研究テーマ

成長(前篇)/虫よけ

4 成長(前篇)/虫よけ

※ご紹介している写真はすべて、本プロジェクトのモニターのみなさんが撮影しました

野菜栽培キットを使ったベランダ菜園づくりについて、30名のモニターそれぞれの取り組みを、2010年5月26日から6月9日の間に提出されたレポートを元にご紹介します。

今回の報告テーマは、虫よけです。有機肥料を使用する際に、避けて通れない虫の発生や、成長の"遅れ"について、さまざまな気づきを集めました。

ポイント1
有機栽培と虫よけ対策

有機栽培にはつきもののカビや虫の発生は、モニターの面々にとって、大きな悩みどころとなりました。もちろん、有機肥料の分解にかかわらないアブラムシやナメクジといった害虫については、いっそう困らされてしまいます。
今回はまず、モニターによる虫よけの気づきや対策、独自の試みについて、ご紹介します。

  • ベランダ菜園で悩みとなる害虫のひとつが、アブラムシ。このモニターは「アブラムシには、牛乳と少しの洗剤を入れて、スプレーするといいと聞いたので、試してみようと思います」とのこと。牛乳や酢といった食材を使った害虫対策については、他にも数名のモニターが関心を持っていました。
  • とげなしナスの葉の裏に、緑色のアブラムシが大量に発生していたというモニター。「現状、モザイク病のような症状が葉にでているように思えますので、もっと早めに注意して見ていれば......というところが反省点です」。
  • "羽の生えた小さな黒い虫"に悩まされたモニターも多数いました。「相変わらず、小さな黒い虫は、市販の駆除剤を使っても、効果なし。土の中で増殖しすぎていて、困っています」。
  • 「大量の小さい羽虫」が発生し、「市販の小バエとり(穴が空いてて誘引するもの)は全く効果なし」というモニター。写真をよく見ると、小バエではなく、キノコバエの仲間のようです。
  • 「小バエ対策で、草木灰を土の表面に敷いた」というモニター。土の上に黒く見えているのが、草木灰です。さらに、虫よけの策として、「木酢+どくだみ+唐辛子の自然農薬の原液を薄めて、朝夕時々、散布しています」とのこと。
  • 害虫退治については、市販の殺虫剤を使ったモニターと、あくまで使わずに駆除を行ったモニターに、はっきりと分かれました。「苗が思うように成長しておらず、農薬などは使いたくないので、小さなハエも、アブラムシも、ガムテープで補殺しています」というこのモニターは後者。
  • 噴射式の虫よけ剤として、複数のモニターが選んでいたのは、木酢や竹酢を薄めた液。他には、レモングラスの精油を使って防虫剤をつくった方もいました。自作の駆除剤を与えるときに、霧吹きは欠かせない小道具です。
  • 大きくなった葉っぱは、虫たちにとっても、格好の"おいしいごはん"。さっそく餌として狙われます。こちらのモニターは、「ミニキュウリの葉、1枚がナメクジとイモムシの被害にあいました。もっと早い段階で気づければ、と反省しています」とのこと。
  • こちらも、「ナメクジにレタスの外葉を食べられてしまいました」という報告です。見ると、大きく豪快な食べ散らかしあとが......。「でも、食べられた葉を取ってしまったら、また大きくなって、元通りになりました」。
  • 虫よけの一環として、物理的に害虫を野菜へ近付けない策を講じるモニターも多くいました。こちらの方は、地面から伸びる支柱のまわりにペットボトルを再利用したカバーを付けて、「ナメクジが野菜の方へ這いあがってくるのを阻止」しています。
  • こちらは市販の虫よけネットを使っていたモニター。その他、虫よけ対策としてモニターが挑戦したことには、「水をためたペットボトルをまわりに置く」「壁にアルミシートを張って反射光を当てる」「ニーム核油かすをまく」などもありました。ただし、最も効果が高かったのは、「こまめにチェックして直接補殺」で共通していたようです。
  • 最後にご紹介するのは、くらしの良品研究所のコラムでも紹介されていた、コンパニオンプランツへの挑戦例。「間引きしたトマトの苗を捨てずに、別の鉢でバジルと一緒に植えています」。コンパニオンプランツの試みには、他のモニターから寄せられた「キュウリの近くに殺虫効果の高いマリーゴールドを植えてみた」という実践例も興味深いものです。報告を待ちましょう。
開発担当者より 前回のレポートでは、ワラジムシの仲間に当たる益虫について紹介しましたが、ベランダ菜園づくりではもちろん、野菜にとって有益な虫だけが発生するわけではありません。アブラムシやキ小バエ、キノコバエ、ナメクジといった、野菜に害を与える虫の駆除については、多くの方が悩んでいました。 モニターに共通していたのは、食べるため野菜を育てるベランダ菜園づくりである以上、どうしても市販の殺虫剤をまくには、躊躇があるということでした。即効性のある殺虫剤に頼りたい一方で、やはり口に入れるからには安全だとわかる素材がよいというジレンマが、実際に市販の殺虫剤を使った方も含めて、今回のモニタリングレポートからうかがえました。 駆除剤の他にもさまざまな虫よけ策が講じられていましたが、効果のほどと言えば、やはり育て方マニュアルに記したとおり、株や葉をよく観察して、こまめに虫を取り除く作業が、ベランダ菜園の規模では、最も現実的な駆除策となっていたようでした。
そして、このような虫の発生や駆除を体験したことで、殺虫剤や有機栽培、あるいは食の安全について、あらためて思いを強く抱いたという声が、多くのモニターから寄せられています。

