MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 対談
これからの日本の暮らしを考える~リノベーションという手法の可能性について~

MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトでは、2012年12月に「これからの日本の暮らしを考える ~リノベーションという手法の可能性について~」をテーマに、UR都市機構の理事で西日本支社長を兼任されている大西氏と、日本デザインセンターの原氏の対談を開催。
大西氏からはURがリノベーションに取り組む背景について、無印良品のアドバイザーを務める原氏には、リノベーションの潮流と日本の住宅についての意識の変化についておうかがいしました。

大西 誠氏

独立行政法人都市再生機構理事・西日本支社長。
1952年生まれ。昭和54年3月東北大学大学院建築工学修了。同年4月日本住宅公団入社。
平成8年多摩平団地の建替事務所長となり、居住者・日野市・公団の3者勉強会を続けながら、居住者とのワークショップによる建替事業を進める。建替後の団地「多摩平の森」はリブコムアワード2008年の環境配慮型プロジェクト賞銀賞を受賞。
平成11年からの都市基盤整備公団計画課長時代に、「スケルトン賃貸住宅制度」を創設し、自ら汐留地区と河田町地区で実践。同19年都市再生機構本社業務第二部長時代にストックの再生再編方針策定に携わる。その後東京都心支社長、東日本都市再生本部長、本社審議役を経て現職。
平成7年都市住宅学会賞(論説)受賞。また同年再開発コーディネーター協会優秀論文賞受賞。

原 研哉氏

グラフィックデザイナー。
1958年生まれ。日本デザインセンター代表取締役。武蔵野美術大学教授。
アイデンティフィケーションやコミュニケーション、すなわち「もの」ではなく「こと」のデザインを専門としている。2001年より無印良品のボードメンバーとなり、その広告キャンペーンで2003年東京ADC賞グランプリを受賞。近年の仕事は、松屋銀座リニューアル、梅田病院サイン計画、森ビルVI計画など。長野オリンピックの開・閉会式プログラムや、2005年愛知万博の公式ポスターを制作するなど国を代表する仕事も担当している。
また、プロデュースした「RE DESIGN」「HAPTIC」「SENSEWARE」などの展覧会は、デザインを社会や人間の感覚との関係でとらえ直す試みとして注目されている。
近著『デザインのデザイン(DESIGNING DESIGN)』は各国語に翻訳され、世界に多数の読者を持つ。

MUJI
URも無印良品も、暮らしのスタンダードをつくってきたという経緯があって今回の「MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト」が実現していますので、暮らしのスタンダードとは何かということについておうかがいしていきたいと思います。
それでは早速ですが、まず大西さんから、URが様々なリノベーションに取り組んでいる背景についてお話をいただきましょう。
大西
今までURは、昭和30年代につくった団地で建替え事業を行うなど、供給された年度で管理方針を決めていく、ある意味画一的な管理手法をとっていたのですが、今はむしろ壊して建替えるのではなく、今あるものを使って新しい住まい方のプロトタイプを供給していくことのほうが重要だろうと思っています。もっと柔軟で多様な手法でのストックの再生ですね。
例えば古い団地であってもある程度の広さを持っていたり、設備水準も一定のものがありますので、使えるものは残し、新しいものは付け加えるということを考えながら、住戸のリノベーションを行っていくというのは大事な考え方のひとつになります。

URは全国に76万戸の賃貸住宅を持っています。そのうち西日本支社には21万戸の賃貸住宅があります。それを全部壊して建替えるなんてことはとても考えられませんし、かといって当時とはまったく状況が異なっているわけですから、このまま放っておくということもできないわけです。

昭和30年代、40年代というのは高度経済成長期の初期に当たりましたから、中堅勤労者のために新しい住まい方を提供しようと、ダイニングキッチンや食寝分離といった新しい住まい方を提案してきたわけですが、時代を経て、今どういうものが新しい住まい方なのか、それを先駆的にかつ実験的に実施していこうということを考えたときに、リノベーションは非常に重要な手法だと思ったんです。

現在、様々な取り組みをしています。そのひとつとして無印良品とのコラボレーションである、今回の団地リノベーションプロジェクトがあるということです。
なるほど。URがリノベーションに取り組むというのはとても有意義なことだと感じております。日本が高度成長を経て、中堅労働者向けの住宅供給が必要になってきて、それを成し遂げながらも同時にそこに課題を発見されてきた。住宅供給に関する様々な経験を、URほど多く持っている組織はないんじゃないかと思うんですよね。
世界を見渡してもですよ。ですから、ごく一般の生活者がどういう家に住むのが幸せにつながっていくのかということについて、非常に多くの経験をされてきている、というふうに思うわけです。
日本の問題としてだけでなくアジア、あるいは途上国の問題として語ってもURの経験や、これからやろうとされていることはとても意義のあることだと思っているんです。

日本の潮流ということを考えますと、まさにリノベーションがようやく社会的に定着し始めてきたかなと。
人口縮退が始まってきていますが、高度成長の頃もバブル前後も、ひたすら住宅容積というものは増えていっている。スクラップ&ビルドで建て替えて新しいものをつくらなくても、100年使えるものがたくさん出て来ていて、そうした寿命が残っている建築がたくさんあるなかで、中古物件を再生活用していこうというのが社会の当然としての流れで、日本もようやくそこにたどり着いてきたというところですよね。
ですから、長く使える骨格としてのスケルトンと可変性のあるインフィルが分離して、住まいづくりがようやく一般の生活者の素養として確立されてきた感じがあって、リノベーション時代が本格化しつつあるなというふうに見ています。
それと、日本人の暮らしの素となっている“家庭の内実”というものは、これはもうURさんはよくご存知だと思いますけれども、激変していると思いますね。

数字を見てみますと、1960年頃、50年くらい前は平均の世帯人数は4.14人ですが、2012年になると2.42人になっている。東京を見ると平均の世帯人数は2人を割っているわけですね。
かつては家におじいちゃんもおばあちゃんもいて、お茶の間があって、こたつでみかんを食べながら欽ちゃんのテレビ番組を観ているという、それが家というものを考えるときのバックグラウンドにあったのですが、いま日本ではひとり暮らしが断然トップなわけですね。
ふたり暮らしがそれに続いて、しかもそのふたり暮らしというのは必ずしも核家族の夫婦ということではなくて、90代の母親と70代の娘といった家庭も含まれている。
このふたつが日本の世帯の6割を占めているわけですよ。このように、住まいの内実というものが変わってきている。ですから、この新しい暮らし方に対してどういう幸せを見つけていけるかが、課題になっているわけです。どのようにしつらえていくと家としての幸せが見つかるのかということを考え始めなくてはいけない、そういった状況に来ています。

URの取り組みはそこを見つけ出していく、そういう試みだと思うんですよね。古いものをちょっとなおして住むという場当たり的なリノベーションではなく、日本の住宅供給の経験を踏まえた次の踏み出しという意義があるんじゃないかと思いますね。