MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 大学トークセッション vol.2 京都女子大学
MUJI×UR×京都女子大学で考える、空き家問題とリノベーション

※このレポートは、2013年11月29日に京都女子大学で行われた、トークセッションを採録しています。

【洛西リノベーション】

井上
今うちのゼミ生が卒論で、「雑誌に出てくるリノベーション事例」を調べているんでが、その施工費用は平均すると800 万ぐらいかかっているんです。1 住戸あたりに800万も掛けられるような個人経営者っていうのはなかなかいないので、そうではないやり方を見つけていかなきゃ、都市の空き家問題をどうにかするみたいなことには全然なっていかないなぁというふうに思っていたわけですね。
そんなことがあって、URからお話をいただいて、洛西ニュータウンでのリノベーションのプロジェクトが始まったわけですが、その内容としては大きく2つあります。一つはURからの、住戸の中をきれいにしてください、という依頼。そしてもう一つは、どちらかというとこちらからお願いした内容なんですけども、洛西ニュータウンに実際に見学に行ってみると、階段室があってそれぞれの家に入っていくわけですが、そこにあるメーターボックスとかの塗装がはげているのに気が付きまして、それは、別にUR がほったらかしにしているわけじゃなく、修繕計画という、何年に一回ペンキ塗り替えようとか、そういう管理上の計画があるわけですね。だけどその計画に、例えば、予算の関係でそれが少し遅れているとか、あるいはその計画よりも早く傷んでしまったりとか、そういうことがあると、当然、計画より先にはがれてきたりしてしまうわけです。それを居住者は、賃貸なので、URがやってくれるだろうと思って待っているんですね。でも、その待ちの姿勢よりも、むしろ居住者が主体的に、その時期がまだ来ないんだったら私たちが自分でもう塗っちゃいますっていうほうが、共用空間に温かさみたいなのが出るだろうなというふうに思いました。資料では「表出」っていう専門用語を使っていますが、例えば団地にやってくるお客さんに対して温かいおもてなしみたいなのを見せることができますよね。普通は鉢植えとかちょっとした置物とか、そういうのを言いますが、ちょっとデザインされたペイントがあることも、そして居住者が自分でそれを塗ってつくるということも、それも表出の一部だろうというふうに思ったわけです。つまりもっと言うと、塗装することで居住者間のコミュニティっていうのも生まれるだろうというふうに思い、これをURにお願いしたところ、いろいろと調整してくださって、やれるっていうことになったわけです。

住戸リノベーションのほうの話ですけれども、図面の2団地が対象になりました。左側が「境谷東団地」、右が「竹の里団地」です。境谷東のほうは3DK、そして、竹の里団地のほうは3LDKです。境谷東は3 室とも和室です。竹の里団地のほうは3 室のうち2 室が和室です。やっぱり、和室が多いっていうのも、今の若い世代からすると、ここに入ろうというそういう感じにならないかなぁということで、そういう部分も含めて学生の皆さんに若いセンスで設計してもらいました。
井上
これは境谷東の住戸ですが、壁を取り払った広い空間の真ん中に曲線の土間が通っています。実は8作品のうち1作品だけは、京都女子大学の学長が選んでいます。この作品はちょっと予算をオーバーしたのですが、学長が「この作品はすごくいい、でもちょっと予算超えてそうだからURが取らないんじゃないか」と言われて学長賞になりました。この写真の自転車は実はURの職員の方の私物ですね。そして、この棚は、ここを設計した学生が手づくりでつくっています。すごくおしゃれに見えますけど手づくり感満載の感じの部屋です。壁はチョークで書けるような黒板仕様になっています。

「らしく、くらす」

井上
これ2つ目ですけれども、これも同じ、境谷東の間取りなんですが、真ん中がダイニングキッチンだったんですけれども、全部をぶち抜いて両側の部屋も全部ひとつにしたというものです。両側に棚があって、いろいろな家族構成、夫婦2 人だけのとき、あるいは子どもが小さいときなど、その時期に合わせて使い方を変えられるということで、非常によく練られた案ですね。

「無限のハコ」

井上
これも同じ境谷東、2回生の設計ですね。押し入れをぶち抜いて2つの部屋を1つにしている。つないだことによって北側がすごく明るくなって開放感が高くなった例ですね。色の使い方もなかなか良かったです。

「アトリエ de 境谷東」

井上
次はこれも2回生が設計しましたけれども、間取りを大きく変えたりとかはないんですけども、細かな内装のほうに手間を掛けています。予算としてはURが通常の空き家改修でやっている費用+αぐらいでやるというのが今回の主旨なので、それだと当然キッチン設備を大きく替えるなんてことはできませんので、こういうふうに把手をちょっと替えるとか、そういう形で細かいデザインを積み重ねて、雰囲気のある空間をつくっています。

