MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 大学トークセッション vol.2 京都女子大学
MUJI×UR×京都女子大学で考える、空き家問題とリノベーション

※このレポートは、2013年11月29日に京都女子大学で行われた、トークセッションを採録しています。

京都女子大とURによるリノベーションのきっかけ

大西
景色が違う…(笑)
土谷
そうですね。こんなに女性に囲まれることなかなかないですよね。学生の皆さんはURってどんな会社かなと思うかもしれません。URは賃貸住宅を管理運営している大きな会社で、その西日本のトップが大西さんです、昭和54 年にUR都市機構が、日本住宅公団という名前の時に入社されています。西日本支社には一昨年の7月からいらっしゃって、この1年半に本当にいろんな試みをされており、その中で今回の京都女子大とのリノベーションプロジェクトであるとかMUJIとのプロジェクトであるとか、他にも、男山団地での行政と連携した取り組みとか、とにかくいろんなことがこの人、このおじさんに(笑)仕掛けられているわけです。井上先生は、京都女子大の前は東京理科大で教えていらして、その前に「山設計工房」というところで当時の都市整備公団の仕事をされているときに、大西さんと面識があったということで、今回のプロジェクトに繋がったとお聞きしています。
大西
私は当時公団の本社で設計の係長をしていましてね。そのときに取り組んでいた、いろいろなプロジェクトや調査のお願いをした先が、初見学(はつみ・まなぶ)先生という、住宅の設計や住まい方、その他の住宅に関連するいろいろな課題を研究・実践されている先生で、井上さんはその助手をされていました。
今回、洛西ニュータウンは空き家が多いんですという話をしたら、井上先生は「あそこはファミリー向けの大きな間取りは難しいところですよ。」と言われました。
井上先生、あ、井上さんと言う約束ですよね、井上さんが実際に民間の賃貸住宅のリノベーションも手掛けられて、それが成功しているという実績もお持ちだと聞いていたので、これはもう、お願いするしかないと思いました。そして、コンペを実施していただいて学生の皆さんから色々な提案をしていただき、さらに階段室ワークショップも実施していただいて現在に至っているという状況です。
土谷
ありがとうございます。今日の井上さんのお話の中で、リノベーションが空き家問題にどんなふうに影響力を持つかという話と、もう1つは、そのプロセスの中で生まれるコミュニティということの大きく2つの話がありました。そして最後に提言として、空き家があることを前提として、それを住宅で使うのではなくて、何か小団体であったりNPOであったり地域活動の拠点になるような、ほかの使い方もあるんじゃないのかっていうお話でした。それぞれもっともだなと思いますが、先に大西さんに伺いますが、そうは言っても、学生に実際につくってもらおうとか、しかも女子大にという、このあたりはいかがでしょうか。
大西
団地のリノベーション、住戸のリノベーションというのは、実はまだ世の中ではやっと本格的にスタートしたばかりです。ですから、リノベーションのプロというのはごく少数だと思います。通常の設計事務所の方が、リノベーションに取り組んでおられる。そして最近、そういう取り組み事例が増えてきている。ある意味では、まだ創成期の時代です。ですから、リノベーションのテクニック、リノベーションの手法、何をどう変えれば、どういう空間ができあがるのか、ということに関して言うと、コアのインテリアデザインとはまたちょっと違った、それと、通常の住戸設計とはまたちょっと違った、それらを融合させたいろいろな手法が必要です。とすると、既存の設計事務所の方にお願いをして、チャレンジをするということは、もう実は京都の観月橋というところで実施しました。そこでは、実験的な意味もありちょっとお金をかけたので、やっぱり非常にカッコいいものが出来たのですが、経営的にも、今後それをもっと普遍化していくためには、通常の空き家補修に掛けるお金+αで、先ほど、井上さんもおっしゃっていましたけれども、経済的に成り立つ範囲でそれを実現するということが非常に重要ですので、そういう範囲の中で学生さんにリノベーションをお願いするということをまず考えました。