ポイント2
間引きした苗が大きくなった理由

有機肥料は、遅効性肥料とも呼ばれます。カビなどの微生物や土を耕す虫によって分解されるプロセスを経て、野菜にとっての栄養分に変わるため、すでに分解された状態の栄養分である化学肥料に比べて、作用には時間がかかるのです。結果、有機肥料で野菜を育てる場合、最初の成長が遅くなりがちな傾向があります。

モニターから寄せられた報告には、間引きした苗を市販の土に植えたものの方が、より早く大きくなったという声がありました。ここにも、有機肥料を使った栽培の特色があらわれています。

  • 有機肥料のキットで育てたサニーレタス(右の白丸内)が小さい一方で、「間引くときに、抜いた一本を市販の培養土に移してみた」サニーレタス(左)はいまにも食べられそうな勢いに。「日照などの生育環境は変わらないのに、こちらはとても大きく成長しています。キットの土が悪いのか、あるいはキットを移動させた時に、根が傷んだかもしれません......」と不安の声。
  • こちらも、間引いた方がより大きくなったというモニターの報告。本体キットのレタスが、まだほんの小さなころでした。「5Lの野菜(レタス、トマト)は、間引いて市販の野菜用の土に埋め直した苗の方が大きく育っています。元肥の差でしょうか......」
  • やはり同じく、キットのトマト(後方右)より、間引いたトマト(手前)と思われる苗の方が大きく成長しています。画像では切れてしまいましたが、隣にはやはり、間引いたものらしきレタスが、別の土を入れたプランターの中で、キット(後方左)より、あきらかに大きく育っていました。
開発担当者より 見た目にすぐ効果があらわれる化学肥料に比べ、自然の素材からつくられた有機肥料は、作用するまでに時間がかかります。これは、根が直接吸収できる状態に養分が分解されている化学肥料とは違い、有機肥料は、カビなどのバクテリアによる分解を経てはじめて、根から吸収できる養分になるからです。 今回のモニタリングでも、間引いた後、市販の土に植えた野菜の方が早く成長したとの報告が、多くのモニターから寄せられました。それもおそらく、化学肥料による栽培と、有機肥料による栽培の違いが、差となってあらわれたのではと思われます。 有機肥料は、効き目こそじわじわと穏やかですが、土にとっても野菜や植物にとっても、本当に優しい肥料であると言われます。化学肥料を施した土は、たしかに効き目の即効性はありますが、その後は窒素など、ある特定の肥料の割合が土の中に増えすぎて、結果的に野菜の生育を遅くしてしまいます。 最大の違いは、野菜の味そのものにあらわれるのかもしれません。有機肥料で育てた野菜の味が濃く、おいしいことは、多くの人が口をそろえて訴えています。有機肥料で野菜を育て、収穫を得た、モニターの報告に期待しましょう。

ポイント3
野菜栽培の失敗例

モニターが挑戦した、有機肥料を使ったベランダ菜園キットでの野菜栽培も、いよいよ佳境に入ってきました。しかし、今年は例年にない寒い春となったこともあり、中には成長の遅れや栽培の失敗も見られました。それぞれの事例を紹介します。

