MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
トークイベント「団地リノベーションの部屋に暮らす」

※このレポートは、2013年10月5日に無印良品の家グランフロント大阪家センターで行われた、パネルディスカッション式のトークイベントを採録しています。

土谷
長谷川さん、ありがとうございました。
ここからは、第1期で泉北茶山台二丁の部屋に暮らすTさんにお越しいただきましたので、実際にどんな暮らしをしているか聞いていきましょう。まずは自己紹介からお願いします。
Tさん
茶山台に暮らしているTです。よろしくお願いします。
土谷
Tさんは実は、無印良品 天王寺MIOに勤務しています。それもあって、内装も無印良品のものがたくさんありました。無印良品が好きということもあってこの団地へ入居されました。先日お宅を取材で訪問したのですが、じっくり吟味して選ばれたものが丁寧に置かれていて、丁寧に暮らされている様子が滲み出ていました。
この団地に住んでみていかがですか?
Tさん
団地自体に住むのが生まれて初めてだったのですが、古さは気になりません。むしろ住環境がとても良いです。風通しもよく、まわりが緑で、静かです。団地のネガティブなイメージはなくなりました。内装もすごく好きなデザインで、毎日楽しく暮らしています。
土谷
それは素晴らしいですね。Tさんのお宅は、物がほとんどありませんが、もともと物を持たない暮らしをしていたのですか?
Tさん
数年前から物を持たない暮らしをしようと思い、徐々に減らしていました。その途中でこの物件に出会い、収納は少ないけれどこれ以上増やしたくないので、ちょうど良いなと思いました。身軽に暮らしたいという思いが強かったんです。
土谷
普段物を買うときはどうしていますか?買うたびに何かを捨てているとか?
Tさん
最近は物自体あまり買いません。化粧品等消耗品は買いますが、形に残るものはほとんど買いません。料理で使う果実酢を作る瓶等は買いましたが、長く使うものだと思っているので、自分の中では納得しています。食器などはほとんど買っていません。本当は欲しいものもありますが、欲は自分の中でコントロールしています(笑)。
土谷
お二人のお宅はとてもキレイです。もと押入れだったコーナーにディスプレイをしたり、ワーキングスペースとして作業したりしています。ちょっとしたスペースもとても上手に使っていますね。そしてキッチンにあるコーヒーミルで、Tさんが毎日コーヒーを淹れているそうで、まるで無印良品の広告のような暮らしをしています(笑)。
土谷
玄関の収納もきちんと整頓されています。実は靴は一人平均で16足持っているという統計もありますが、Tさんのお宅はお二人住まいで16足。かなり選び抜かれたものだけが使われています。

また、このタイプの部屋では麦わらパネルを採用しています。麦は普通捨てるものなのですが、それを裂いて色々な方向に固めることで作るボードは、強度も高く環境負荷も低いんです。

この部屋は窓を開けると団地の木々の高さとちょうど合っていて、風も入ってきます。プランをみてお分かりいただいたように、この団地の良さは北側、南側両面に窓があること。緑を通ってきた風が抜けるので、とても気持ちいいです。今の分譲マンションなどでは考えられないですね。

