研究テーマ

開発秘話‐靴下職人へインタビュー

8 開発秘話‐靴下職人へインタビュー
写真 吉谷靴下株式会社
(左)品質・生産革新部 部長の向井道郎さん
(右)品質・生産革新部 課長の藤原博文さん

フットカバーの設計や試作を引き受けてくださった吉谷靴下株式会社の向井さんと藤原さん。私たちは、お二人のことを靴下のプロと呼んでいます。今回のフットカバーは、お二人の長年の経験や知識、そして技術により形にすることができました。

今回はそんなお二人に、フットカバーのこと、開発中の思い、完成品ができるまでに苦労したことをインタビューしました。

  • 開発担当者
  • フットカバーの改良について、最初に私たちが相談したとき、どのように思われましたか?
  • これまで販売していたフットカバーも、幾度となくテストを行いリニューアルを重ねて進化し続けてきた商品でした。
    でもお客様に不満な点があるのなら、それを掘り起して更に多くの人に愛用して頂けるようにすることが私たちの使命だと思っています。改良には喜んで協力させていただきました。
    それに、昨今の靴下市場の変化から、"今後発展の可能性がある"とも感じていたんです。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • 靴下市場の変化ですか??
  • そうです。
    みなさん、靴下って秋冬に履くものでしたよね? 夏は裸足という人が圧倒的なんです。
    その常識を変えたのがフットカバー。秋冬以外の真夏に履く靴下が登場しました。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • なるほど。 秋冬に履く靴下は保温、防寒の用途が多いけれど、フットカバーは素足で靴を履きたくないからという理由や蒸れやべたつきを抑えたいからという理由で春や夏に履いている人が多かったです。 他のフットウェアとは履く季節も違うし、用途も違いますね。
  • 普及してまだ日の浅いフットカバーはもっと市場が広がり、発展できる商品だと思っています。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • 今回のフットカバーは、最初どのような方法で開発しようと考えたのですか?
  • 今回の課題に対して、滑り止めのようなものを後から付けるのではなく、編地自体に滑り止め効果を持たせる方法で、脱げにくいと実感してもらえる商品にすることが必要だと考えました。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • 今回履き口の裏側に入れているダウンストップという糸について教えてください。
  • ダウンストップは伸縮性の高い"ポリウレタン"を主原料とした糸で、上着、下着、ストッキング、ソックスなどに幅広く使われています。
    ゴムのような手触りなので、今回は滑りにくい糸として用いました。
    開発当初、このダウンストップをかかとの後ろ全体に使い、脱げにくい試作品を作って多くの女性に履いていただきましたが、効果のない人もいて断念しました。この位置に入れても人によってばらつきがでてしまうな、と(参照「4. 試作品ができました」)。 一般に、滑り止めというと踵の位置に入れているものがほとんどですが、実際に履いてくださった方々の意見を聞いたり、脱げたときの様子を見せていただいたりして、踵の位置ではダメなんだと気づかされました。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • その次の試作品からはダウンストップを履き口の裏側に入れていましたよね。
  • もともとダウンストップに滑り止め効果があることは分かっていました。だからその効果を発揮できる位置を探しました。そこで、浮かんだのが靴下本来の凹凸を利用することでした。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • 靴下本来の凹凸?
  • 靴下には、ゴムが入っていて端を止めるように編んでいるところがあり、私たちの靴下業界ではこの部分を"ウエルト(welt)"と呼んでいます。
    今回のフットカバーにもこの位置に(下図黄色枠部分)ウエルトがあります。
    そのウエルトの裏側に、粗い編み目部分が見えますよね。
    ここにダウンストップを編み込むことに着目しました。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • ウエルトの裏側は、私たちが"履き口の裏側"と呼んでいたところですね。
  • ウエルトの裏側は生地が厚くなっているので、他の部分よりも肌に当たっています。そこにダウンストップを編み込めば、肌とダウンストップが確実に密着する。この位置の方がダウンストップの滑り止め効果がでやすいと考えたんです。 そしてもうひとつ。フットカバーを履くと、つま先⇔アキレス腱方向に履き口が伸ばされ、特にアキレス腱部分は伸びが大きくなります。生地の伸びとともにダウンストップも伸び、肌とダウンストップはさらに密着します。これによって、一番ずり落ちやすい踵からも脱げにくくできました。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • そこまで考えられていたなんて知りませんでした!
    まさに、フットカバーの形状とダウンストップの特性を最大限生かした設計ですね。
  • 履き口裏側にダウンストップを編み入れることは画期的で、他社ではやっていない試みです。特許も出願しています。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • フットカバーを愛用されている方々にグループインタビューを行いましたが、映像をご覧になっていかがでしたか?
  • 想像以上に使用用途が広く、着用シーズンが長いことに驚きました。
    それに年代別で求められることも違っていて。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • そうですね。
    ブーツと合わせて履く方もいらして、春や夏だけでなく一年中愛用されている方が多かったですね。40歳代の方の中にはオシャレのために、靴からあえて見せて履くという方もいらっしゃいました。
  • みなさんのリアルな意見から、フットカバーが時々脱げる人にとっては不快感があり、絶対脱げる人にとっては不信感があるということがわかりました。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • 今回のフットカバーは、4度目の試作でようやく完成しました。出来上がるまでに苦労した点はありましたか?
  • 人により踵の形が違っている点をどうカバーするか、これが最も苦労した点です。 例えば、人は足の長さや足幅だけでなく踵の形も違っているので、Aさんは脱げないけど、Bさんは時々脱げる、Cさんはすぐ脱げるというように個人差があるんですね。
    そのためどういう足の形の人に合わせた設計にするか、これを決めるのが大変でした。
    私たちは男性でサイズが合わないので、試作のたびに自社の女性社員にも履いてもらい、検証を行いました。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • 実際に販売する商品の製造もお願いしていますが、今回のフットカバーを生産するにあたり、苦労されたことはありましたか?
  • ありましたよ~。
    生産するとなると、継続してたくさんの量を作らなければならないため、原料と設備の確保が重要です。
    ダウンストップは色々な用途に使われているとお話しましたが、今回のフットカバーに合った糸を安定して供給してくれるところを確保しなければなりませんでした。 また、これまでと違う商品を作るわけですから、工場での大量生産でも同じものが作れるように編み機の調整が必要でしたし、足りない部品がある編み機には新しいものを購入して取り付けて使えるようにしました。 それらが整って初めて、商品化ができるんです。
  • 吉谷靴下
    株式会社

