


MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 大学トークセッション vol.2 京都女子大学
MUJI×UR×京都女子大学で考える、空き家問題とリノベーション
※このレポートは、2013年11月29日に京都女子大学で行われた、トークセッションを採録しています。
【URの役割】
- 大西
- 先ほど井上さんから話を聞いて、我々が考えている問題の構造、それから、目指すべき方向性、それが都市の空き家問題と全く共通しているな、というふうに実感しました。例えば、この資料に京都市の試み、というふうに書いていますけれども、これをUR の試みと変えれば、そのまま我々がやろうとしていることです。つまり、団地はこのままでは、高齢化がどんどん進みます。プレイロットでは、使い手がいない滑り台があるような団地が増えているんですね。ですから、そこに若い人に入ってきてほしい。つまり、そのことによって多世代ミックスが実現でき、それが団地の活性化につながっていきます。MUJI×UR団地リノベーションは、応募者の7割は30代以下の方でした。子育て層の世代の方が応募者の7 割ですよ。ですから、今回も京都女子大の皆さんにお願いしたのは、若い女性の感覚でリノベーションをしてということでした。そのことによって、恐らく若い世代が入ってくるだろうというふうに思っています。そうすると、多世代ミックスが実現できて、団地に活気がでてくるだろうと思っています。それともうひとつ、高齢者の居場所ですね。高齢者の居場所ということは、つまり高齢者が多いときに、そこでその高齢者の人たちにとってどういう住まい方、どういう暮らし方が一番いいのか。それをどうやってサポートできるのか、という仕組みをそこの地域に埋め込んでいくということだろうというふうに思っています。私たちは、団地の空き家を活用して、そこに高齢者の介護施設、それから医療施設、それらのサービス拠点をどんどん埋め込んでいくことを、URの大きな仕事のひとつと考えて始めています。つまり、うちの団地の空き家を活用して、団地の居住者はもとよりも、その周辺の地域の人たちにとっても、役に立つような高齢者のためのサービス拠点をつくっていくことができるんです。先ほど、井上さんにURの役割ということで、地域に貢献するような団体に貸し出す、ということを言われて、一瞬あわてたんですが、よく考えてみれば、「あ、やってるな」と思ってホッとしました。福祉施設というのは、賃料負担力は非常に低いです。あまり家賃を高く取れないですね。但し、それがあることによって、その団地の魅力が上がります。ですから、その団地の家賃全体を少しずつ上げれば、十分に元は取れるんですね。うちの会社の中で議論するときに、それをやって経営的にペイするのかという議論になりますけれども、必ず数%の空き家は残るという前提になったときに、住宅以外のいろいろな施設等をそこに入れることによって、その団地が活性化していくことのほうが、もっと魅力にあふれたものができる。それから、団地を含めた周辺が活性化していくことによって、その地域全体が魅力的なまちになる。それが実現できるだろうなというふうに思っています。この図は、実はちょっと変えると、我々の構造にまさに合っているな、というふうに思っていす。この事業者と空き家所有者のところを、1つのマルで囲ってもらう。そうして、「市民・地域」って書いてあるところを、「居住者・地域」に変えてもらう。そして、大学NPOのところからも直接事業者に矢印をつけてもらう。そうすることによって、実は我々がやろうとしていることを表した図になります。大学というのは、「知」の集合体です。我々が考えつかなかったこと、知らなかったことを提供してくれる、教えていただけるんですね。今回もまさにそうです。それから、NPOの方たちは、その空き家を実際の活動拠点として活用してくださるんですね。そういう意味では、空き家所有者=事業者であるUR のときには、そこに矢印が1 本入っていきます。それと、市民・地域のところが、居住者と地域、というふうに変えて、矢印は双方向にしてもらえばいいんです。居住者の方たちからは、例えば空き家が増えてくると、やはり防犯上の心配が寄せられます。空き家が増えてくると、どうしても暗くなってくるんですね。例えば夜にそのお宅のお嬢さんが帰ってくるときに、暗い部屋に明かりがついていない団地の中を歩いてくると、やっぱりちょっと怖いという意見が出てきたりします。ですから、少しでも空き家率を解消していくためには、やはりそういう居住者の声に応えて、空き家を埋めて、明かりのある家をつくっていく必要があるんですね。そのためにいろいろな施設をつくったり、住戸リノベーションで若い世代に入っていただいたりすることによって、また、さらには高齢者のための施設をつくることによって、地域に貢献することもできる。そしてそれを実際にやろうとするためには、実は行政のサポートが必要です。これからは、介護施設とか医療保険、介護保険もそうですけれども、そういった制度も活用しながら、在宅診療、在宅介護ということを本気で考えなければいけない時代になってきています。