また、今回のリノベーションで配線が、むきだしになっていますが、気になりますか?
Tさん
全然気になりません。むしろこういった配線がむき出しになっているカフェに行くのが好きなので、まるで毎日カフェにいるような気分です(笑)。
土谷
壊しすぎない、つくりすぎない、というポリシーは、実は思った以上に大変なことです。具体的には、現場を解体していく最中で、無印良品チームとURチームで、「どこの段階で解体を止めるか」という線引きをしていきます。止め方を見つけることがつくることでもあり、どこでそのラインを見出すか問われます。全部壊せば美しいものを建て直すことはできますが、お金がかかります。
一方で、例えば「鴨居」を残すと便利なこともありますが、無い方が良いこともあります。私たちはリノベーションをしていく中で、「あるものをどう生かすか」を常に考えます。もともとは床が畳とフローリングでしたが、床材を同じもので統一しようとすると段差が生まれます。それを解決するためにもともとの敷居を残すことでお金をかけずに暮らせるというメリットもあるんです。
長谷川
鴨居について、入居前と入居後で印象が変わったとお聞きしたのですが、そのあたりを詳しく教えていただけますか?
Tさん
最初モデルルームを見に行ったときは、鴨居があることで空間が低く感じたので、鴨居はいらないなと思いました(笑)。しかし今はとても役に立っています。雨の日に洗濯物を干したり、夏は洗濯物をベランダに干す前に準備したりする場所として、またお風呂上りのバスタオルを干すといったように「干す」「かける」という用途で使っています。
長谷川
鴨居を残すかどうかについては、UR内でも議論になりました。無印良品チームとも相談して、第1印象としてこの鴨居は残すべきという意見になり、その後で鴨居が必要な理由を考えました(笑)。
もともと2室を1室にしたので、鴨居を使ってカーテンレールや布を吊るすなどの手がかりになるのではと考えていたのですが、洗濯物を干すなどの機能に使われているのを聞いて、残しておいてよかったなと改めて思いました。
土谷
次の問題は洗濯機置き場です。昔は洗濯機で洗濯をする文化がなかったので、当然の如く洗濯機置き場が当初ありませんでした。現代の暮らしにあわせたときに、どこに配置するかは課題でした。昔はお風呂場やベランダに置いていましたが、キッチンを可動式にしたりL字型にしたりコンパクトにすることで置き場をつくろうと考えました。
土谷
住み始めて1年ほど経ちますが、これからどんな風に暮らしていきたいですか?
Tさん
特に何かを変えようとは思っていません。ただ、もう少し物を減らしたいなと(笑)。
土谷
これからも賃貸住宅に暮らしていくとお考えですか? それは、いつでも動けるようにしておきたいということなのでしょうか。
Tさん
はい。物が増えれば増えるほど固まってしまうような気がするので、持ち物は最低限にしていつでも動けるようにしてきたいと思っています。
土谷
賃貸がよいのか、所有がよいのか。どちらが良い悪いではなく、住む選択肢として、自分のこれからの暮らし方として皆さんにも考えてもらいたいテーマです。
公団が最初にできたときは、部屋の広さは46平米。いま出来ているマンションは70平米を超え、当時の倍ほどにもなっています。そんな46平米の部屋に、昔は子どもも入れて4人で暮らしていた家がほとんどでした。
いまは70平米のマンションに2人暮らし。この違いは何かというと、物の量なんです。物がいっぱいで部屋が手狭になってしまいました。そう考えると、暮らし方は物の持ち方と深く関係していることがわかります。

MUJI×URのプロジェクトでは、基本的なベースを整えていき、その上に自分の好きな物を足していく。そんなお手伝いができたらと思っています。

キッチンについても何度か話に挙がっていましたが、昔のキッチンは幅が1800mmとやや手狭でした。少しコンパクトですが、テーブルと組み合わせることで奥行きが深いキッチンができたり、調理が出来るスペースを確保したりできます。今回の家でも組合せキッチンを提案しています。使い勝手はいかがですか?
Tさん
キッチンは家の中で一番好きな場所です。今回のリノベーションのために開発されたキッチンをつけていただいたと聞き、この家賃でこんなに良いものをつけていただいてありがたいと思いました(笑)。このキッチンがこの家を借りる決め手になりました。食事は、普段はテーブルで。キッチンは調理専門です。高さもちょうど良いですね。
Tさん
欲を言えばもう少しコンロが大きければ。大きい鍋を二つ並べるとぶつかってしまうので。でもいまのキッチンで十分です。気に入っています。
土谷
小さなマンションでキッチンが大きかったりすると違和感がありますよね。キッチンは毎日料理する場所、家の中心ともいえる場所です。UR団地の中でこういったキッチンをつくれたのはとても良かったです。大きい鍋を並べると入らないというデメリットはこれから改善していきたいですね。

お二方のように、丁寧に暮らされているご様子、良い物を長く使っている、そんなライフスタイルを送る方にこの部屋に住んでもらえて、作り手としてはとても嬉しいです。身軽な暮らしをしつつも、長く暮らしていただきたいです(笑)。今日はありがとうございました。
Tさん
ありがとうございました。