MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 対談
団地を舞台に考える“感じ良いくらし”
- 金井
- 私はもう一つ、日本の住宅は、「人を招ける家」に変わっていかなくてはならないと思っています。友達にしても家族にしても、人を招けるくらいのスペースとか環境を有した家。近所付き合いで、お茶はいかが、とか、今日はあちらの家でご飯食べようとか、人を招くことができる状態まで磨いていける家かどうか。
やはり人の目に触れるというのはすごく大事です。そんな交流を促進させるような基本設計は持っていた方がいいなと思います。
- MUJI
- 人を招ける暮らしですが、家を建てると皆パーティをしたいと言うのですが、調査をすると家を買ったときだけなんですよ。買ったときから1年だけで、2年目からほとんど人が来ないんです。
家に対するスペースだけの問題じゃなくて、家に対するリテラシーと言うべきか、人を招くってどういうことなのかと考えさせられます。
- 金井
- 日本のアパレル産業の市場規模が、一時期の半分を割っています。それは、アパレル産業は洋服はつくったけれど、着ていく場所をつくっていない、ということなのです。
- 大西
- ああ、なるほど。
- 金井
- そういった場所を持たないと、市場規模はどんどん減って行きます。
ヨーロッパなどはパーティが日常的にあったり、いろいろな交際の場がある。だから私は、家は他人が入ってくる、交流することで磨かれていくと思います。
- 大西
- 住宅も与えられた形に合わせてその通り住んでいれば、ある程度の快適な生活ができるという、我々は人の評価を鵜呑みにするっていうか、ある意味では自分で考えないで楽な生活をしてきていますよね。そういう人にとってはそれが一番いいのかもしれないけれども、そうじゃない人も結構います。というかどんどん増えてきているような気がします。
今回のMUJI×UR 団地リノベーションプロジェクトに対する反響の大きさは、そういう暮らし方を自分でアレンジしていきたいような若い人たちが求めていた住宅を、我々はまだ供給できていなかったんだということの反省材料にもなっています。
そして、もちろん反省をしただけでは駄目で、我々はそれを通じてさらに具体的なものを今後も実践していく必要があります。政府の関係機関であるからには、「こういうような実態がありましたよ」ということを政府にも国にもお伝えをして、今後の住宅政策なりに、バックボーンとして一つの資料にしていただくのも重要な仕事かなと思っています。いろんなことにチャレンジしたことをきちんと皆さんに伝えていくことが、もう一つの我々の仕事かなと思っていますね。
- 金井
- 分かります。本当に再生することができて、しかも日本人の暮らし方そのものを取り戻していくという大義名分があって、そして経済合理性も満たしている。UR“都市機構”という名の通りですね。
従来のように入居前と全く同じように戻すというだけではなく、残すところは残すけれども、変えるところは思いっきり変えてしまう。従来とほとんど変わらない費用でこれだけの人が集まるということがとても大事なことですよね。その大義と経済合理性は、これは間違いなく皆が認めて行く方向だと思います。
- 大西
- 若い人が応募してくれることの経済合理性には、実はもう一つの大きな側面があります。今まで住宅を大量供給してきた時代には、エレベーターのない中層の5階建て団地を大量に供給してきました。
いわゆる「にぎり飯論」というのが当時の考えだったようで、本当におなかが空いた人に供給をするときに、まずは立派なごちそうを供給するのではなく、おにぎりを供給しよう、というものです。
元気に働ける最低限の栄養を満たしたものを食べさせる、ということと同じように、これがあれば新しい住まい方で元気に暮らしていける「住宅」をまずは大量に供給しよう、と。だから当時エレベーターまでは考えに入っていませんでした。
ところが現在、高齢化が進むにつれて、4階5階はどうしても避けられてしまう。じゃあ、ものすごく大量にある中層住宅に、みんなエレベーターをつけるのか。そうはいかないですよね。
とすると、4階5階に若い人を呼び込むためには、単に家賃を下げるよりは、若い人に人気のある住戸リノベーションをした方が圧倒的に経済合理性にかないます。居住者の世代間ミックスを実現させ、さらにエレベーターをつける必要性のないという社会を実現していくことができるんです。
今回のMUJI×UR 団地リノベーションプロジェクトでは、実は4階5階住宅の人気が高かったんですよ。団地は建物と建物の間隔が広くて、上層階はとても見晴らしがいい。だから若い方たちはあえて上の階を選ばれたようなんです。
これからのことを考えていくと、若い人が上の階に住んでくれれば、逆に1階2階は高齢者の方が入りやすくなってきます。実際の住戸のプランによって、住まい方のフロア別階層、社会階層ではなくて、空間階層の住まい方の分離みたいなことを実現していくことができるんです。
- MUJI
- いろいろなルールや規制、先ほどのお話のような厳しさとかある一方で、実はUR都市機構だからこそ実験的な試みをやりやすい面もあるかと思います。というのは、売れるか売れないかの視点だけではなく、これからの日本の暮らしをどうサポートしていくかという視点が重要で、そこでいろいろな実験をしていくということが、すごく大事ですよね。
- 大西
- いろいろな民間企業の方とコラボレーションしながら、いろいろなことにチャレンジしていきたいと思っています。私どもだけでやるには、やはり限界がありますので、むしろ我々の知らないことを、得意とされている方々と一緒に手を組むことによって、本当に新しい住まい方というのを実現して、情報発信していくことができる。
情報発信するということは、それを受け取った人たちからすると、それは発見なんですよね。今まで知らなかったことを自分で思いつく、というのは無理ですけれど、こういうような住宅があるのか、住まい方があるのかっていうことを見せてあげることで、日本人全体の住宅リテラシーを上げていくことが、可能になります。ですから実際につくってみせる。無印良品さんとつくってみせる。もしくは他の企業さんと一緒につくってみせる。そして、それを情報発信して多くの方に見ていただく。
それはネット社会になった今だからこそ大きい意味を持っていて、日本人全体が、住まいということに対して、今までとは違う自由な暮らし方があるいうことに気がつき始める、そのきっかけをつくっていきたいと思います。
我々URがダイニングキッチンという暮らし方を提案したあの時代は、テレビで大きく取り上げられたりして、新しい住まい方に対する憧れみたいなものを世の中に情報発信しました。
そして今度は、多様性のある住まい方、自分自身でつくっていく暮らし方を情報発信していくことが重要かなと思っています。
- 金井
- 世界に先駆けた人口減少と高齢化という、ある意味重い荷物を持っている日本人は、コミュニティがどうあるべきかという重い課題について、おそらく一番先頭を走らざるを得ないでしょう。今私たちが背負っている課題に対する答えは、私たちがつくっていくしかないのです。
しかし、日本人だからむしろつくりやすいのかもしれないとも思います。同じような民族で、同じようなマインドを持った人たちだから、そういう面では比較的、有利ですよね。
これが、いろいろな民族であるとか、いろいろな宗教を持った人たちが多くいたら、コミュニティはそう簡単ではない。だから私たち日本人が率先してつくるべきなのかもしれないと思います。
- MUJI
- 成長時代のモデルをつくるよりも、今のこの時代のモデルをつくる方が難しいけれど、もしかるすると日本はそこに優位性があり、おっしゃったように世界の見本になりうるかも知れません。
- 金井
- いやいや。そうなっていくべきでしょう。それをURさんが担うことが、やはり重要ですよね。
- MUJI
- 本当そうですね。今でも海外のアジアの諸国は、UR都市機構の技術だとか施工品質をみんな目標にしています。でも、これからはそれらハードだけではない部分も重要になると思います。