研究テーマ

植え替え/鉢の設置/肥料

3 植え替え/鉢の設置/肥料

※ご紹介している写真はすべて、本プロジェクトのモニターのみなさんが撮影しました

野菜栽培キットを使ったベランダ菜園づくりについて、30名のモニターそれぞれの取り組みを、2010年4月28日から5月12日の間に提出されたレポートを元にご紹介します。
報告のテーマは、3つ。育苗ポットで発芽させた20L栽培キットの苗の植え替え、プランター袋の設置場所、そして、付属の有機肥料についての気づき、です。その一方では、ベランダで野菜や植物を育てる環境づくりについても、取り組みをレポートしていただきました。

野菜栽培キットをベランダで育て、緑のあるくらしを楽しむための商品開発を考える、ベランダ菜園プロジェクト。30名のモニターとともに、無印良品が考えるべき商品のヒントが、少しずつ見えてきました。

ポイント1
植え替えに必要なもの

今回のモニタリングで観察のテーマとなったのは、「植え替え/鉢の設置/肥料やり」です。ところが、今年の4月は例年にない低温の春となり、発芽やその後の生育が遅れたモニターも現れ、多難な出発となりました。
モニターのみなさんは、いまもそれぞれの歩みで、野菜の成長と向き合っています。

さて、今回寄せられたレポートと写真からまず、開発担当者は、育苗ポットを20Lのプランター袋に植え替える作業と、希釈した有機液体肥料を与える作業に注目しました。

  • 植え替えに必要なものとして、いちばん挙げられた道具はシャベル。「軍手のみで植え替えた」方がいた一方、大半のモニターが「あると便利」「使いたい」道具として挙げていました。
  • 小回りのきく、コテのようなシャベルを使って苗を移植していたモニター。「小さなスコップがちょうどよく、植え替えに便利でした」。
  • 植え替え前の土へ固形有機肥料を混ぜ込む作業でも、シャベルが活躍していたようです。逆に、シャベルを持っていなかったモニターからは、「混ぜる作業がやりづらかった」との声もちらほら。
  • 300倍に薄めて使う有機液体肥料は、1.5リットルの水にキャップ1杯が目安。細かい目盛付きの計量カップで希釈液をつくったこのモニターは、その後、注ぎ口から直接、水やりをしていました。
  • 有機液体肥料をあげるのに、最も使われた道具がじょうろ。もちろん通常の水やりでも大活躍するガーデニング用品の代表選手です。水道から遠いベランダでの水やりになればなるほど、このような大型のじょうろが重宝されていました。
  • じょうろの注ぎ口は、スプレー状とストレート状の両方にわかれました。こちらのモニターはスプレー状の注ぎ口で、やさしく、希釈した肥料を与えています。
  • 使い方を加減して、スプレータイプのじょうろからまっすぐ水を垂らしていたモニター。狙った場所へ、的確に有機液体肥料の希釈液を落としています。
  • ペットボトルを再利用した注ぎ口で、肥料やりや水やりをするモニターも多くいました。与える水量の加減がしやすく、計量にも便利な点で好まれていました。
  • まだ小さなグリーンリーフレタスの根元へ、じょうろではなく、霧吹きで有機液体肥料を与えていたモニター。慎重に、ポイントを狙いやすい利点もあるようです。
  • 20L栽培キットには、20倍に希釈して葉に散布する活力剤もついています。いち早く本葉が成長したこのモニターは、さっそく霧吹きを使って活力剤を与えていました。
開発担当者より 種まきの段階では、それほど必要ではなかったガーデニング用の道具類も、植え替えや肥料やりといったプロセスを迎えると、やはりあると便利なことがわかります。また、それらを使うことでよりいっそう、ベランダ菜園づくりの作業が充実し、盛り上がってくるのも事実です。道具を使う楽しみも沸いてきます。 シャベルについては、通常サイズのものに加え、コテのように使える小ぶりなサイズが、ベランダのような狭い場所での野菜づくりに便利なようでした。
一方、水やりや液体肥料を与えるのに必要なじょうろは、さまざまなタイプが好まれているとわかりました。ベランダに水道がないモニターにとっては、一度に大量の水を運べる大ぶりのじょうろが重宝していました。日々の水やりにまつわる作業は、ベランダ菜園づくりにとっても、重要なポイントとなるようです。

