研究テーマ

使い勝手を考える ─大阪ミナミから─ 2.ハードルが高い

障害者施設社会福祉法人「あまーち」様が新たに建てられる施設に、無印良品の商品を納品する機会をいただきました。
今回は前回プロローグに引き続き具体的な内容をお伝えしていきます。

2.ハードルが高い

無印良品としてどのように提案できるか。
提案を求められている家具は30点ほど。
提案の期限を聞いてみると、期限は何と2週間後。

内心かなり焦りました。
今だからこそ話せますが、この2週間にはインテリアアドバイザー橋尾の長期休暇が入っていました。しかも既に飛行機とホテルのチケット手配済み・・・
もしかしてキャンセルしなければ無理じゃないか?
そんな考えが頭を過ぎりながら橋尾を見ると、「やりますよ!!」っていう目をしている。
私は腹をくくって設計事務所(佐藤総合計画)をあとにしました。

まず私たちが行ったのは、図面に書かれている家具について、その寸法や棚の形状に最も近い無印良品の家具を当てはめることでした。一通り挑戦しましたが、造り付けの家具をそのまま無印良品のラインナップに置き換えるなどできるはずもなく、ある程度似ているカタチで揃えることしかできません。
「本当にこれでいいのだろうか?」
「実際に使う「あまーち」の、生の声を聞きたい。」
設計者との打ち合わせでは、その想いを素直に聞いてみようと考えていました。

2週間後、打ち合わせに伺うと現れたのは、担当の砂川さんとこのプロジェクトの責任者である廣富さんでした。
廣富さんは、席に座るや否や「あまーち」に対する想いを熱く語り続けました。
「あまーち」との出会いやこれまでの経緯、「あまーち」の魅力や現状の問題・・・
そして、廣富さんが最後に切り出した言葉は、「すぐに『あまーち』と一緒に打ち合わせをしたいけれど、いつ行けますか? 『あまーち』に行って、どのように家具が使われているかを見に行きましょう。そこから詰めても間に合います。すぐに日程調整しましょう。」
こちらが考えていた想いを先に先方から言われ、正直びっくりしました。
そして、私がどうしても聞きたかったことを質問してみました。
なぜ「無印良品」を候補に選んだのでしょうか。
廣富さんは次のように答えてくれました。
「無印良品の飾らない家具が、『あまーち』の仲間の活動にしっくり合うこと。」
「違うラインナップの商品であっても、同じ雰囲気で揃っていること。」
「店舗やネット販売が充実しており、欲しいときにすぐ買えること。」
「誰もがいいなと思える家具を『建築サイドが家具に歩み寄る』ことで障がい者福祉施設の持つ特殊性に適応させたいということや、そうすることで、仲間やスタッフが落ち着いて活動できる場を整えていきたいということ。」
とてもうれしく思いました。
「制約があるからこそ、工夫する楽しみが味わえる」
私たちは設計者の想いにしっかりと答えていきたい。そう決意しました。

気持ちが前のめりになるのを感じながら迎えた、「あまーち」との初顔合わせの日。
「あまーち」からは、事務局長の中川さん、主任の井川さん、そして副主任の西澤さん3名に出席していただきました。
打ち合わせでは、活動内容や使い勝手を一通り伺い、早速いまの施設を案内していただくことになりました。
実際に作業所を拝見すると、「あまーち」のおかれている状況をよく理解できました。
仲間の利用するテーブルは高さがバラバラで、ぐらついていて不安定なものや、中には車椅子が入らないものもありました。
収納棚に目を向けると、メインの収納は1マスが幅60cm×高さ40cmのマス目状の棚で、ここにほとんどのものが雑多に収納されている様子でした。
でも、よく見るとスペースの余っているマス目も多く、西澤さんからは、「もっと効率の良い収納にしたい」という要望を伺うことができました。
無印良品には「スタッキングシェルフ」という収納家具があります。40cm×40cmのマス目状の収納棚で、これをベースに工夫を重ねればきっとうまくいくはずだと、提案をする橋尾は直感したのですが、中川さんは不安そうな表情をしています。
聞いてみると、「溢れかえる物品を、引っ越しまでに整理するのは途方もない作業、本当に最後までうまくいくのか、これからの作業量を考えると気が遠くなりそうだ」と言うのです。
そこで橋尾から「新居に引っ越すまでの整理・収納のあり方を一緒にやりましょう!」
と提案させていただきました。
私たちの想いを伝えきったところで、廣富さんから提案がありました。
「実際の商品を見ながら、どうやって無印良品の家具を使っていけるか具体的に検証しませんか? 次の打ち合わせは無印良品難波で!」

そんなこんなで、無印良品の家具の採用が決まり、急転直下、打ち合わせの舞台は店舗に移っていくのでした。

この活動に関わった方々
・社会福祉法人「あまーち」様 http://www18.ocn.ne.jp/~ama-chi/
・佐藤総合計画 http://www.axscom.co.jp/

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    7.エピローグ