また、なぜ京都女子大なのか、ということですが、先ほど言いましたように、すでに井上さんがこの賃貸住宅のリノベーションの実績を積んでおられるということと、やはり、ある意味では失礼な言い方になるのかもしれませんけれども、私は非常に尊敬をしているという意味合いで、女性らしい、ということが重要だろうというふうに思っています。家を設計する、つくっていく、デザインする、そういうときに、今まで使い古されてきた意味での女性の視点というのは、家事労働をしやすくするためにはどうしたらいいか、例えば、台所と洗面所をつなぐ通路をつくったらどうだとか、空間を機能的に捉えて、それをしやすくするためにはどうしたらいいかというような議論が中心だったんです。ところが、実際の住戸空間というのは、そこに長くいることが多い女性の方が「住みやすい」「住んでいて気持ちがいい」と感じる、そういう空間というものが重要だろうというふうに思いました。それできっと女子大の皆さんであればそういう空間を提案してくださるだろうと考えました。
結果として、それは大正解であったと思っています。先ほど、井上さんからスライドを見せていただきましたが、私も実際にできあがったところを見に行って驚きました。実は設計のコンペの段階でも、そのレベルの高さに驚いていたのですが、実際に施工をして、できあがったものを見たときには、今までの通常のリノベーション住宅とはやっぱり全く違うんですよね。空間そのものがすごくおしゃれで、美しい、そして可愛い、そういう住宅ができあがっているんです。それは、やっぱり男では無理です。不可能です。なぜならば、その感受性が少ないから。見て可愛いということは分かります。ただ、それをどうしたら作れるのかということになったら困っちゃう。ところが、皆さんは、この台所のキッチンの取っ手はこういうふうに変えたいとか、ここに小さな小物の棚をつくりたいとか、ここはきれいな鉢植えを置けるための棚をつくってとか、いろいろな、「可愛い」とか「きれい」とか「楽しい」とか、というキーワードをもとにして、空間の設計をしてくださっていたんですね。それが実際にできあがってみると、やはりものすごく魅力的なものになっている。つまりちょっと難しいことをここで言いますと、近年、近代建築の用語で言えば、機能空間をどう配置するか、ということをもとにして住戸設計を行ってきましたが、これだけ需要が多様化してきた時代においては、機能空間をどう配置するかではなくて、そこの空間自体がどれだけ楽しい空間になっているか、どれだけ住みよい心地よい空間になっているか、おしゃれな空間になっているか、それぞれの個性や求めるものが多様化していることに対して、どのように応じることができるかが重要になってきています。そしてそれを実現するにはリノベーションというのは非常に重要な手法です。新しく賃貸住宅をつくると、100戸つくったときに全部違う住戸にするなんていうのは、とても普通の設計者はできません。ところが、8戸だけリノベーションをする、それも別々な人に設計をしてもらうということであれば、それが実現できるんですね。それを繰り返していけば、時間が経つと団地全体が変わっていきます。そうすると、団地を時間を掛けながら変化させていくことができる。生き返らせることができる。それがリノベーションだろうというふうに思っています。そのリノベーションを実現するためには、やはり京都女子大の学生さんに、自分たちが住みたい、自分たちが素敵だと思う空間を提案していただくのが一番いいとい思いました。その背景に井上さんがいらっしゃって、必要に応じて、指導もしていただけるという安心感もありましたので、それでお願いをしたということです。
土谷
ほんとにレベルが高いなというふうに僕も思いました。井上さんにちょっとお伺いしたいのですが、学生たちがつくるっていうことで、結果的にうまくできていますけれども、その中で何か課題があったのかっていうことと、もうひとつは、今のお話の中でもありましたが、これからリノベーションっていうのが起きてくるっていうのは、団地全体で起きていけばいいんですと。ただ、やっぱりビジネスとして考えると、設計者っていうのは、安いリノベーションをすると、なかなか仕事にならないと。つまり今、特殊解だったものをどれだけ一般解にしていくのか。またはこれをDIYのように、住み手の人が自分たちでやっていくのか、これを展開していくにはきっといろんな方法があって、空き家問題を活性化していくには、建築家という今までの領域の人たちだけじゃないいろんな人たちがいるのかもしれないということを感じるんですが、実際、学生たちがやられて、そしてこの可能性も感じられて、これからもっと展開していくには、どんなことがあるのかっていうのをちょっと伺ってもよろしいですか。