  • 4月の冷害の影響を最も受けたのは、ひと足早く3月からモニタリングをはじめた6名の社内モニターでした。実に6名中5名が、20Lか5Lのいずれかの野菜を枯らせてしまう結果に......。「やはり、植えるには早すぎましたね......。野菜を育てるまでは、こんなに気温を気にかけたことはありませんでした」。写真は寒さにやられてしまったレタスの芽。
  • 育苗ポットでの苗づくりがうまくいかなかったというモニターから届いたのは、「本芽が出ないまま、枯れてしまいました」という、空っぽの育苗ポットの写真。「根の状態はわかりません。春先の寒い日が続いたときに、部屋に入れてあたためるべきだったと反省しています」と。
  • こちらのモニターからは、発芽した芽を鳥に食べられてしまったという、ベランダならではの被害が寄せられました。「レタスについて、本葉がやっと出たと思ったら......。もし根が少しでも残っていたら、また葉を出さないかと観察中です。鳥よけのネットなどが必要だったのかも......」。
  • 失敗例ではありませんが、前回も紹介した有機固形肥料の白カビについては、さまざまな反応がありました。このモニターは、「カビが広がって、小バエの数も増えています。カビてしまってる部分は、取り除いてしまおうかなと迷っています」と悩んだ様子。別の例では、もともと生育遅れだった野菜がカビでいっそうだめになったと判断し、栽培キットを処分した、というモニターもいました。
開発担当者より 今年は深刻な冷害が懸念された寒い4月となり、野菜栽培キットのモニターにも、予期せぬ成長の遅れや生育の失敗が見られました。難しい状況にもかかわらず、モニターの方には真剣に野菜の栽培と向き合っていただきました。 気温が原因となった以外の失敗としては、やはり日当たりの確保が十分でなかったと思われる例が目立ちました。あとは、発芽した芽が鳥に食べられてしまったというケースも、2件ほどありました。 モニターから寄せられた報告には、有機固形肥料に発生したカビや虫が原因で野菜が弱ったのではないか、というレポートもありました。しかし、前回も触れたとおり、白いカビ自体は、有機肥料の分解を促す作用こそあれ、直接植物を弱らせるものではありません。 ただし、虫の発生については、いわゆる益虫と呼ばれる虫を除いては、野菜の根や葉、茎などを痛める害がありますので、注意が必要です。虫が好まないような環境に整える工夫が、求められてきます。

