研究テーマ

使い勝手を考える ─大阪ミナミから─ 4.ゆるやかに引っ越そう

今回、社会福祉法人「あまーち」様が新たに建てられる施設に、無印良品の商品を納品する機会をいただきました。
「あまーち」様は兵庫県尼崎市にある生活介護事業所・居宅介護事業所です。
名刺やレターセットを作製する施設にはカフェも併設されていて、障害のある方々の社会参加や自立を支援する活動を行っています。
この活動報告では、無印良品の商品を納品する過程と、その中で起こる(であろう)さまざまな出来事を、お伝えしていきます。

第3回より活動レポートのバトンを受けた橋尾です。
急な登場でしたが、今後しばらくは私の目線で綴っていきたいと思います。

普段私は、無印良品難波でインテリアアドバイザー(IA)の仕事をしています。IAの仕事でいつも心掛けていることは、店舗にお越しいただいたお客様と話しをしながら、それぞれの方が心に思い描く「どんな風に暮らしを楽しみたいか」というイメージを共有することです。そのイメージの実現をお手伝いすることが、最も大切な役割だと思っているからです。

そんな日々のお客様との会話から、多くの方々が共通に抱えている悩みも見えてきます。それが収納です。
「もう少しスッキリとさせたいのだけど・・・」
そんな風に悩んでいる方は少なくありません。

「あまーち」の方々もまた、収納には困っていました。「あまーち見学」の際には、ありとあらゆる場所の収納を開けて見せて下さいましたが、そのどれもが「とにかく入れている状態」で管理が出来ていないように見えました。他方で、前回のスタッキングシェルフの回でもお伝えしたように収納がダブついているな、と感じるところもあり、「あまーち」の西澤さんも「本当はこんなに要らないんやけどな・・・」と呟いておられました。忙しい毎日を過ごす中、収納を見直す時間をつくることはなかなか難しいことです。

しかし、改めて考えると、これまでの人生で「収納」について学ぶ機会があったでしょうか。そう、収納が難しいのは、当たり前なんです。誰もやり方を教えてもらってないのですから。
小学生のころ、昇降口では、自分の靴を入れる場所は決まっていました。教室では、ランドセルや体操着などを置く場所は決まっていました。お道具箱もきれいに片付けられていました。ただ、私たちは決められた場所に決められたモノを入れることは教わってきましたが、必要なモノの量や置き場所を自分で決めることはありませんでした。私たちが学校で教わったのは、「元あった場所に、戻す」という「片付け」で、「収納」の方法ではなかったのです。私もこのことに気付いたのは、実際に整理収納アドバイザーの方のお話を伺う機会を得たときでした。

分ける→減らす→分類する→収める。
この4つの行為が収納の基本といわれます。厳密には、このプロセスを「整理収納」と呼びます。「分ける→減らす→分類する」が「整理」にあたり、「収める」だけが「収納」にあたります。つまり、満足のいく収納を実現するためには、まずは「整理」がとても重要なのです。

例えば、衣類。
「あなたは今、靴下を何足お持ちですか?」
日々のIAの仕事の中でお客様に投げかける質問です。しかし、「○○足です」と言い切れる方はまずいらっしゃいません。「あまーち」の場合でも、着替えの収納には、トレーナーや分厚い靴下など今の季節には必要でないモノがたくさんあり、スタッフの方も何が入っているか把握が出来ていませんでした。また、親御さんの心配もあり、どうしても着替えの量が必要以上にあるということでした。

そのような状況に対して、まずは現状を把握し、「自分に必要なモノが必要な数だけある」という状態をつくりだすこと。それが、心地よい収納の秘訣です。

そこで、現状を把握するため、まずは収納ケースに収められていた全てのモノを出すことにしました。西澤さんは「これ何やろ?(笑)」と恥ずかしげにおっしゃりながら、取り出したモノを私に見せて下さるのと同時に、ご自身が興味津々、収納ケースを開けている様子でした。この「現状を把握する」ことがとても大切で面白いのです。人は現状を改めて見直すと、自然と何をすべきかを考えるものなのです。