  • 開発担当者
  • 試作品ができたから、商品もできる、とは限らないんですね。 今回のフットカバーで是非みなさんに知ってもらいたいことはありますか?
  • 一般的に売られているフットカバーと作り方が違うということです。 一般的なフットカバーは、
    1)まず普通の靴下のように編む
    2)カバーの形状に沿って裁断する
    3)履き口にゴムを縫い付ける
    ここでフットカバーの形は完成で、最後に
    4)生地のかかと側にシリコンなどの滑り止めを付ける
    一般的なフットカバー という4つの工程から作られています。 でも今回のフットカバーは2)、3)、4)の工程を省いています!
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • 1)の工程だけで出来てるんですか?!
  • そうです。普通の靴下のように編むというのは同じですが、後から裁断しなくていいように最初からフットカバーの形に編み、最後に履き口裏側にダウンストップを編み込んでいます。 編む時間も短縮できるし、生地の無駄がないので環境にもやさしい設計なんですよ。
  • 吉谷靴下
    株式会社
  • 開発担当者
  • 生産の裏側にそんな工夫があったなんて知りませんでした。
  • 私たちがおすすめするポイントは3つです。 ・履き口の裏側にダウンストップを編み込んでいるので脱げにくくなっています。 ・かかとには滑り止めのシリコンゴムなどがついていないので、違和感がなく履くことができます。 ・つま先は縫っていない縫製(無縫製)になっているため、縫い目が当たることによる痛みが出にくくなっています。 みなさんには、実際に履いてみて今回のフットカバーの良さを実感していただけたらと思います。
  • 吉谷靴下
    株式会社

お客様に喜んでもらえる商品にするため、課題に向き合い続けるお二人の姿勢に職人魂を感じました。現状に満足せず問題を掘り起こして考える探究心は、私たちも持ち続けていきたいと思います。
向井さん、藤原さん、ありがとうございました。

2か月にわたり連載してきたフットカバープロジェクトも次回が最終回です。
3月4日の発売を目前に、「商品の特長と着用するときのポイント」をお知らせします。