


MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 大学トークセッション vol.2 京都女子大学
MUJI×UR×京都女子大学で考える、空き家問題とリノベーション
※このレポートは、2013年11月29日に京都女子大学で行われた、トークセッションを採録しています。
【地域力について】
- 土谷
- ちょっと話が戻りますが、今日の課題、空き家問題をもう一回確認したいのですが、すごくショックな数字だったんですよ。大阪市で16%の空き家ですよね?それ、歩いていて6軒行くと1軒は空いているってことでしょ。ちょっと信じられない数字ですよね。普段見えないから分からないですよね。そんなことが日本中で起きているのかと。考えてみれば確かに人口もピークになって、子どもも減って、もう、現にどんどん人口は減っていくわけですよ。なんか、蓮の花がある日一面池を覆うっていうのがありましたけども、あれすごい倍々に増えていくからですよね。初めのうちは分かんないけど、ある瞬間、最後はいっぺんにオセロがひっくり返るわけですよね。なんか、そんなイメージで逆にどんどん減っていって、街がすごいことになるんじゃないかっていうことを思いました、あらためて井上さんにお伺いしたいんですけども、でも、じゃあ日本中の街が全部そうなっていくのか、そのあたりがポイントだと思うんですけれども、そうじゃないよね、と。地域力という話がありましたけれども、全部が一律に16%になっていくのではなくて、そこに差ができるでしょうと。その差は生まれる原因が地域力。例えば洛西ニュータウンでも結構ですので、そこをお聞きしたいです。
- 井上
- 京都市内の中では、洛西のあたりというのはそんなに空き家率としては高いほうではないです。実は都心部のほうが高い。例えば京都市全体の14.1%に対して、東山区、清水寺とか祇園に歩いて行けるようなところは、20.3%もあります。5件に1件が空き家なんですね。東京も同じで、さっきの11.3%は23 区全体の数字ですけども、東京の都心3 区だけで言えば17.3%です。都心のほうが空き家率が高いんです。
- 土谷
- 大変大きい数字ですね…。ちなみに、洛西は、その数字は分かるんですか。
- 井上
- 洛西ニュータウンっていうことでは分からないですけども、だいたいあの地域あたりだと、9%とか10%ぐらい…
- 土谷
- その程度ですか。それはちょっと意外な、都心より周辺部が多いのかと思っていました。
- 井上
- 周辺部にどんどんどんどん新しいまちをつくっていきますので、古い都心から空き家になっていくみたいな感じですね。だから、周辺部もあと10年とか経ってくると、当然空き家が増えてくることが想定されます。
- 土谷
- ちなみに洛西ニュータウンの団地ではやはり大型住宅の空き家が多いのですか。
- 大西
- まず空き家の傾向としては、駅に、センターに近いかどうかということと、それから住戸の大きさですね。
- 土谷
- それは、昔つくったときは成長時代ですから、家族は一律に、子ども2人の4人家族という時代だったのが、今は、単身世帯がどんどん増えて結婚しない。みんな結婚したほうがいいですよ。結婚しない若者が増えて1 人世帯が増えてくる。あと高齢者の問題、今25%ぐらいが高齢者ですけれども、あと30 年ぐらい経つと40%が高齢者になるんですね。こんなに家族像が変わってきている状況で、昔は子どもの数がいたからたくさん部屋が必要だったけど、今は時代が変わってきたっていうことで、特に大きな住戸に空き家が多くなるんでしょうね。
それで、ちょっと話を続けると、これからの頑張りようというか、活性化によってこの何十年か先にそのまちの形が変わってくると。日本中一律に縮小していくのではない。何かをてこ入れをすることで、一律に空き家が多くなるのではなくて、地域に、また、エリアによって差が出てくるっていうことを僕は理解していますけど、そう考えていいんですかね。 - 井上
- そうですね。最初にもお話ししましたけども、例えば京都市であっても、千里ニュータウンの2.5個分のボリュームで空き家があるわけですから、当然寄せられていくっていうか、使いづらいところ、住みにくいところにはみんな住みませんので、どんどん逃げていきますよね。もちろんスーパーとかコンビニとかも人がいなければ撤退していきます。そしてお店がなくなれば、人はまたさらにもっと便利なところにと移動していきますので、当然そういう地域とそうでない地域というように二極化していくと思います。
- 土谷
