応可能の団地もありますし、意外と家賃の安いところがありますので、そういうのを見つけてみてください。しかも3ヶ月間家賃無料があるんですね。その家賃分でリノベーションしてくださいという団地もあります。無印良品でもMUJI HOUSEの中でリノベーションについてですね、ウェブサイトをやっています。そこで様々な人の紹介をしていますので、たぶんこれからはリノベーションとの自分の楽しみ方だけではなく、それを取り巻く人と共有していくようになっていくと思います。そして本当に住むのか、仕事場にするのか、少しずつそれが多くなっていって、あと数年、10年ぐらいのうちに、URの団地の中には様々な仕事としても先ほど高齢施設みたいなのがありましたけれども、高齢者の施設に入所するのでなくて、住んでいる住人同士が支え合えるような、そんな団地に期待します。
今日は具体的なリノベーションについては出ませんでしたけれども、ぜひMUJI×URのテーマになっている《つくりすぎない》、何でも完璧にしようとしないことに関して完璧にしない、そういう知恵があって楽しみがあるように日々MUJI×URも改良を重ねていき、ウェブサイトでも情報発信していきますので、是非ご覧いただければと思います。どうもありがとうございました。