これからはみんなが病院で最期を迎えることは、とても難しくなってきます。でも団地の自宅やその近くにある施設で介護を受ける、最期まで看取ってもらえる、実はそのほうが幸せだと思います。既に今の医療施設で、3ヶ月ごとにたらいまわしにされているという現実もあります。それよりは、同じ団地の中で高齢者のための介護が実現できるような部屋が用意されている。そこに住戸移転することができて、実は家族はすぐ近くに住んでいる。別の場所にある施設に入ってしまうと家族は毎日訪れるというのは非常に大変ですけれども、同じ団地の中の別の号棟に住んでいる、おばあちゃんがそこで介護を受けているということであれば、毎日、朝昼晩、ちょっと顔を出せますよね。そこでは、高齢者も自分の住まい拠点の中で歳を取っていくことができる。そして実は、そこには高齢者だけではなくて、若い世代もたくさん入っていて、子どもたちと一緒に、外に出ると子どもたちが遊んでいる相手をすることができる。そういう新しい団地の形態をつくりだしていくことができると思うんです。それは団地という言い方をすれば団地なんですが、地域への貢献をする施設もサービスもそこが拠点になっているということを考えれば、そしてそれぞれの住戸が毎日リノベーションを繰り返されているということを考えれば、新しいまちができているというふうに思うことができるんじゃないだろうか。そういうふうに思っています。ですから、これからの目標は、「団地をまちに変えていくこと」だろうと。そのために、前から何度もいろんなところで言っていますけれども、団地の中の住戸の、ある部分は花屋さんにしたい。それからある部分はカフェにしたい。そうすると、そこは魅力的なまちに変わっていきますよね。これからは、住戸にある程度は必ず空き家が出てくるというふうに井上さんに断言されましたから、ますます力を得て、そういうようなことをすることによって、魅力的なまちをつくりだしていくことができる。昔、我々は団地をつくりました。これからは、新しいまちをつくっていくことができる。それは、空き家があるからできるんです。だからこそ、空き家の活用が非常に重要だろうというふうに思っています。 - 土谷
- とても共感します。空き家があるからできるというのは面白いですよね。なんか頓智(とんち)のような話ですけどね。空き家がある。つまり、そもそも全く新しくつくるのではないからこそ、可能性があるんだよ、という話はすごく面白いと思いますね。空き家所有者という意味では、UR は空き家所有者なんですね。
- 大西
- それで、なおかつ
- 井上
- 事業者で…
- 土谷
- しかし、不動産業もやっているので、くっつくし、さらに建築家の人たちやそういう知見もここで集めることができるので、一緒になるっていう話で…
- 井上
- すごくうらやましい話です。私たち、空き家問題の活動をしていて一番苦労するのは、所有者に「じゃあ、活用しよう」って言ってもらうところが一番難しいんです。そこに苦労しているんですね。だけどUR は「うん」って自分で言える。
- 土谷
- だから、そういう意味では、UR が変わることは、社会に対するインパクトも大きいということですよね。井上さんにちょっとお伺いしたいんですが、今、本当にそうだなと思いながら、しかしこういういろんなことが変わっていきますと、今までの医療というものが、集中医療であったものが、今度在宅になってくる。行政サービスっていうのも、どこかに集中して病院があるという今の状況から、どんどん地域の中のほうに入ってくる、もしくは巡回サービスのようになってくるかもしれません。それから、そもそもそういうサービスを行政がつくるだけじゃなくて、住民がそのサービスにどのように関わっていくかというような、仕組みだけではなくて、それへの関わり方とか、先ほど出ていたコミュニティっていう言葉が当たるかどうかは分からないんですけども、変わってくると思うんですね。でも、今、話ししたようなまちをつくるんだということでも、そもそも、まちをつくる作り方が、今まで少し間違ってきたのかもしれないし、それとは違う方法でまちをつくっていかなければいけないんですけれども。どうでしょう、これからの、そういうまちをつくっていくとき、何かこういうことが考えていけるんじゃないかというようなヒントはありますでしょうかね。
- 井上
