くらしの良品研究所 > Found MUJI > MUJI×JICAプロジェクト キルギス編 > #01 キルギスの自然や歴史

#01 キルギスの自然や歴史

皆さん、キルギス共和国という国をご存知ですか? 昨年よりこの国でJICA(※1)と無印良品の共同事業が始まりました。これからの連載を通して、キルギス共和国という国や現地における生産者やJICAキルギスメンバー達の姿、そしてこのJICA×MUJIのプロジェクトについて、ご紹介をしたいと思います。

キルギス共和国は、中国とカザフスタンの間にある人口540万人ほどの小さな国です。このプロジェクトは、その中のイシククリ湖周辺に住む生産者とJICAキルギスのメンバーと一緒に行っています。今回は、キルギス共和国やプロジェクトが始まったきっかけについて少しご紹介します。

天竺へ向かう道中で玄奘三蔵も歩いたシルクロードの道、その途中には現在のキルギス共和国にあるイシククリ湖があります。熱い湖の意味を持つイシククリ湖は、その名の通りマイナス20度を下回る外気温度でも凍ることはなく、琵琶湖の9倍の表面積を持ち、100を超える河川が流れ込みますが、流れ出る川は一本もないという神秘の湖です。

日本ではあまり知られていないキルギス共和国ですが、CIS(※2)諸国の人々にとっては旧ソ連時代からなじみの深いリゾート地だそうです。夏場の湖畔のバカンスはもとより、周辺の4000m級の山々は軽トレッキングから本格的な登山まで楽しめ、冬はスキー客で賑わいます。果樹栽培が盛んなため、春になれば湖周辺は杏子やリンゴの花が咲き乱れます。

豊かな自然の残る国土

JICAの一村一品プロジェクト

こんなキルギスのイシククリ湖周辺を舞台に行われているのがJICAの一村一品プロジェクトです。ソ連崩壊からすでに20年が過ぎていますが、キルギスはまだその影響を大きく受けています。地域住民の観光産業への関与は薄く、農業の不振などで多くの出稼ぎ労働者を出す結果となっています。コミュニティの崩壊も深刻で、地域住民間での情報共有や共同作業はほとんど行われず、地域の祭りやイベントも少なく、地域経済を推進するにも非効率な体制となっています。そこで、ハーブ、蜂蜜、ウール、果実、野生ベリー類など山岳国ならではのポテンシャルの高い地域素材を使った、一村一品の商品の開発と販売によって、地域経済を活性化しながらコミュニティの強化に取り組んでいく、このプロジェクトが始まりました。

JICAキルギスのプロジェクトでは、地域素材を活用した商品づくりをコンセプトとする一村一品運動の考え方を広めながら、意欲の高い人たちを束ねて組合を形成し、地域内での情報共有や効率的な生産体制の構築に取り組んでいます。しかし、地域住民の考え方はまだまだは旧ソ連型から脱却できない人が多く、情報共有を拒み、近隣の住民とのコミュニケーションはなかなか進みません。「大型機械が必要だ!」「一村一品ではなく一村一工場の建設を!」なんていう発想があちこちから出てきているような状況だったそうです。

JICA×MUJIのプロジェクトのきっかけ

この現地の状況を打破したいJICAキルギスのプロジェクトメンバーと、私たち無印良品は、キルギスで作られたフェルトの商品を通して出会ったのでした。ちょうどその頃、私たちはクリスマス時期のギフト商品として、生産者支援につながる商品が作れないかとJICAの民間連携室へ問い合わせをしていました。たくさんの世界中からの手工芸品の中から、このフェルト商品のあたたかい雰囲気に惹かれたのと、品質・技術の高さを見て、商品化を進められるのではないかと可能性を感じて、2011年JICA×MUJIプロジェクト連携事業がはじまりました。

私たちが、商品づくりを依頼したキルギスの生産者たちに対して、JICAキルギスメンバーは、初年度は結成されたばかりの組合を通じてハンディクラフト生産者へ技術トレーニングを重ねました。

技術リーダーへのトレーニング

しかし、実際に生産が始まるとその難しさは想像を超えたものだったようです。原材料の調達から出荷までのすべてが初めての体験。課題をひとつひとつクリアしていく日々が続いたそうです。最も困難だったのは、生産管理で、なぜなら周囲が700km近い湖周辺に点在する29ものグループの生産管理をすることは至難の業、JICAのプロジェクトスタッフに加え、海外青年協力隊のサポートを得ながらのモニタリングとなり、出荷前の数日間は、不眠不休の作業となったとのことでした。
2011年は、総生産数13000個余り。製作期間は約4か月半。総勢250人余りで達成したこの経験は、地域住民の考え方を変化させるには十二分の効果を発揮しました。一般の小売業で販売できる品質基準の厳しさから共同作業のメリットまで多くのことを学び、何よりすべての工程を手仕事で実施した達成感は自信と前向きな気持ちにつながったようです。

歴史的背景や地域的な問題を抱えながら生きている人々と共に考え、行動しながら少しでも前進できるようにチャレンジは続きます。私たち無印良品は、キルギスの生産者とJICAキルギスのプロジェクトメンバーの取組みに共感し、ものづくりを今年も行っていきます。

このコラムはJICAキルギスの協力の下、無印良品のプロジェクトメンバーが書いています。

※1 JICA(独立行政法人国際協力機構) 開発途上地域等の経済及び社会の開発若しくは復興又は経済の安定に寄与することを通じて、国際協力の促進並びに我が国及び国際経済社会の健全な発展に資することを目的とし活動する独立行政法人。

※2 CIS 独立国家共同体(Commonwealth of Independent States) ソ連崩壊時に、ソビエト社会主義共和国連邦を構成していた15か国のうちの12か国(正式には10か国)によって1991年に結成されたゆるやかな国家連合体。