「魅せる、味せる、満ちる」

井上
ここから、竹の里団地のほうの事例です。これは手前がプレイルームで、向こうに居間があって、それで、子供部屋といっても居間とかなり開放的につながるという案です。

「視える、魅せる、見つける」

井上
次は、たいていの案がリビングをどうやったら広くできるかを考えているところを、これは夫婦寝室を広くしようと考えた案です。ここにベッドを置いて、手前に夫婦用のプライベートなリビングがくるという、なかなか面白い提案です。

「One Step」

井上
これは、逆に一番リビングを広~く使った、とにかく大きくしたっていう、開放感がある案ですね。一番こちら側のところ、この床のフローリングの貼り方を変えていまして、ここを縁側に見立てた空間にしています。

「Open×Close」

井上
最後に、これも間取りを大きく変えることはせずに、細かいデザインを積み上げて、それで雰囲気のある空間をつくろうという設計ですね。大西さんから前に、家を借りたり買ったりするときに、それを決めるのは女性のほうだ、奥さんのほうだっていう話を伺いましたが、そういう若い主婦が好みそうなテイストをちりばめて、配置しているという感じです。

「shop『my house』」

井上
次のスライドは、もうひとつの取り組み、階段室のメーターボックスの塗装です。これは京都女子大学の学生と、UR の若い女性スタッフ、あとはJSさんという施工会社さんの若いスタッフが一緒に、女性ばっかりのチームで塗装をやりました。でもただ塗装をやったことではなくて、それまでの半年間、うちの2 人のゼミ生が週に何日もずっと通って、共用部分を掃除したり居住者さんに話しかけたりしてコミュニケーションを取ってきているんです。その成果として、最終的にこういう塗装ワークショップを行ったところ、居住者のみなさんも一緒に参加してくださいました。
井上
塗装ワークショップには小さなお子さんも参加していただいて、うちの学生によると、初めて会ったときは伝い歩きをしていた子どもさんが、もう普通に歩くようになっていて、しかもお母さんによれば、まだクレヨンを持ったことがないそうなんですが、それより前にペンキを塗ったんだそうです(笑)こんなふうに、皆さんが出てきてくださることで、居住者間のコミュニティが生まれればいいなという、そのきっかけとしてやりました。


【空き家の活用】

井上
最初にも出てきましたけれども、京都市の空き家率っていうのは14.1%あるので、ある企業がすごく頑張っても、それをゼロにするっていうことは多分不可能に近いと思います。なので、ある程度、空き家があることは前提と考えて、その一部を例えば低い家賃で、(空き家のままだったらゼロなわけですから、少しでも、例えば1 万円でもいいと思うんですけども、)地域貢献をするような団体に安く貸したりするとか、そうすれば、家賃はゼロでは無く、少しでも入ってきますし、その上、地域からは感謝されるわけです。そしてこれはURだけじゃなく、個人経営の賃貸集合住宅だって同じことなんですね。空き家を使って地域にいかに貢献できるかっていうことを考えることが、所有者にすごく求められているというふうに思います。

あともうひとつとしては、住環境っていうのは、ハードな建物だけではなくて、コミュニティのようなソフトな部分もあっての住環境ですので、個人の賃貸集合住宅経営者は、経営的に無理な部分を居住者に助けてもらえばいいんじゃないかと思うんです。でもそのためには、コミュニティっていうのを普段から意識してちゃんとつくっておかないと、居住者さんに、都合のいいときだけお願いしますと言っても無理なので、そういうコミュニティをどうやってつくっていくかっていうことがとても求められてるんだろうというふうに思います。
だからURが一連のプロジェクトで取り組んでいることは、URの団地をどうしようっていうことだけではなく、もっと社会的な意味のあることなのだと思って期待しています。
以上で発表を終わります。
土谷
ありがとうございました。楽しかったですね。なんか、もっと聞きたかったですよね。今日のテーマは空き家問題ですけども、MUJI×URの団地リノベーションプロジェクトでも予算にチャレンジしています。そこでのポイントは、「誤差を決める」って言うのでしょうか、建築ってほうっておくときれいにつくっちゃうんです。作り過ぎるというか。だけど、もう少し緩くてもいいだろうと。作り過ぎないことをポイントにして、でも丁寧に作ったんです。そして、そこに入居していただいた人たちに取材に行ったら、とっても素敵に暮らしているんですね。先ほど井上先生の話にもありましたけれども、若い人たち、特に暮らしに興味のある、自分たちの暮らしをもっと丁寧にしようという人が入ってくる、そういう意味で、入ってくる人たちの質というか、種類というか、なんと言ったらいいんですかね、そういう意識の高い人たちが入ってくるということで、その団地全体が変わってくる可能性が出てくる。そんなこともリノベーションのいいところかなというふうに思っています。
ということで、お待たせしました。大西さんです。