


MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 大学トークセッション vol.2 京都女子大学
MUJI×UR×京都女子大学で考える、空き家問題とリノベーション
※このレポートは、2013年11月29日に京都女子大学で行われた、トークセッションを採録しています。
スピーカー:
井上えり子氏

京都女子大学 家政学部 生活造形学科 准教授。東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻修了、博士(工学)。専門分野 建築計画・住宅計画。伝統文化を活かしたまちづくりという観点から花街や町家、地蔵盆空間等の研究に取り組む。都市の空き家問題についても、地域が伝統的に持っている地域力を活かした取組みを提唱し、京都市東山区六原学区において、地域・行政・不動産事業者等と一緒に実践中である。
スピーカー:
大西 誠氏

独立行政法人都市再生機構理事・西日本支社長。昭和54年3月東北大学大学院建築工学修了。同年4月日本住宅公団入社。 都市基盤整備公団計画課長時代に「スケルトン賃貸住宅制度」を創設し、自ら汐留地区と河田町地区で実践。同19年都市 再生機構本社業務第二部長時代にストックの再生再編方針策定に携わる。その後東京都心支社長、東日本都市再生本部 長、本社審議役を経て現職。平成7年都市住宅学会賞(論説)受賞。また同年再開発コーディネーター協会優秀論文賞受賞。
スピーカー:
土谷 貞雄氏

無印良品「くらしの良品研究所」コーディネーター。HOUSE VISION、デベロッパー、家具メーカーなどの業務支援も数社おこなっている。中心となる業務はWEBを活用したアンケートやコミュニケーションの仕組みづくり、コラムの執筆など。

- 土谷
- 本日は京都女子大の学生のみなさん、たくさんのご参加ありがとうございます。これから「空き家問題とリノベーション」ということでトークセッションを行いますが、私は進行を担当します、無印良品の土谷と申します。無印良品はURと去年からいろんな取り組みをしているんですが、今日は井上先生にお話をいただいて、そのあとUR西日本支社の大西支社長がいらっしゃいますので、お二人からお話をお聞きしたいと思います。今日はざっくばらんな会なので、このあとも「井上さん」と「大西さん」と呼ばせていただきますけれども、どうぞよろしくお願いします。

井上えり子氏による講演 -都市の空き家問題について-
- 井上
- 今日は、京都女子大学とURで取り組んでいるリノベーションプロジェクトについて、それに至るまでの背景っていうんですかね、どうしてそういうことをやることになったのか、多分参加してくださった学生の皆さんの中には、なんか楽しそうだからやってみようとか、そこがきっかけだったりする人も多いと思うんですけど、その背景にはどんな問題があるのかっていうのを、今日はちょっと知ってほしいなと思って、スライドを用意してきました。

【空き家問題の影響】
- 井上
- まず、都市の空き家問題について、その影響の話をします。今見ていただいているのは、京都にある、観光客も多い石畳のきれいな街並みにある建物なんですが、実はこの建物は空き家なんです。一見すると外からはしっかり建っているように見えますよね。でも中を見てみると、こんな感じで、かなり荒れています。このように大都市の空き家は、外を通る人からは分からないままに結構進行していて、突然、隣の家が崩れたっていうような、驚きとともに近隣に知らされるっていう場合があります。そしてそれは特別な例じゃなくて、このような空き家が京都市内だけではなく全国にたくさんあります。
空き家の増加が及ぼす影響ですが、隣近所のお宅に対しては、さっきのような状態だと、当然、部材などが落ちてきます。あと周辺一帯として、防犯・防災に対する不安があります。例えば、誰かが入り込んで火をつけたら、というような不安ですね。あと、よく聞くのは、ネズミや猫が住み着いて、周辺で糞をしたりとか、あるいはその家を所有者が取り壊してしまったら、そこに住んでいたネズミが全部周辺の家に逃げてしまって、それを駆除するのに半年以上掛かったとか、虫が沸くとか、そういう具体的な影響があります。
一方で、じゃあ隣近所に空き家が無ければ安心できるかとういうと、空き家っていうのは割と広い範囲で影響を与えるんですね。それはどうしてかというと、空き家が増えることは、言い換えると、その地域の人口が減るっていうことです。人口が減ると当然、小学校が統廃合されたり、病院とかスーパーなどが地域からなくなります。京都女子大学の近くでも、すぐ近所にあった病院がなくなったり、六波羅あたりにあったスーパーがなくなったりとか、生活の中でなんとなく感じている人もいると思うんですけれども、そういうことが実際に起きてくるわけです。それは地域力が落ちてくる、ということで、実は結構広い範囲に影響を与えます。
全国の空家数
- 井上
- 次に数字を見てもらいますが、これは全国の空き家数です。757 万戸、空き家率は13.1%です。

