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#03 製品完成に向けての取組み

このプロジェクトでは、通常の商品開発とは異なるチャレンジの連続です。周囲700㎞に散らばる35のコミュニティで、商品づくりをしているので、同じ品質を保つのは大変なことです。
また、現地で生産を終えた後には検品作業があります。
今回は、現地で最終工程に向けて苦労したパスケースと刺繍のこと、そして現地での検品風景について紹介します。

1.苦労したパスケースのかたちづくり

今年は、昨年からの継続する携帯機器ケースとパスケースを商品化しています。昨年は苦労した携帯機器ケースですが、さすがに今年は手慣れたもので、順調に生産数を伸ばしていきました。今年、大きなチャレンジとなったのは、新しいデザインとなるパスケースでした。

2012年の商品(手前が、「パスケース」、後ろが「携帯機器ケース」)

パスケースは、携帯機器ケースと比べてもサイズが小さいため、寸法の許容範囲が狭くなります。さらに両面ポケットであるために作業工程が多く、正確な形づくりのための難易度は高いといえます。従来、生活の中で長年生産されてきたシルダック(羊毛で作る絨毯)やユルタ(移動式住居)を包む生地など、比較的大きく大雑把な製品とはだいぶ製品に求められる正確度が違います。
携帯機器ケースの生産を進めながらもパスケースをどう正確に成形するかのトレーニングは続きました。しかし、35のグループに分かれる小グループの商品は同一形状にはなかなか難しく、技術トレーニングを繰り返しても精度が向上せずにパスケースの生産をあきらめてしまうグループも出てきてしまったそうです。
この状況の問題解決のために、JICAキルギスチームと生産者リーダーたちは、最も精度の高い生産を行っているグループをじっくり観察し、記録を取って、そのデータから、なぜそのグループだけが精度が高いものを作れるのかを徹底分析してみたそうです。そうするといくつか他のグループとは違うポイントが浮かび上がってきました。それは、本当に些細な作業方法の違いだったそうです。例えば余分な羊毛の折り込み方や角処理など、一見して何が違うのかわからないほどの違いですが、そういった細かな作業上の気遣いの違いが、最後最終製品の結果にあらわれてきたそうです。ただし、この作業のポイントも、作業している本人たちも作業しているうちに自然に改善されたテクニックなので、第三者に説明することができずにいたようでした。
この発見されたポイントを明確に言葉と作業工程として説明できるように促して言語化し、改めて技術研修会を実施したところ、これまでと違って、瞬時に改善点が呑みこまれ、精度が格段に上がったそうです。やっても、やっても上手くできない試練を積んだ生産者達だったからこその吸収力でした。

苦労したパスケースの技術の習熟への伝達風景です
ピンク色の布をかぶった技術リーダーのアイザットさんを中心に進められました

2.苦労した刺繍の仕上げ

形づくりの次の工程が刺繍です。最後に刺繍されるワンポイントマークの出来次第ではせっかくの商品も台無しになってしまう為、ここも重要な工程の1つです。一つ一つ丁寧に茶色の羊毛で刺繍加工がなされます。ここでの難しさは、この刺繍を上手に出来る人が限られている為に、形づくりの生産が終わった後にも、この刺繍の工程が残り、最後の完成が遅れ気味になることでした。こちらに関しては、ガイド・テンプレートを手作りで開発し、同じレベルで刺繍が出来る人を増やすことで、納期を間に合わせることが出来ました。

刺繍は最後の仕上げ作業です。丁寧に一針、一針縫っていきます

ワンポイントの刺繍は、「アルガリ(羊)」、「太陽の人」、「踊り子」の3種類で、それぞれ表す意味があります。
「アルガリ」は中央アジアの山中に棲息する野生の羊をモチーフにしたもので、富や財を、またはスピードや柔軟性を意味します。「太陽の人」は、明るさや聡明であることを意味します。「踊り子」は、陽気に踊る、祭りやにぎやかなことを表わします。

現地で作成した刺繍の図面です。上から「アルガリ」、左下「太陽の人」、右下「踊り子」となります

ちなみに、このワンポイントマークは、キルギス周辺で見られる古代の石絵に描かれたものをモチーフにしたものです。

ペトログリフといわれる石絵には、数々の狩猟生活を表す絵が岩に描かれて今に残っています

3.検品

検品は、製品出荷前の重要な最終工程となります。検品は、出来あがった製品が、仕様書通りに出来上がっているかを確認することです。ここでは、サイズが正しいか、異物が混入していないかなどを確認します。同じ品質で同じ製品を作るためには、欠かせない工程となります。外観・サイズをチェックしながら、小さなゴミもピンセットで取り除いて、その後に金属探知機をかけていきます。そうして、出荷に向けて最終製品へと仕上げます。今年は金属探知機も購入して、現地での金属探知を含めた検品を行いました。

現地では若者が、検品作業に参加しました。皆が真剣に取り組んでいます

金属探知機の使用方法と検品の確認の仕方を現地で、
品質を管理するベルメットさん(写真中央)へ伝授し、現地で出来るように訓練を行いました

そして、キルギスから日本へ出荷がされます。輸出に関しても、輸出手続きの経験は昨年から2回目ですが、今年も無事に8月に日本に届きました。

製品をつくるという事は、納期を守り、仕様どおりに形作るということから、出荷に向けた最終加工・検品なども含まれます。そして、物流面でも安全に安く早く運ぶ事が求められ、関係団体とも共に協力しながら実行して、皆さんがお店で見る「商品」へと完成してくるわけです。キルギスの皆さんが大切につくった製品が、今私たちが受け取り、お店に並べられるように準備をしているところです。2012年の発売まで、あともう少しです。

お知らせ

キルギス共和国は昨年の東日本大震災の際には、いち早く日本の宮城県へ救援物資を送ってくれました。その感謝のしるしとして桜の苗木を贈るためのチャリティ・イベント「宮城とキルギスを花と笑顔で結ぶ夕べ」が、2012年8月5日に仙台で開催されました。
本イベントで、両国の理解が深まり友好関係の発展の一助になるよう、㈱良品計画として後援させていただき、こちらのチャリティへ参加者の皆様へキルギスでつくられたフェルト商品を贈呈いたしました。

このコラムはJICAキルギスの協力の下、無印良品のプロジェクトメンバーが書いています。