ポイント2
プランター袋の置き場所

続いて、前回の社内モニターのレポートと同様に、お客さまモニターがベランダのどこへ、どのようにプランター袋を置いているか、それぞれの事例を比べてみました。

  • 種まき直後の5L栽培キットを、2段の木製シェルフの上段に並べていたモニター。日当たり、水はけともによさそうですが、やや底面が不安定にも見受けられます。
  • 上と同じモニターの、その後のレイアウトです。レンガを敷いて、奥の20L栽培キットを高く、手前の5L栽培キットを低く、2段にしつらえています。「日当たり、風通しのよさを第一に考えました。また、妻が洗濯物なの干す時につまずかないような場所ということで、必然とベランダの端へ」。
  • ベランダの手すり側(写真右)が壁面になっているため、日照や風通しを確保すべく、高いスツールの上に20L栽培キットを置いたモニター。「床面から40cmくらいの高さにし、なるべく太陽光が当たり、かつ風通しが良いようにしました」。
  • 小さなガーデンベンチに5L栽培キットを並べていたモニター。「ベランダは、コンクリートの上にすのこをひいています。ベンチの上で温度を少しでしのげるようにしました」。隙間のあるガーデンベンチなら、プランターの水抜けも問題ありません。手前には、小さな20L栽培キットの育苗ポット専用台も。
  • 太陽の光を受けて、気持ち良さそうにしている栽培キット。底面をレンガなどで底上げし、風通しや水抜けを確保しています。このように底面をしつらえたモニターは、ほかにも大勢いました。
  • 建物の段差を生かし、ベンチのように張り出した一段高いスペースへ5L栽培キットを置いたモニター。階段状になっていた場所を飾り棚のように活用し、グリーンをテンポよく、たくさん置いています。
開発担当者より どのモニターも、育て方の説明書にあったように、日当たりと風通しの良さ、底の水抜けの良さを実現するよう、それぞれの工夫で置き場所づくりに取り組んでいました。特に壁面の高いベランダでは、設置場所を高くとることで、日当たりや風通しを確保していたようです。 既に多くの植物や野菜をベランダで育てていたモニターの中には、上下の段差をうまくつけてプランターを置き、それぞれの鉢やプランターに対して日当たりと風通しをキープしていた方が多く見られました。見栄えの面だけではなく、狭いスペースで生育に好ましい環境をつくりだすときに、ベランダの三次元展開は、ひとつのキーワードになりそうです。

ポイント3
有機肥料とカビ、虫の発生

今回は肥料を与えるプロセスについても、それぞれの気づきが報告されました。特に、固形有機肥料についたカビや虫については、戸惑いの声も届きました。

  • 「ここ何日か、レタスの土に 虫が大量発生しているんです」と届いた写真。よく見ると、この虫(白囲み)はワラジムシの仲間であることがわかりました。落ち葉や枯葉など分解する"益虫"として知られているタイプの虫です。
  • 有機肥料へ発生した白いカビに驚いたモニターもいました。「追肥した部分に白いカビが生えています。ふわっとしたカビです。そこに、大量の小バエ(赤囲み)が集まってきています」。
開発担当者より モニターの方から、カビや虫の発生について、報告がありました。しかしながら、有機的な栽培に有機物をエサとする虫や微生物、カビの発生はある意味避けられません。 最初の画像に見られる虫は、おそらくワラジムシやダンゴムシの仲間のように、主に落ち葉や枯葉など分解するタイプの虫だと思われます。まれに若苗や根に害を与えることも考えられますが、いわゆる野菜の害虫ではないので、取り除く必要はありません。ただ見た目がよくないので、人間にとっての不快害虫ではあるかもしれませんね。 有機的な土壌に発生するカビや微生物は、土の中の有機物を分解して植物が養分を取り込みやすくしたり、土をやわらかくする働きがあり、植物の生育には有益です。添付の育て方の説明書にも記したとおり、カビは植物の生育を阻害するものではありません。 一般的に虫やカビが好む土ということは、それだけ肥えた土だということです。
有機的なコンセプトに基づく場合は特に、野菜づくりに益虫や害虫、カビの発生はつきものです。花や観葉であれば農薬や殺菌剤の散布をアドバイスしますが、家庭菜園の場合は安易な薬散はおすすめしません。
これらと向き合いながら収穫までたどり着くのも、野菜づくりの楽しさでもあります。