そこから今必要なモノとそうでないモノとに分けていきます。減らすということを積極的に行いながら「作業所」に置くべきモノを決めて、必要と判断したものを誰のモノかが分かるように分類し、収めました。写真の着替えはスタッキングシェルフに入れることになっていたので、スタッキングシェルフのマス目ピッタリの大きさの収納用品を選びました。また、何名かの分を一緒に入れるので、立てて入れられるように深さがあること、仲間の手に触れてもケガをしないようなやわらかい素材であることなども選ぶポイントとなりました。
こうして「必要なモノが必要な数だけある」すっきりと使いやすい収納をつくっていきました。

ただ、普段の店舗業務では、この肝心な「整理」の部分はお客様のみで行って頂くことになり、収納家具や収納用品を案内することによる「収納」のご提案が中心になります。「整理」をお客様と一緒に考えるには、お宅に訪問する必要があり、店舗スタッフとして働く私にとってはどうしても仕事の範囲外になるのです。
そんな中、「あまーち」の仕事では、新しい施設の収納について、「整理」の部分から一緒に考え、収納家具のご提案、さらに「収納」作業までもお手伝いする機会を得ることができ、私にとって、とても貴重な経験となったのです。

「あまーち」では、毎朝仲間が出勤し、スタッフの助けを得ながらマーブリング作業やカフェ業務などを行っていますが、これは仲間と社会とのつながりを生み出す大切な活動の一つです。そんな「あまーち」ならではの暮らしの場である作業場の収納も一緒に見直すことにしました。
マーブリング作業は、一筆せんやメモ用紙など製品となるまでに印刷やアイロンがけなどいくつかの工程をはさみます。まずは、その作業工程を確認し、工程を何段階に分けるとよいかを決めていきます。そのあと、それぞれの工程にピッタリの収納用品を選定するのですが、作業スピードや受注が増える時期の量に合わせて、製品の最大数がきちんと入るかで収納用品の大きさを決めます。さらに、作業時にテーブルヘ運べるようにと、種類は軽い素材で引出し式にすることにしました。

こうして選んだ収納用品の引出しにそれぞれラベリングをして、これで、一目で誰でも判断出来る収納が完成です。
作業は、スタッフの方と一緒に行いました。これまでとはスッキリと見た目が変わり、「きれいで分かりやすい」と喜んで頂けましたし、マーブリングの美しい模様がうっすらと見えてポリプロピレンの半透明という特長が活かされたと思います。
別の職員の方が通りかかると、「わっ! これカッコいいやん。」と驚いてくださり、引出しを開けたり閉めたりしながら、「これが、アイロン後ね・・・」と呟きながら使い勝手を楽しく確かめているようでした。

ところで、この作業は、新しい建物ができる前に行ったのです。
引っ越しは、これまでの暮らしを見直す機会となるので、整理収納を考える絶好のタイミングでもあります。ただ、ふつうは、新しい建物に引っ越してから整理収納を始めるものだと考えがちです。もちろん家具などは新しい建物に移ってから買うものだと思います。ですが、「整理」の部分は、引っ越す前から取り組むことができそうです。

引っ越しはとても大変で、やることが多く段取りよく進めていかなければなりません。そのため、今の作業所で先に入れ替えが出来る場所はしてしまい、引っ越しはそれをそのまま持っていくことを提案しました。そうすれば、新しい場所では必要なモノが必要な数だけある状態ですぐに使うことが出来ます。
全部を新しい建物に引っ越したあとにすると考えず、引っ越し前から整理収納を組み立なおすと、驚くほど引っ越しがはかどります。ゆるやかに引っ越す。そんな引っ越しもありかもしれません。

整理をして不要なモノを手放すと、今あるモノを大切にするようになります。そして、モノが本当に必要かどうかを深く考えるようになります。モノをどう持つかは、どのように暮らすかと同じことなのです。「足るを知る」なんて言葉を合言葉に、今の自分の周りを見直してみるのもいいのではないでしょうか。

この活動に関わった方々
・社会福祉法人「あまーち」様 http://www18.ocn.ne.jp/~ama-chi/
・佐藤総合計画 http://www.axscom.co.jp/

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