研究テーマ

いま、できること。続けていくこと。

1 いま、できること。続けていくこと。

「良品と防災」プロジェクトを立ち上げた9日後の3月11日、東日本大震災が発生しました。9月の防災の日に合わせて実施予定の展示会に向けて、走り出した矢先のことでした。
被害を受けられたみなさまに心よりお見舞いを申し上げますとともに、この震災を私たち全体のこととして受け止め、できることをひとつずつ考え、実行していきたいと思います。
今回の大震災で、私たちは、地震のリスクが非常に高い国に住んでいるという事実を突きつけられました。そして、その現実を受け入れ、常に向き合っていかなければなりません。16年前に起きた阪神淡路大震災の記憶は、歳月の中で風化しようとしていなかったでしょうか? 今回のことを胸に刻み込み、防災についてみなさんと一緒に考えながら、いつ来るかわからない地震に対して備えていきたいと思います。

いまできることとして、何よりもまず、被災地で大変な生活を送られている方に対し、救援物資や復興支援の募金活動などを実践していきます。そして一方では、今回の教訓をふまえて、防災に関するさまざまな知恵や情報を継続してお伝えしていきます。
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企業情報「東日本大震災」による被災地への対応について
企業情報「東日本大震災」による被災地への支援物資のお届けについて

プロジェクトのアドバイザーである、NPO法人プラス・アーツの永田 宏和さんに聞きました。

「非常時持出袋」と大きく書かれた避難リュックを見たことがある方は多いでしょう。災害時に役立つさまざまな防災グッズが中に入っていて、いざという時にはこのリュックを持って逃げればいいと言われています。具体的な中身は、懐中電灯や携帯ラジオ、非常食、水など。こうした避難リュックは基本的に家庭で備えることを前提に考えられていて、これまではどちらかというと、その中身に関して、これはあった方がいいとか、これは便利だといった細かな議論が多かったように思います。
そんな中、3月11日に発生した東日本大震災は、東京をはじめとする大都会に暮らす都市住民に、少なくとも3つのタイプの避難リュックが必要なことを教えてくれました。

非常時持ち出し袋にも3つの袋がある

2011年3月11日14時46分、私は東京の末広町にある文化施設で、防災をテーマにしたシンポジウムに出席していました。ちょうど私が講演をしている最中に地震が発生しました。
大阪に住む私はその日、日帰り出張の予定でホテルも予約していませんでした。新幹線で大阪に戻る計画だったのです。ところが、すべて予定は狂ってしまいました。首都圏のあらゆる鉄道網は麻痺し、私は帰宅困難者となりました。知人宅に身を寄せるために3時間の徒歩移動を余儀なくされました。
そんなときに私を助けてくれたのは、日頃から持ち歩いている鞄の中に入っていた携帯ラジオとスマートフォンで開くことができたデジタルのマップでした。特に、土地勘のない東京での被災で右も左もわからない私にとって、このマップは命綱のような存在でした。現在地と目的地を入力し、ナビ機能を使うことで迷うことなく最短コースで目的地まで行くことができました。ただし、電源は今にも切れてしまいそうなギリギリの状況で、たどり着くまで冷や冷やしながら歩いていました。その日以来、私の鞄には充電器が入っています。
さらに普段から運動靴タイプの靴を履き、リュックにもなる2wayタイプの鞄を持ち歩いていたことも長時間の歩行にはとても有効でした。知人宅に向かう道中、会社から自宅に帰る会社員の方々がたくさんおられました。普段通りの皮靴やハイヒールでとてもしんどそうに歩いている会社員が多い中で、ヘルメットをかぶり、運動靴を履き、リュックを背負って悠々と歩く会社員の一団が、とても印象的でした。後から聞いた話によると、多くの会社員の人たちが遠方への帰宅を諦め、会社の中で一夜を明かしたといいます。そうなると、宿泊に伴う最低限のグッズも必要になるはずです。

今回の大震災における東京での体験を通じて、非常時持出品、避難リュックに代表される防災グッズセットにも以下の3つのカテゴリーが必要だと強く感じました。

1)普段から携帯しておくべき防災グッズセット(通勤かばんに入れておくべきもの)
2)会社など職場に置いておくべき防災グッズセット
3)家庭に備えておくべき防災グッズセット

1)と2)は帰宅困難に直面した時のために、3)は避難生活に直面した時のために必要な防災グッズセットです。それぞれのセットで重なるグッズも多数あるのですが、災害発生時に自分自身がどこにいるかわからないと想定すると、たとえダブっても、それぞれのセットにそれぞれのグッズを備えておくことが必要でしょう。ご自身の生活習慣や経験、知識を加味して独自の防災グッズセットをご準備いただければと思います。いつ発生するかわからない地震に備えて...。
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地震イツモ.com「防災グッズ」

いまとこれからのための防災啓発サイト
地震イツモ.com(http://www.jishin-itsumo.com/)

被災地の方々の苦難を少しでも和らげ、多くの人たちの命を守る一助になれば、という思いで開設された、防災の教訓や知恵、技のアーカイブサイト。これまで永田さんが発信してきた防災関連の情報の中から、「避難生活のエピソードと知恵」、「今後起こりうる震災に対して都市住民が備えておくべきこと」をテーマにまとめ、防災グッズセットもイラスト入りでわかりやすく紹介しています。

※永田 宏和(ながた ひろかず)
NPO法人プラス・アーツ 理事長
1968年兵庫県西宮市生まれ。1993年大阪大学大学院修了。
2005年阪神・淡路大震災10周年事業で楽しく学ぶ新しい形の防災訓練「イザ!カエルキャラバン!」を開発。
2006年NPO法人プラス・アーツを設立し、「イザ!カエルキャラバン!」を首都圏、関西圏、などを中心に全国で展開中。
2007年からはインドネシア、中米(2010年)、モンゴル(2011年)にもその活動の輪は広がっている。防災訓練プログラムの普及以外にも、防災とクリエイティビティをテーマにした大規模な展覧会の企画・プロデュースやオリジナル防災カードゲームの開発などにも携わっている。
『第6回21世紀のまちづくり賞・社会活動賞』受賞、『第14回防災まちづくり大賞消防科学センター理事長賞』受賞

※2011年1月より「良品と防災」という名称で取り組んできたプロジェクト名を「いつものもしも」に変更しました