モニター写真館
ベランダ菜園づくりが、ここまで進みました

前回に引き続き、モニターのベランダ菜園づくりについて、野菜の成長ぶりや独自の工夫を、写真を交えて紹介します。

  • 初夏を迎え、「間引いたあと、それ以上の成長が見られなかった」というモニターからも、成長がようやく追い付いてきたという報告が届きはじめました。「グリーンリーフレタスが少しずつ大きくなって、手のひらほどに葉を広げています」。反省点は、「間引くときに隅っこに生えたものを残したので、プランターの隅っこにだけ植物がある状態が、寂しいといえば寂しい」とのこと。
  • こちらも、成長が遅れがちだったモニターから届いた、20L栽培キットのとげなしナス。6月上旬の段階で、「まだ育苗ポットです。本葉が出てきましたが、まだポットの下部から根が伸びていないため、植え替えていません」と、遅れがちな生育を懸念。「温度管理が難しいですね。やっとあたたかい温度が続くようになったので、これからの成長スピードに期待しています」。
  • やはり、生育が遅れがちのモニターから届いた、6月中旬時点のサニーレタスです。「本葉4~5枚の状態で、成長のスピードは遅いものの、状態は安定しています」とのこと。「発芽後、低温状態が続いたことが、成長の遅れにつながったと思います」。
  • 別のモニターからは、「本葉が6~7枚、出てきている状態」のグリーンリーフレタスが写真で送られてきました。「育ちが遅いようで心配しています。もっと日の当たる場所に設置すべきだったかな」と、こちらも反省の声。
  • 三つのキットをまとめて一つのプランターに入れて育てていたモニターからは、「トマトは花が咲きました。全体的に小さいですが元気です。レタスはきれいなグリーンになっています。もう食べごろです」と、うれしいレポートが。「とげなしナスは葉っぱが大きく、一つ目の花芽が出ました」。
  • 奥の5L栽培キットのレタスが収穫間近なのに比べ、20Lのミニトマトの成長具合が心もとない様子のモニター。「ミニトマトには液肥を週1回、活力剤を週2回与えていますが、日当たりの時間が短いのが原因なのか、元気がないようです」。このまま成長を見守りたいところです。
  • 6月上旬の段階で、ここまで立派に育ったミニキュウリの写真が届きました。「順調に育ち、ここ数日で相当伸びました。鉢に立てた棒にくるくる巻き付き、高さ80センチくらいになってます」とのこと。
  • こちらもミニキュウリを育てたモニターからの報告。実際には、この上にもまだ高く茎が伸びています。モニタリングをお願いした3種類の20L栽培キットの中では、ミニキュウリが最も成長の早い傾向がありました。
  • お日さまの光を浴びて、グリーンリーフレタスが、とても色つや良く育っています。ちなみにこちらは先に紹介した、ナメクジに食べられてしまったレタスの、その後の様子。しっかりと新しい葉っぱを伸ばして、おいしそうに育っています。
  • とげなしナスの花芽が付いたところ。この花芽がいずれ、おいしいナスになります。「親の小言とナスの花には千にひとつの無駄もない」と言われますが、これからいくつの花が咲き、実が収穫できるのか、楽しみな夏がやってきます。
  • 20Lキットのトマトが花芽を付けたというモニター。付属の有機肥料に加えて、「生ゴミぼかしからできた液肥か、米のとぎ汁を週に1回くらい。木酢液にどくだみの葉と唐辛子を半年以上漬けこんだ、自然農薬の原液を、500倍ほどに薄めて散布」と、自家製の肥料も与えています。「支柱も立て、高さ50センチを超えました。肥料のせいか、成長がとても速いように感じます」。
  • 多くのモニターに共通していたのは、レタスやキュウリに比べて、ミニトマトの成長が遅れ気味だということ。こちらのモニターも、そのうちの一人。これから夏に向けて、大きくなってくれることを祈りつつ、日々のお世話が続きます。
  • ミニキュウリについては、すでに6月上旬の段階で、花を咲かせるところまで進んだモニターがちらほらいました。こちらの写真でも、黄色いキュウリの花の根元に、小さな実ができています。「日に日に大きく成長している。幹も太く立派」と、楽しみな報告が届きました。
  • 6月に入り、「ミニトマトの花が咲いた」様子を送ってくれたモニター。茎もしっかりと育っているようです。ここから黄色い花が実をつけ、赤く熟すまでを日々観察するのも、ベランダ菜園の醍醐味です。
  • お子さまと一緒に野菜の成長を見守ってきたというモニターのベランダ菜園でも、株立ちミニトマトが青々と、たくましく育っていました。ラベル用のシールに種をまいた日を記入し、自作の立札をつくっています。
  • 間引きしたミニトマトをホールトマトの空き缶に植えて並べたモニター。もちろん、缶のイラストがトマトのプランターであることを示すラベル代わりにもなります。外国製の空き缶は、色遣いが、とても鮮やか。ちょっとしたアイデアで、ベランダ菜園のコーディネートが、いっそう楽しいものになります。
  • 上と同じモニターの素敵なDIYを紹介します。「木製の持ち手・車輪付きのボックスタイプの入れ物をつくって、トマトとレタスを入れています。雨が斜めに振り込んだ時は少し中に移動したり、日中に家にいるときは、午前と午後で、より陽射しが当たる場所に移動しています」。インテリアとしての側面もさながら、移動が楽であるである、底面の通気性があり水はけも良い、といった利点も見逃せません。
  • こちらのモニターは、まだ小さなお子さまが、ベランダの野菜に関心を示した瞬間をパチリ。もう少し大きくなったら、野菜のお世話を一緒に楽しんでもよいでしょう。
  • 小さなお子さまにとっては、土や野菜の苗に触れること自体が、大きな経験となります。出窓のような小さなスペースでも、日当たりや水はけが確保できるなら、十分にベランダ菜園づくりをはじめることができます。
  • 野菜栽培キットに猫が寄り添っている光景を送ってくれたモニター。飼い猫がすっかり、日当たりのよいキットの近くを気に入ってしまったとのことです。自然の恵みである野菜や植物のあるベランダは、人間にとってもペットにとっても、心地良く過ごせる空間なのかもしれません。
  • 「キュウリの葉のふちに、朝露が粒になってついていました」という、とっておきの一枚を送ってくれたモニター。この方は温暖な地方でのモニタリングということもあり、6月上旬の段階で、「高さは1mくらいで、葉も青々として、花も10ぐらい咲いています」とのこと。「収穫間近なキュウリも1本ありますので、近々収穫予定です」。

次回予告
成長(後篇)/収穫/調理

野菜栽培キットの第3回モニター報告、いかがでしたか。
今年の4月から取り組んでいるベランダ菜園づくりは、これから夏の到来に向け、いよいよ本格的な収穫のシーズンを迎えます。

ベランダ菜園プロジェクト最後の更新となる次回は、モニターのみなさんが育てた野菜について、収穫の様子と実際に味わっていただいた感想をまとめたレポートを、写真とともにご紹介します。
また、今回のモニタリングを受けて、無印良品の商品開発担当が取り組む、新たなモノづくりに向けた"気づき"についても、お知らせする予定です。

どうぞ、お楽しみに。