ポイント4
ベランダ菜園のつくりかた

最後に開発担当者は、モニターの方がさまざまな制約の中で、どのようにしてベランダを植物のある空間へ仕立てようとしているのか、それぞれの環境や考え方に注目しました。

  • 奥には、床へ直接置いた鉢が見えますが、白い野菜栽培キットは手前のスチール棚の最上段に置かれています。「日光が当たりやすく、世話もしやすいのと、床がごちゃごちゃするのを避けたかったので」、この場所に。ちなみに、エアコン室外機の上には、無印良品のステンレス製じょうろが置かれていました。
  • こちらのモニターも、ベランダに観葉植物や鉢植えを床置きにしていました。日当たりは上々ですが壁面が高いため、この位置へ寄せられているようです。また、床へ直接並べると、どうしても場所を占めてしまうことがわかります。
  • 高さを出し、すのこを敷いて水はけよく設置していたモニター。他にもプランターでレタスやキュウリなどを栽培しており、すでに小さなベランダ菜園がつくられていました。
  • 「ナチュラルに。ゴテゴテ飾るようなことはしたくない」というコンセプトで、鉢や観葉植物が置かれた、シンプルなベランダ。「全体にウッドデッキを敷設してきれいに仕上げたので、それだけで十分」。
  • ウッドデッキを敷き、棚とラティスで高さを出して、鉢を飾りつけていたベランダ。ちなみに現在はここから改修中で、「シチリアのイメージを元に、ウッドデッキをやめてタイルを敷き、花々も置く予定」だそう。
  • 床面に板を敷き、段差違いの木製棚をつくったベランダ。高さをうまく利用し、かつテイストをそろえています。「ベランダの西側を元々ガーデニングコーナーのようにしてたので、そこに置きました」というとおり、野菜栽培キットの他にも、野菜やハーブが木製プランターで育てられています。ちなみに右側の高い棚は、エアコンの室外機カバーも兼ねている模様。
  • 「窓と手すりの間の、20cmほどのちょっとした空間」に設置された野菜栽培キット。隙間のようなスペースに、小さな緑が息吹いています。「下にはすのこを敷き、落下防止に網を張りました」。キットの隣にも野菜の苗が置かれており、窓越しに日々の成長が楽しめそうです。
  • 高さ違いのシェルフを並べて、コンパクトに鉢やプランター、ガーデニング用品を整理していたモニター。用品の色を落ち着いたトーンでそろえているため、非常にすっきりとした印象です。左の棚の2段目に、5L栽培キットが収まっています。
  • ラティスを使い、「シャビーシックに」仕立てられたベランダ。左奥は高さのある白い3段の木製シェルフへ鉢などを置き、右側はこれからつるが伸びてくるように、低めに鉢が準備されています。そして栽培キットは中央のベンチに設置。「私の理想のベランダはナチュラルガーデン。菜園のまわりにはたくさんのグリーンを配置できるように考えました」。
  • 背の高い観葉植物や、大ぶりなシクラメンなどの鉢花はウッドデッキの上に直接置き、小さな鉢は、ひな段式のシェルフを使って飾っています。高さを意識したコーディネートで、ベランダの小さなスペースに、メリハリが生まれています。
  • こちらもひな段タイプのシェルフを利用して、たくさんの鉢花や野菜、グリーンを育てています。段差をつけることで、日当たりの確保やお世話のしやすさが叶うこともさながら、見た目にも緑があふれる公園のような空間に仕立てられています。
開発担当者より ご紹介したのは一部のベランダですが、レポートしていただいたさまざまなベランダの使い方、仕立て方が、それぞれ参考になりました。
求められている要素としては、大きく3つあるように感じています。1つめは、狭い空間を有効に利用できる、棚やベンチのようなもの。2つめは、すっきりと見栄えよく整頓ができるような、収納の知恵。そして、3つめは、ベランダそのものを好みの見栄えに仕上げることができる、ウッドデッキをはじめとした空間装飾のアイデアです。
棚については、背の高いものも好まれていましたが、ベランダでは布団や洗濯物を干すなど、他の作業も行う機会もあることから、ベンチ程度の高さの棚を使いこなしている方がみられました。 用品や土の片づけは、共通の悩みどころになっているようです。また、用品や鉢を含めた、ベランダ全体のテイストをそろえることも、ベランダで緑を楽しむ空間をつくるためには、大きなテーマにあげられるでしょう。