- 私がそれを言うのはなかなか難しいんですけど、地域の方たちっていうのは、まちの形みたいなのはイメージできないんですね。安全とか安心とか、そういうような抽象的な言い方ではおっしゃるんですけど、こういう形がいい、みたいなことはおっしゃらないんです。なので、一緒にやっている事業者さん、不動産業者さんに、地域の方たちと話すときに、空き家を目の前にして、この物件ならいくらで貸せますとか、いくらで売れますとかいう話をするんじゃなくて、この物件を活かすことで、こういうまちをつくっていこう、みたいな「夢」を語ってください、とお願いしているんです。そうしないと、目の前の空き家をどうしようというだけでは、地域の方たちは自分たちにメリットがないので、だんだん疲れていっちゃうんです。なので、事業者さんがその地域を見て、この地域だったらこういうふうにしていったらもっといいよ、という夢を語ってくださることで、初めて地域の方たちは、「あぁ、これが活用されると、私たちにこんなメリットがあるんだ」ということがイメージできるんですよね。だから、多分、これも一般解はないとは思うんですが、その中に関わっている人たちが、そのまちにとって何が必要かとか、どういう形にしていけばいいかということを考えて、それで、そういうのを地域に示していくのが専門家の仕事なんだと思います。
- 土谷
- 時間が、実はあと2 分になってしまいました。なんていうモデレータだろう(笑)。あまりにも話が面白かったので。今日、最後の井上先生の話からは、これからのまちっていうのを考えるときには、やりながら考えていくというか、答えに向けて進む時代から、答えのないところ、どちらかというとそのプロセスそのものが大事になってくるのだろうと思うし、リノベーションというのはそういう意味で一挙に変わらない、変えられない、そこがメリットでもあると。だから、小さくやりながら考えていくっていうことができるのかもしれないと思うんですが、大西さん、最後に1 分ぐらいでコメントをいただけると助かります。
- 大西
- やっぱり、地域の力というものをもう一度育てていくということが非常に重要だなということを実感しています。井上さんからの要請を受けて、今回、洛西ニュータウンで階段室ワークショップを実現しました。まだプロセスではありますけれども、先ほど小さな子どもさんがペンキを一緒に塗ってくださった、というお話のように、今まで集合住宅団地の中では、なるべく外のことには関わりたくないな、という方が非常に多かったんですね。ところがこれからは、高齢化社会になってくる。でも一方で子育ての時期は、どうしても地域の力が必要です。そのためには、そこにはコミュニティを育む必要がある。そのための新しい仕掛けとして、居住者と一緒に何かをする。そうすると、そこでは居住者間のコミュニケーションが生まれてきます。ですから、今回の階段室ワークショップというのは、実は今後地域を変えていくときに、地域の居住者で、共同で何かを作業する、ということがものすごく大きな力の第一歩になるんだな、ということを実感しています。ですから今回はUR にとっては、実は画期的な出来事だと思っています。但し、それをきちんとコーディネートをする人がいたときに実現できる事なんですね。それをどういうような形で今後進めていくかということは、地域の力を育てていくにはどうしたらいいかということに共通してくると思いますので、また大きな課題かなというふうに思っています。ただ非常に重要なことだということは認識させられたというふうに思っています。
- 土谷
- きっとそういうコミュニティ活動の中で、若い女性が動くということは非常に有効に働いたのかもしれないですね。
- 大西
- ものすごく有効でしたね。
- 土谷
- コミュニケーションの核に、こういう大学生が、しかも女性の人たちがね、デザインするものをつくるだけではなくて、コミュニティの核にもなった、またはなりつつあるというのは、とてもいいことだし、今の最後の話で、それをどういうふうにこれからつなげていくのか。今回の実験を、これからのほかのところにつなげていく、今日の話は、小さな変化、小さな積み上げのプロセスが、きっと大きなうねりをつくっていくんだろうということを考えました。
時間になってしまって、最後に井上さん、学生へのメッセージっていうか、コメントがあれば。 - 井上
- 今日設計者たちは何か振られるだろうと思って緊張して待っていたんですが…(笑)
- 土谷
- ごめんね、時間がなくて…
- 井上
- でも2回生から4 回生まで、どの学年の学生も、私が想像していた以上に、ずっとずっとみんな頑張ってきて、そして私はまだ「よく頑張ったね」っていうことを学生に言ってないので、ここであらためて言わせていただこうと思います。「本当に皆さん、よく頑張りました。」
- 土谷
- 井上さん、大西さん、そして京都女子大のみなさん、本日はありがとうございました。