- なるほど。それはあれですね、スパイラルというか、加速度的に、何か1個が抜けると、今言われたようにほかの要因も加わって、どんどん進んでいく。その境目っていうのが怖いですね。どこで起きてしまうのかっていうのが。
- 井上
- そうですね。実際にはよく見るともう起きていますけどね。例えば小学校の統廃合なんていうことは、もう前からいわれていることですし。
- 土谷
- 学校も遠くなると。そういう意味で、リノベーションというのはそういう部分に効果的かもしれない。
- 井上
- そうですね。まぁ、リノベーションだけでは、ちょっと…。
- 土谷
- なるほど。その中で今日の井上さんのご説明で資料が出てきましたけれども、その活動を、その地域の人たち、NPOの人たち、または行政の人たち、そういうふうにみんなで連携してやっていこうという話が出ていましたけども、ちょっとそのあたり、もう少し、つまり、リノベーションだけじゃなくて、もっと複合的な課題解決なんでしょうけど、そのあたり、ちょっと解説してもらえますか。
- 井上
- さっきの図は、実は京都市が作った図です。京都市が、今ちょうど市議会に、京都市の空き家条例を作るというので提案しているんですけど、そのときにパブコメ(パブリックコメント)の冊子を作らなきゃいけないので、そこに書いた、京都市はこういうふうにしてやっていきます、っていう図になりまます。そして実際に、政策としても地域の人と事業者さんと一緒に活用していくというようなことを今やっていまして…

- 土谷
- この資料に「市民・地域」って書いていますけど、具体的にはどういうことなんですかね。
- 井上
- まず、どこが空き家になっているかを誰が把握しているかっていうことですけど、行政が把握しているかっていうと全然そんなことはなくて、空き家を把握しているのは実は隣の家の人とか、その地域の方たちなんです。それで…
- 土谷
- 行政は分からないのですか。住んでないっていうことは。
- 井上
- 住宅土地統計調査とか、国がやっていますけれども、そもそもそれは町内会が委託されて調べています。そして、戸別の情報というのは、実は例えば京都市は持っているかというと、持ってないのです。なので、京都市は空き家情報全然ないんですよ。
- 土谷
- よく年末とかに、国勢調査みたいなので、5年に1回とか周りますよね。あのとき、トントンと叩いていきますよね。あれは訪問して住んでなければ分かりますよね。
- 井上
- そうですね。地域によって違うかもしれないですが、京都市では国勢調査も、町会長がやっていますので、結局、町内会の人が把握しているということですね。
他の都市でも空き家条例はあって、もう200 以上の自治体がつくっているんですけど、普通その内容は適正管理なんです。適正にちゃんと管理してくださいねっていう、条例なんですね。それは誰に向けて言っているかというと、当然所有者さんに対してなんですね。つまり、一般的には、空き家条例とか空き家問題というのは所有者さんに対して「ちゃんと迷惑掛けないようにやってくださいね」っていうことなんです。でも京都市の場合は、もっとそれに踏み込もうということで、地域の問題として地域に関わってもらおうとしているんです。それにはまず地域の人たちから情報をもらって把握しようということです。
例えば誰が所有しているかっていうのは、謄本を上げれば済むと思いがちなんですけども、でもその謄本に載っているのは、既に亡くなった方の名前だったりします。手続きしないままに放置されて、所有者が全然分からない空き家っていうのも、結構な数にのぼるんです。じゃあ、あとはどこに聞くかっていうと、例えばお隣の方だと連絡がつくとか、そういうような形で地域からの情報というのが、空き家の所有者とか空き家の位置とかを確定していくときに、一番正確に分かるというので、まず調査のところから地域が関わっています。そして実際に、その所有者が分かるんだったら、当然その知っている方とは何らかの関係がありますので、その方から、地域のために活用させてくれないかというようなお話を持っていってもらうこともできますし、そういう形でも地域の方に参加していただいています。 - 土谷
- その主体としては、組織のようなものをつくるわけですか。
- 井上
- そうですね。例えばそれは町内会を束ねている自治連合会であったり、地域によっては特別にそういう対策委員会みたいなものを作っている地域もありますけど、でもやっぱり、その町内会を基本とした組織ですね。
- 土谷
- なるほど。その地域力の核は、そのまちにある組織、自治会なり自治連合会なり、そういうものがあって、その人たちが情報を集めて、自分たちのまちとして考えていくと。学生の皆さんはイメージはつきますかね。自治会って、みんなイメージつかないでしょ。自治会って、分かる?
