#05 キルギス3年目の進化
プロジェクト開始から今年で3年目を迎えていますが、今も進化や成長が続いています。
今回は、2013年に、キルギスの生産現場へ私たちが訪問した際に気が付いた変化についてお伝えします。
1.人に関する成長
今回私達が一番感動したのは、現地スタッフ、生産者の目まぐるしい成長でした。
初年度は、生産者側の技術リーダーであった女性が、このプロジェクトの事務局全体をまとめるリーダーとなり、活躍していました。同じくもう一人の女性も、3年経った現在ではデザイナー兼草木染の専門家となり、活躍をしていました。今回私たち関係者に説明をする姿などは、スキルを身につけることで自信をもって仕事に取り組む活き活きとした姿がありました。
また、事務局のスタッフは、国や地域の発展に貢献したいという強い気持ちがあり、周囲の若者の参加が促され、良い仲間が集まって、仕事を通して皆で成長しているようでした。
キルギスの事務局のメンバー、MUJI、JICAのメンバーとのミーティングも行いました。
このミーティングでは、これからのプロジェクトの課題点と夢をお互いに熱く語り合いました。
そして、そんな進化するキルギスのプロジェクトメンバーの今年のチャレンジは以下の内容です。
2.生産の効率化
ペンケースや携帯機器ケース、パスケースの生産工程の中で、昨年迄は、一つずつつくっていましたが、現場で生産の効率化をはかるために、今年は二つを一度につくれる効率化を図る方法を技術の優れたメンバーにより開発され、それが全生産メンバーに伝えられました。秘密は、プラスチックの独自のテンプレートをつくることで、一度の工程で二個同時に作成することが可能になったのでした。
現場の生産者から生まれた知恵による「工程の点検」による生産の効率化です。私たちもびっくりしたつくり方の進化でした。素晴らしい!
○フェルトケースの生産工程
フェルトのケースは、まず原料となる羊毛の計量をしたのちに、テンプレートの上に羊毛を幾重にも重ねていきます。その後に、石鹸水を浸して徐々に成形をしていきます。この成形の工程で非常に時間がかかります。成形ができたら、更に水で洗浄をして乾燥させます。最終商品までにはその他に、羊毛なのですが、髪の毛に似たような色の毛をピンセットで取り除く作業や、表面の毛玉になりそうな部分を剃刀でそぎ落とし、ケースの中に入ったフェルト屑を歯ブラシでかき出すという作業も入ります。
一個つくるのには、非常に多くの時間と作業が必要です。生産者の皆さんは、商品に愛情を持って、根気よく、そして皆で集まってわいわいとおしゃべりを楽しむ事も忘れずにつくっていました。
この筒状をハサミでカットして二個作成する工程がポイントでした。
皆でわいわいとおしゃべりも楽しみながらつくっています。実は、この風景がコミュニケーションの向上や情報交換に非常に役立っているとのことでした。
3.最終商品迄の完成
今年は、このキルギスのメンバーは、新しい商品の他にも、生産工程において、大きな一歩を踏み出しました。実は昨年迄は、商品をつくった後は、日本に送付し、日本で検品・梱包・タグ貼りをして、店頭で販売をしていました。今年の最大のチャレンジとしては、最終商品の検品と梱包迄を現地で完成させることでした。どうやったら商品の検品・梱包・タグ貼り・出荷までを間違いのないようにできるか、私たちもアドバイスを行いました。
その結果、今年は、初めて自分たちで店頭に並べられる「最終商品」をキルギスから出荷できるようになりました。ここまで商品を完成させることができれば、どこの国のどこのお店に出しても、立派な商品として販売できる実力がある証拠といえます。
4.新しい商品へのチャレンジ(日本限定発売です)
4-1.動物の置物
今年は、フェルトでつくったあたたかい雰囲気の動物として羊(写真)とロバの置物が新しくデビューします。
羊やロバはキルギスでも、一番見かける動物です。フェルトで一つ一つ丁寧につくっていきます。
一つつくるのには、2~3時間はベテランでもかかります。丁寧に針を刺してつくっていきます(ニードルパンチ手法)。
4-2.草木染(エスパルセット染)
エスパルセットというのは、下の写真のピンクの花の植物です。
今年から、原毛色に加えて、キルギスでは、キルギスの自然の素材を使って草木染にチャレンジしています。
このエスパルセットは、花は蜂がハチミツ用に蜜を集めたり、7月に刈り取った後は家畜飼料になる他にも、植えることでの土壌改良の機能もあるような多才な植物です。このキルギスでたくさん見られるエスパルセットを使って、今回商品化をしました。自然にやさしい「素材の選択」です。
写真はエスパルセットの花畑。本当に自然が美しいキルギスです。
○草木染の工房にて
釜一杯に、エスパルセットを入れて煮込んで、染色液を抽出します。染色の工程では、約三日間かかりますが、いろんな実験をしながら、染色技術の向上が図られています。
5.原料調達ルートの確保への努力
社会主義が崩壊した後のキルギスでは、いろいろな社会システムが一度壊れてしまっています。そのような状況で、羊はたくさんいるのに、フェルト用の羊毛の素材の確保には、実はこの2年間苦労していました。キルギス国内で、現地の事務局メンバーがフェルト用の羊毛の確保に奔走していたのです。
昨年からのそういった努力の結果として、今年は羊毛の供給者とパートナーを組むことができ、今後どのようにパートナーシップを進めていくか、現地での仕組みづくりが今はじまりました。
かつてオーストラリアから運ばれてきたメリノ羊の、高い品質の羊毛の確保のみならず、羊毛のトレーサビリティの確かさが実現できるようになりそうです。
○フェルト用の羊毛ができるまで
羊の毛を刈ったのちに、ゴミを取り除きます。その後、洗浄され、カーディングというフワフワの綿状に羊毛は加工されていきます。
本当に、原料から、成形、刺繍や検品・梱包まで、一つ一つが手づくりです。少しずつキルギスでは、進化しながら、完成度の高いフェルト商品ができ上がってきています。商品づくりは人づくりともいえるかもしれないとキルギスのプロジェクトを通して思います。
このような多くの進化のもと、以下の6アイテムは全世界でクリスマスギフトとして、動物の置物と草木染は日本限定でこの秋、発売予定です。楽しみにしていてください。
2013年発売予定のペンスタンド、携帯機器ケース、カードケースとなります(海外を含む展開)。
このコラムはJICAキルギスの協力の下、無印良品のプロジェクトメンバーが書いています。