【個別管理・個別解】

井上
完成したばかりで、客観的に分析するっていうのはまだこれからなんですけれども、まず直面する課題としては、今までURというのは、標準設計に基づいて大量に供給し、大量に同じものを管理するというやり方をしていましたので、多様なものをつくったときに、それをどうやって管理するかという手法がまだしっかりないんですね。なので、今後そういうことをURはしていかなきゃいけなくなるので、それは学生の作品がうまくちゃんと管理されていけばいいなという意味でも、ちょっと心配しているところです。だから、一般化していくためには、そういうところも克服していかなきゃいけないですし、一方でコミュニティっていうのは、そもそも一般化するっていうことは無理なものだというふうに私は思っているんです。地域性も非常に大きいですし、例えば京都だと割と地域を巻き込んでいくことはやりやすいけど、東京だと難しいとか。なので、その地域に合わせたやり方で、その団地その団地でやっていかないとできないので、一般化するっていうことを、そもそもあんまり考えてはいないですね。
土谷
一般化しようとしてきた、均質にしようとしてきたのが、先ほど出てきた近代化で、時代は反対側に、個別解・特殊解に行くと。ひとりひとりに行くと。地域ごとに行くと。そういうふうに考えたほうが良いんじゃないかと。多分、施工においても、今まではマニュアル通り、共通の設計仕様通りというものがあったものに対して、ベースは必要でしょうけども、それにどう対応していくとか、そういうことが必要なのかもしれないですね。大西さん、いかがですか。
大西
今の、管理の問題というのは、先生からのご指摘を受けて我々としても勉強を始めています。今までは、標準設計に基づいていましたから、基本的にはどういう住戸がその団地にあるかというのは、3DKとか2DKとかという、団地ごとのタイプ分けで、だいたいは分かっていたんです。ところが今後は、何と呼んでいいか分からない住戸がたくさんできます。それを、実際にどうやって管理していくのか。つまり退去したときにそれをもう一度補修をするときには、どれぐらいの予算が掛かるのか、もしくはその住戸を募集するときにはどうしたらいいのか。今までだと、洛西ニュータウン、境谷東団地の3DKという募集の仕方でよかったんですが、今度からはそうはいかないですよね。「無限のハコ」という名前だけで募集してもさっぱり分かんないですよね。ですから、まさに今は情報化の時代です。その住戸を検索すると、部屋の中の写真を見ることができる。そういう募集の仕方ができるからこそ、こういう個別設計ができるようになってきました。昔は「マス管理」で対応できていのを、これからは「個別管理」にしていかなければいけない。「マス管理から個別管理へ」というのが、我々の大きな標語になっています。井上さんからも指摘を受けて、そのためのシステムを一生懸命つくり始めようとしていますので、またアドバイスをいただければありがたいと思っているという状況です。
土谷
これはURだけではなく社会的な課題ですよね。今日の学生の皆さんはこれから社会に出て行くわけですけれども、今日本は大きく価値観が変革しているときですね。成長していた時代から成熟時代に入って、これからは、今言ったようなマス管理、大量生産・大量消費の時代じゃなくなります。そこにどういうふうに向き合っていくかっていうのは社会全体の課題なので、それにいち早くURが取り組んでいることは、僕はとてもいいことじゃないかなと思います。多分、そういうアイデア、それをどういうふうにそれを管理というか、それを可視化していくのか、見えるようにしていくのかっていうことなんかも、学生のアイデアとかすごくいいかもしれないですね。皆さん、もう、普段からね、そういうIT リテラシーが高い人たちですから、そういうところもこれからのビジネスチャンスかもしれません。