モニター写真館
ベランダ菜園づくりが着々と進んでいます

社内モニターに遅れてはじまったお客さまモニターの「開墾/種まき」や、今回のプロセスについて、独自の工夫や心あたたまる瞬間など、取り組みをご紹介します。

  • 「虫よけと保温目的で、ペットボトルを輪切りにして、カバーに使っています」というモニター。「他に育てている野菜のプランターに実践していて、今のところアブラムシも蝶もきていません。ペットボトルが水にぬれているとキラキラ光るので、アブラムシなどがこないのかな? と実験段階です」。
  • 成長の遅い芽を間引きする際に、箸を使って取り除いていたモニターが、ちらほらと見受けられました。この方は、ようやく気候があたたかくなった頃に、20L栽培キットの育苗ポットを「気分を変えて、きれいなガラスの容器に移し替えてみました」とのこと。
  • 種まきした後、ネットをかけたモニター。「すずめがしょっちゅう来て、種をほじくりかえすからです。またネットがあると水まきしやすく、水が一か所にドド~っと流れずにすみます」。また、ベランダの床がコンクリートのため、「水分でじめじめしたり、麻の袋に入れた時に底が腐ったりしないようにレンガの上に置きました」。
  • 「種まき翌日の夜、雨が降り、風がすごくきつかったので、種が飛ばされないようにビニールに穴を開けてかぶせました」というモニター。この後、4月の下旬を迎えても例年にない寒さが続いたため、やはりこのような"簡易ビニールハウス"を仕立てた方が、ちらほらといました。
  • お子さまと一緒に種まきをしたママモニターから。「それぞれの野菜にどのくらい肥料が必要なのか把握するため、それぞれのボトルにトマト用、キュウリ用などと、ラベルをつくりました。それを見ていた子どもが、きゅうりのえさ、とマジックで書きはじめました。子ども発想がおもしろくて撮った写真です」。
  • こちらが上の過程を経て、固形肥料に書かれた"きゅうりのえさ"。「確かに金魚のえさにも似ているけど、これは肥料と言います、と子どもに言ったところ、『どっちも生きているからねー、大事にしなくちゃ』と笑っていました。生きてるからたべものが必要という意味では同じだね、かわいがって育てよう、と話しました」。
  • オプションで購入できるジュートカバーについても、モニタリングをお願いしました。このモニターは麻のテープで、ジュートカバーの名札を手づくり。「5L栽培キットは、ジュート袋をかぶせると、どっちがどっちだか分かり辛くなってしまうので、麻のテープに布用スタンプでタグをつくって、金具で留めました」。
  • こちらは、ジュートカバーに入って「猫が喜んでいるところ」を送ってくれたモニター。野菜栽培キットのプランターカバーとしてモニタリングをお願いしたジュートカバーでしたが、ガーデニング用品入れや鉢カバーとしてなど、別の用途や使い方についての提案も寄せられています。
  • 野菜栽培キットを、底面にワラを敷いた大きなプランターへ、3つまとめて収めたモニター。「大きなプランターに入れたのは、3つ一緒に動かしやすかったこと。ワラを敷いてみたのは、熱が伝わりにくいかなと思ってやってみました。効果はまだわかりません。真夏の熱から守れるかどうか、やってみようと思っています」。
  • 植えたばかりの種へ、「手じょうろで水やり」をしているところ。お子さまと一緒に野菜づくりを楽しんでいます。ベランダは木製デッキでシンプルなコーディネートに。「他にそれほどモノがないので、野菜メインで考えました。リビングのソファから眺めたときに、緑を感じられて、でも、ベランダはすっきりしていて、ごちゃごちゃしていないのが理想です」。
  • 種まきと同時に、手書きの栽培日記をつけはじめたモニター。かわいいイラストも添えられています。ベランダ菜園の野菜はもちろん、収穫して食べることが最大の楽しみですが、それも育てるプロセスを楽しんでこそ。このような成長記録をつけることで、日々のお世話のひとつひとつが、かけがえのない経験として、長く心に残ります。

次回予告
成長前篇/虫よけ

野菜栽培キットの第2回モニター報告、いかがでしたか。
肝心の野菜づくりについては、4月の例年にない寒さから発芽や成長が遅れ気味となっていましたが、ようやくモニターの方からも、発芽や成長のレポートが集まりはじめています。

次回は、いよいよ成長期を迎えた野菜の様子を中心に、菜園づくりに欠かせない虫よけや、ベランダ菜園づくりの工夫について、モニターの取り組みと気づきをお届けする予定です。

どうぞ、お楽しみに。