研究テーマ

靴下ができるまで①-右と左のわけ

7 靴下ができるまで①-右と左のわけ

「右と左のある靴下」と聞くと、みなさんは、どの部分に右と左があると思われますか? おそらく多くの方は、「つま先」の右と左を想像されるでしょう。でも、無印良品の「右と左のある足なり直角靴下」は、つま先ではなく「かかと」に右と左のある靴下です。

かかとのアーチは、よく見ると外側と内側とで角度が異なります。一方、つま先の形は、親指が長い人、人差し指が長い人、指の長さがほとんど同じ人など、人それぞれ。左右の形というより、指の長さによる個人差が大きいのです。
無印良品では多くの人の快適性を考えて、つま先ではなく、右と左それぞれのかかとの形にフィットする靴下をつくりました。それが「右と左のある足なり直角靴下」なのです。

  • 吉谷靴下株式会社 品質・生産革新部部長 向井道郎さん
  • より良い商品は、開発者の「思い」だけではつくれません。その「思い」を形にできる技術力のある工場や、職人技を持つ生産者の協力があって、はじめて、お客さまに納得していただける商品が生み出せるのです。その代表的な例が、「右と左のある足なり直角靴下」の製造工場、吉谷靴下株式会社。奈良県にあるその工場を訪ねて、品質・生産革新部部長 向井道郎さんにお話を聞きました。

向井さんが考える理想の靴下は、脱いだ時にも足の形のまま立っている靴下。それが、足にもっとも負担をかけない足の形に添った靴下だからです。
向井さんが靴下をつくり始めて46年。その間、編み機の構造も柄を作る工程も、環境は大きく変化していきました。そんな中で一貫していたのは、常に試行錯誤を繰り返しながら、より良いものをつくろうとしてきた姿勢でした。
編み機がコンピューター化されて大きく進化した時、向井さんは「これは靴下を編むためだけの機械ではなく、靴下編める機械だ」と直感したそうです。この機械で何が出来るだろうか? 普通なら機械を調整する会社しか触らないところにも臆せず自分達で触っていきながら、積極的にさまざまなことを試し、技術を磨き、蓄積していきました。

その蓄積は、「右と左のある足なり直角靴下」の誕生にも大いに生かされることになります。
ちょうどその頃、開発担当者は、当時の直角靴下の進化版として、かかとの余りや甲のだぶつきを改善したいと考えていました。向井さんに相談したところ出てきたのが、既にスポーツソックスで実践していた、かかとの内側を短く、外側を長く編むという編み方。右と左で編み方を変えるそのアイディアを応用し、さらに発展させて、無印良品の直角靴下に最適な仕様やデザインにしていく──「思い」を持った開発者と、それに応えられる技術者とが一緒になって、無印良品の靴下をつくっていったのです。

今回のリニューアルでは、この「右と左のある足なり直角靴下」も、より良いはき心地を追求して、さらなる進化を遂げました。
それでも「はき心地キャンペーン」では、みなさんからたくさんのご意見やご要望をいただいていますが、それを見た向井さんの返事は、「やれることはまだあります。まだまだ、改善できます」というもの。永年の技術の蓄積をもとにした、頼もしい言葉が印象的でした。

吉谷靴下株式会社 左から 社長の吉谷浩一さん、向井道郎さん、常務取締役の西尾彦則さん