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#02 キルギスにおける取組み

昨年に続き、今年6月に私たちは、キルギスを訪問しました。
6月のキルギスは、花が咲き乱れる一面の草原に、バッタや蜂などの昆虫が数多く生息する自然の豊かな季節です。

今回の訪問では、生産者の各コミュニティ(約300人が35のコミュニティに所属しています)の生産現場をいくつかまわり、またコミュニティのリーダー達とミーティングを行って、なぜ品質管理が重要なのかを重点的に説明をしました。やはり途上国でのものづくりは、品質管理、生産管理の課題が大きいのです。この課題を関係者が理解し、共に解決していく事によって、今後キルギスの生産者達の生産に対する実力があがり、私たちだけでなく世界中のたくさんの人や会社へ販売できる機会がもてるようになるかもしれません。そうなれば、生産者の皆さんが、更に現金収入を得ることができて、生活が向上していくことでしょう。こういった目的をもって生産者の皆さんは、私たちのオーダーを通して、JICAキルギスの皆さんのアドバイスのもと、皆で生産者団体をつくり、品質面や納期面の課題を話し合い、徐々に仕組みをつくっています。

生産者のリーダーとのミーティングでは、活発なご意見を頂きました。

生産者のリーダー達とのミーティングが終わった後には、皆でピクニックのように山の近くで懇親を兼ねて食事をしました。皆さんと歌ったり話したり、とても楽しい時間を過ごしました。私たちも歌って下さいとリクエストを頂きました。すぐに歌える歌も思いつかなかったのですが、なんとか「かえるの歌」の輪唱などを披露しました。(海外とのコミュニケーションの場においては、何か「特技」は必要ですね。)

生産者の皆さんと記念写真

そして訪問した2日間は、実際の生産現場の確認を行いました。そこでは危険物(針やハサミなど)の管理や検品の方法などアドバイスを行いました。今回、生産現場をまわりながら感じたのは、昨年よりも進歩しているということでした。生産者自らが工夫して効率的な作り方を提案している姿や、デザインから生産するための仕様書や作り方を各コミュニティで共有している体制ができていること、生産現場の整理整頓など、些細な事から大きな工夫まで、生産者の皆さんが自分達の事業として、このフェルト作りを捉えて、真剣に取り組んでいる事が一目でわかりました。

ここは、湖の全周700kmという非常に広範囲に生産地が広がるため、通常の生産で考えても生産管理は非常に難しい状況です。これを現地で生産者と共に、生産改善活動に取り組むJICAキルギスの皆さんに、この仕組みをつくる苦労があったのか、お聞きしてみました。

キルギス人は羊を中心とした遊牧を営んできた民族です。ソ連の一部となってからは山岳で寒冷な気候を活かして、メリノシープ、高品質羊毛を使った繊維産業などが発展していました。しかし、ソ連崩壊後に産業構造が変化し、大型の機械や集団作業形態が崩壊、羊毛を売買するマーケットルートも失われてしまいました。
せっかく育成されるメリノシープも羊毛は買い手がつかず廃棄されたり、小規模生産者の羊毛を集めても、一括で洗浄したりすることが難しくなったのです。また村間のコミュニケーションもうまくいかないため、地域住民が集まって、大量生産や注文にこたえることも困難な状況であったとのことでした。このような状況のなかで青年海外協力隊の力を借りて何とか達成したのが昨年、一年目のプロジェクトでしたが、これでは持続的な生産体制や地域活性化は図れません。

そこで、2年目のMUJI×JICAプロジェクトでは、特にキルギス人による生産と品質モニタリング体制を構築することを目指しました。
まずは、生産者グループの中から比較的技術力の高い人を選出し、技術リーダーとしました。イシククリ湖は周囲約700kmと非常に広いため、地域ごとの技術リーダーも選出しました。そのほかにも、モニタリングを専門に行う担当やグループごとの清掃や道具担当などを配置しました。そして、生産活動はすぐには開始せずに、地域技術リーダーを集めた技術研修を繰り返し、試行錯誤しながら効率的な生産方法や道具の開発を進めるようにしたそうです。

今年はお揃いのユニフォームで衛生管理もばっちりです。フェルトの商品に髪の毛や異物が混入しないための工夫です。

テンプレートを使ってサイズを図る方法の指導を受ける生産者たち

地域技術リーダーが厳しくサイズや品質をチェックしています

遅くまで続く技術者研修です。肩をほぐしながら、時には冗談もいいながら進んでいきました。

こうして、地域技術リーダーが各地域の生産者へ技術指導を行い、準備万端、効率的な生産体制が構築!といきたいところですが、そう簡単ではなかったそうです。技術リーダーから生産者へ情報が伝わらなかったり、地域技術リーダーの生産時の癖が同じグループ全員に伝播した結果、商品すべてが不合格だったりと困難は続きました。それでも関係者一丸となってあきらめません。モニタリングでは、ついつい時間をオーバーしてしまって、当日の最終グループのモニタリングは夜遅くなってしまうこともしばしば。生産者もモニタリングする側も夜遅くまで根気強く丁寧に問題解決のために話し合いました。時には意見をぶつけ合いながら、家族からは文句を言われながら、それでも少しずつ前進することで商品の品質が上がってきました。こういった、粘り強い作業を通して「コミュニケーションや人と人との関係を深める体験をはじめてしているようだ」と現地でサポートをしているJICAキルギスの皆さんは感じているそうです。これまで、他人やよその村に関心がなかった人たちが共同作業を行う訳ですから、きっとしっかりした地域の組織を作るには何年も必要でしょう。しかし、村人はこうも考えています。「目の前にある商品を納品するという具体的な目的があることで、地域住民が一丸となって何かを成し遂げるチャンスに恵まれていると言える。このチャンスを如何に活かしてキルギスの発展につなげるかは、キルギス人次第」だということ。各生産現場での自発的な工夫の数々は、そのようなキルギスの生産者の思いが見えるものでした。

MUJI×JICA×キルギスの人々との取り組みは始まったばかり、今まさにこのような熱い思いを持ってプロジェクトは進行しています。

このコラムはJICAキルギスの協力の下、無印良品のプロジェクトメンバーが書いています。