研究テーマ

いつものもしも

2 いつものもしも

このプロジェクトがスタートしたのは、阪神大震災から16年が経過した今年1月のことです。歳月の中で記憶が風化し、災害に備える意識も薄れていく中で、防災意識を向上させたいというのが、当初の目的でした。

そして、3月11日の東日本大震災。社会全体の防災意識は急速に高まり、防災関連の商品が品切れするほどになっています。無印良品も例外ではありません。このような状況下で、私たち無印良品は、これから何をしていくべきだろう?
欠品が起きている防災用品の供給は? 機能的に変更しなければならない点は? 進化させなくてはならない点は? また、被災地に行き被害の現状を確認する、アウトドアと防災との関連性を検証するためにキャンプ場へ行くなどなど、課題は山のようにありました。
明日にも起きるかもしれない震災に対して、大切な人を守るために一日でも早く正しい知識を得て、道具を揃え、確実に震災に備えたいという切実な思いが強くなっている今、私たちは開発の速度を速めていかなくてはなりません。プロジェクトのスタート時点で掲げた「学習期間を経て新商品開発にシフトする」というスケジュールは、震災のインパクトとともに大幅な変更を迫られています。そのような開発スケジュールの見直しの中で、日々行う検証の中から、進めるべきテーマが見えてきました。

「いつものもしも」

3年前に「地震ITSUMO+無印良品」の企画展の中で掲げたテーマは、「防災の日常化」でした。「地震のリスクは常にある。地震はいつでも起こりうる」という考えは、地震大国・日本に住む、まさに今の私たちの気持ちを代弁しています。「いつでも起こりうることだから、常に備えよう」のメッセージは、私たちのプロジェクトの根幹です。私たちは3年前に掲げたテーマ「防災の日常化」を、さらに検証していきました。
その中でわかったのは、「旅も、キャンプも、防災(エマージェンシー)も基本的な装備は同じである」ということです。「家の外」という環境で生活するために用いる基本の道具は、その環境下で「安心・安全を実現する」という意味において、求められる機能は根本的に同じなのです。

私たちは購入して「どこかに閉まっておく」防災用品ではなく、旅にもキャンプにも用いることができる「生活用品」としての提案をしていきたいと考えました。購入して手元に置いたことで安心してしまい、いざという時に使いこなせないのでは、本当の防災用品にはなりません。その道具をさまざまな生活のシーンで用い、緊急時にいつも通りに使いこなせてこそ、「本当の備え、防災力」となるはずです。
日常化は、食料の備えも同じテーマです。乾パンに代表される長期保存食を備えることもできますが、日常的に消費し、常に一定数を足しながら備蓄する「ローリングストック」という考え方もあります。例えば、無印良品のレトルト食品です。みなさんから「おいしい」とご好評をいただいていますが、乾パンのように何年も保存がきくものではありません。しかし、日常的に食べながら一定量を常に決まった場所にストックしておけば、「おいしい食の備え」になります。
情報の収集や緊急時の連絡方法なども、普段から意識することで、いざという時に備えることができます。東日本大震災では行政などの緊急対応に電話線が使用され、一般の電話は繋がりにくくなってしまいました。逆に、Twitterなどの新しいネットワークは震災直後でも繋がっており、日常的に使用しているユーザーたちの拠りどころとなりました。緊急時の連絡方法として、専用に「171」災害伝言ダイヤルがありますが、これだけでは緊急時の需要のすべてに応えられるだけのキャパシティーはないことがわかっています。インターネット伝言板などもあり、そちらは保存できる伝言件数は「171」を上回っています。普段から、テレビだけに頼らず、ラジオやインターネット(Twitter)などから情報をとる工夫をし、いざという時に情報がとれる状態をつくることが大事です。
携帯電話は進化し、今やほぼ一人が1台を所有するほど普及が進みました。就寝時は、そのアラーム機能を使うため、ベッドサイドに置いて寝る方も多いでしょう。そんな身近な道具を有効に活用できるアイデアも、みなさんに提供していきたいと思います。

また、東日本大震災では津波の脅威がクローズアップされていますが、もう一度、直下型地震に対しての対策を考える必要がありそうです。16年前の阪神大震災では、8割を超える方々の死因は、家屋や家具の倒壊でした。東京・東海エリアは特に、東南海プレートの活動による直下型地震のリスクが高まっていることが、研究で明らかになっています。家具や家を扱う無印良品として、みなさんに安心・安全な生活を提供するため、行動していきます。

6月末には、WEB上でアンケートも実施する予定です。この未曾有の大震災を目の当たりにした今、みなさんの率直なご意見を伺いたいと思っています。プロジェクトのこと、新商品のアイデア、何でも結構です。ぜひ、ご意見をお寄せください。

※2011年1月より「良品と防災」という名称で取り組んできたプロジェクト名を「いつものもしも」に変更しました