- 井上
- 大都市だけを見ると、政令指定都市の平均が12.9%もあります。

- 井上
- 全国の平均と大都市の平均は、たいして変わらないんですね。大都市部にも相当空き家があるということが分かります。京都市は14.1%です。大阪市が全国で一番高くて16.7%。首都圏はちょっと低くて11.3%。こう見ると、首都圏は安泰のように見えますけども、パーセンテージだからそう感じるだけで、実際の数で言えば、京都市には11万戸の空き家があります。大阪市は25万戸、そして東京は23 区だけに限っても54 万5000 戸もあります。なので、東京はパーセンテージでは少ないように聞こえますが、数でいうとものすごく多いわけですね。ただ、この数字を私ここ何年間かいろんなところ行って、「こんなに多いんですよ」って言っているんですけど、いまいち実感が伴わないので、これをそれぞれの地域のニュータウンにしたら何個分になるかっていうので表現してみました。京都市には洛西ニュータウンっていうのがありますけれども、京都市の空き家の数は、洛西ニュータウン内の全住戸数の10 個分です。大阪市の場合は、関西で有名な千里ニュータウン、その千里ニュータウンの6 個分です。誰も住まない千里ニュータウンが6 個、大阪市内にあるっていうことですね。
東京の場合は、今日、MUJI の土谷さんが東京から来てくださったので、東京のデータを入れたんですけども、東京には多摩ニュータウンっていう、大きなニュータウンがあります。その多摩ニュータウンの5.6 個分の空き家が23 区だけでもあります。これを考えると空き家問題っていうのは、都市構造を揺るがしかねない、いや、もうすでに揺るがしている問題です。そして、それがあまり表に見えにくいことも問題だといえます。
ただ、一方で、見方を変えると、空き家が多いということは、その空き家をうまく活用すれば、例えば地域の為に役に立つ施設が入るなどすると、その地域を変えることもできるんですね。なので、そういう意識を持って積極的に空き家を活用していこうっていう地域と、このままほったらかしにする地域とでは、当然変わってきます。活性化していく地域と衰退化していく地域というふうに、二極化がおこってくると思います。
例えば、京都市は、私も一緒にいろいろ活動させてもらっていますが、行政や地域の方や不動産事業者さんと一緒に連携しながら、空き家所有者に働きかけていくというような活動をしています。そこでの空き家の活用方法で地域が一番望むのは、若い家族が入ってきてほしいっていうことです。子ども連れの家族であれば、人口も増えますし、PTA等の地域活動も活性化します。でもそれ以外でも、空き家を活用させる為には、お金が掛かる場合もあるので、例えばアーティストだとか、そういう方たちならば割と自分で全部内装を作り変えたりするので、入ってきやすいんですね。なので、そういう人たちの住まいや活動拠点として使うとか、あるいは、これは本学の生活福祉学科の山田先生などがされていますけれども、空き家を地域の高齢者の居場所として活用して、家に引きこもりがちな高齢者に出てきてもらうとか、そこで皆で集まってちょっとおしゃべりをして、それで帰る、みたいな、なんかそういう場所をつくるというような、こういう活動を、行政と地域が連携して行っています。つまり、空き家の問題に地域が一緒に関わることで、地域にとってメリットのあるまちになっていくということですね。

【賃貸の空き家】
- 井上
- 今までの話は、空き家の一般的な話なんですけども、今日は、UR のことがあるので、賃貸の集合住宅の話にちょっと触れますね。まず、国がやっている住宅土地統計調査によると、空き家の種類は、この図のように4つのタイプに分かれます。「賃貸用の住宅」、「売却用の住宅」、「二次的住宅」っていうのは別荘とかのことです。「その他の住宅」っていうのは、ここに地方自治体や私たちは一番力を入れているわけですが、一般の人が所有したままほったらかしにしている空き家です。でも数としては実は「賃貸用の住宅」のほうが多いんです。なので、私はその賃貸の空き家もずっと以前から気になっていました。

- 井上
- 以上は全国平均で、次に京都市の数字を見ていただきますが、だいたい同じ傾向です。52%ぐらいが賃貸の住宅です。東京や大阪のような大都市は、もっと「賃貸の住宅」の割合が高いです。60%を超えてきます。東京なら65%。賃貸の住宅っていうのは空き家が多いということが分かります。
また、賃貸の住宅の中でも、マンション・アパートのような集合住宅と、戸建てとか長屋のような木造の建物がありますが、長屋建てが多い京都市ですら、戸建てや長屋の空き家は12%で、実はマンション・アパートのような集合住宅が40%をも占め、一番多いんです。なので、やはりこれは、ここをなんとかしなきゃいけないなぁというのが、常々あったわけです。

- 井上
- そういう中で、たまたまURさんから洛西ニュータウンの賃貸の集合住宅で、30 年以上経っている古い間取りを新しく変えて、そして若い人がもっと入ってきてくれるような、そういうようなプロジェクトをしたいんだけども、やってもらえないかというお話をいただいて、「あ、これだな」というふうに思ったわけです。
まとめると、空き家問題は賃貸集合住宅において特に顕著で、そして、最初に言いましたけど、空き家を活性化することで地域が活性化するということからも、一番多い賃貸集合住宅の空室を活用するっていうことは、かなり地域にとって重要だということです。
なので、これをどうやっていくかというと、どんどん、頑張って宣伝さえすれば若い家族が入ってくるかというと、それはやっぱり無理があって、人口が減ってきているわけですから、ある程度限界があるわけですね。なので、それをどういうふうに活用するかっていうことを考える必要があるだろうというふうに思っています。
もうひとつ、京都では、企業が経営している賃貸集合住宅とは別に、個人が持っているマンションとかアパートっていうのがかなり多いんです。税金対策で造っちゃったみたいな。おそらく、造った当初はそれなりに得したっていうふうに所有者は思ったのでしょうが、やっぱりプロじゃない人がずうっと賃貸をメンテナンスし続けるって、相当大変なことです。20 年とか経ってくると、賃貸はかなり古い感じになってきますが、それを設備などを新しくしてもっと人を呼ぼうとか、そういう発想自体が、税金対策でやってしまったみたいな感じの方には全然ありません。そこで結果的にすごく空き室が増えてくるわけですね。そんな人たちでもできるような、経済的にも可能な範囲でのやり方が必要だなぁというふうに思っていました。