- 井上
- 町内会ですね。
- 土谷
- 町内会の付き合いをしないでしょ。
- 井上
- いや、それも今、自治体の会議などでは問題になっていて、私とかも、ゼミ生に空き家問題に入ってもらったりしますけれども、あくまでも、それは大学の一員として入ってるんですよね。だけど一方で、この中にも、この周辺に下宿している人がたくさんいるはずですが、その人が、じゃあ、地域の住民として町内会に入っているかというと入っていない。ゼミの生徒としてではなくて、地域住民として学生を巻き込まなきゃいけないねっていう話を、ちょうど今してるところで、そのためにどうするかとか、今考えてるところです。
- 土谷
- もうちょっとだけ、井上先生に聞きたいんですけど、この図の右側に大学・NPOって入っていますよね。NPOはイメージつくんです。じゃあ大学がこの問題にどう関わっていくのか。それは研究じゃないですよね、今言われたように何か実践として関わってくる…
- 井上
- そうですね。多分、うち(京都女子大)が関わっているから大学って入ってるんだと思うんですけども。
- 土谷
- じゃ、これは個別解、井上先生のほうで、一般に地域の大学に関わってもらおうということではなくて…
- 井上
- いや、今後は関わってもらおうとしているんです。今実際に、京都女子大としてやっていることは、空き家の調査を、地域の人たちを手伝っておこなっているということです。情報を出すことはできるけど、それを地図に落とし込んだりとか、まとめたりとか、そういうことするのが大変なので、それはじゃあ、うちでやりましょうとか、あるいはまだ実績はないんですけれども、空き家を活用するっていうのは、非常にハードルが高いので、せめて活用する前に所有者にきちんと管理してもらうことを目指そうと。でも、高齢とか、遠くに住んでいるからということで、そこを管理するっていうことがそもそもできないような人たちもいるので、そのために学生が月に1 回ぐらい空き家に行って、窓を開けて、そこに風を入れたりする。風を入れるだけで、建物の崩壊は、遅らすことができるんです。閉め切っていると、どんどん傷んでいくので、そういうボランティア活動を始めたりしています。
- 土谷
- そんな素晴らしい学生がいるんですか。ボランティアで窓を開けに行ってくれる…
- 井上
- この中にも登録者はいると思います、実績は無いですが登録はしてくれているんです。
- 土谷
- いやぁ、いい時代ですね。だけど、僕は大学のほかにも、多分プロフェッショナルの人、建築を造るとかリノベーションをしていくとか、あとは、相続の問題を解決するとか、そういういろんな知識のある人たちも必要なんだと思うんです。そこで、左側の事業者というのは、これがまさにUR になるわけですよね。空き家の中で40%は賃貸。でももちろんその40%はUR じゃなくて、実際は普通の民間の賃貸がいっぱいあるわけですね。だけどUR っていうのは、ある意味、賃貸の代表格なわけですよ。すごくまとまった大きさを持っていて、こういう言い方、乱暴な言い方をすると、UR が変わると賃貸が、みんながそこを目指して変わる可能性を持っているわけですね。
そういう意味で、大西さんに、空き家問題をもう一回、全体を俯瞰したときに、UR の役割というか、はどんなふうに空き家問題を考えているのか伺ってもいいでしょうか。