MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 対談 団地を舞台に考える“感じ良いくらし”
大西
多様性のある住まい方でいうと、これからは、例えばスケルトン&インフィルのようなモデルをもっと大々的に展開していく方法もあるかもしれません。スケルトンを我々が持って、インフィルは民間業者さんがつくるということで新しい住まい方も実現できると思います。 民間企業さんと連携することで、新しい住まい方、新しい機能、新しい魅力的な施設というものを、従来の団地の中に埋め込んでいく、もしくは入れ替えていく、そのような可能性が見えてきましたから、それをどんどん進めていくのがこれからの仕事だろうと思っています。 その時にも、繰り返しになりますけれども、あわせて住戸・住宅リノベーションを同時にやらないと。単に新しい施設を入れればいいということではない、ということになります。
MUJI
無印良品のお店とか。あと無印良品がつくる団地専用インフィルとかどうでしょう。
大西
(笑)ああ、そうか。そうすると、インフィルのレンタルができたり、いろいろなことができるかな。
金井
私は設備系のインフィルは、無印良品的につくるべきだと考えています。いかに主張しないで、空気みたいな存在でいられるか。使う人がAさんからBさんに変わっても、気にならないデザインであるべきと。AさんとBさんの趣向の違いもすべて吸収してしまうようなものです。 ところが、インフィルの家具については、日本は圧倒的に弱いですよね。弱いというか知らない。例えばどの椅子がほんとうに美しいかを知る経験が圧倒的に少ないです。 家の中のものは一緒に暮らすことになる。どういう素性なのかを知っている椅子と、たまたま知らないところでお安く買ってきたよという椅子と、同じ値段であっても、感じている暮らしは違うと思うのです。日本人がそういうことをもっともっと意識をするようになれば、生活においてまた豊かさが変わってきます。
MUJI
今日本はそこの側口に来たと思います。これから本当に自分の家とはなにかを考える時代になってきました。おそらく、リノベーションは、住まいを練習するためのきっかけや入門編になりますよね。また、DIYのように、まずは自分で考えてやってみよう、というところから、日本人のセンスがどんどん良くなっていくのではないかと思います。
金井
今ある住宅を有効活用しながら、経済活動にいい意味でなげていく。経済は大事ですが経済は最優先ではないですよね。人々の豊かさとは何か、というのが目的であって、経済だけを優先してしまうと、人間社会はつまらなくなります。
大西
味気ないですよね。
金井
HOUSE VISION は本当に一つの重要な産業で、環境やエネルギーやいろいろな仕組みがハード、ソフトの両面でつながって、コミュニティも土地や建築の価値もすべてを捉え直す必要がある、というメッセージを発信しています。そのときに、無印良品や良品計画という名前がどう関わるかということは、あまり重要でない話です。 住まいのことを一緒に考えて知恵を出すという、社員の頭の中をどう活性化させるかがとても重要だと思います。住まいに対する理想論を考えて、日本の住まい方を、コミュニティを良くしよう、そういったことを多くの社員たちが考えたらいい会社になります(笑)。
大西
まさにうちの会社も、どんどんそれをやらないといけない会社なんですよね。
MUJI
MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクトでは、昨年の12月に新千里西町団地で住人祭 を開催させていただきました。当日は若い人たちも集まってくれて、そのうちの一家族のお住まいを取材させて頂いた のですが、住まい方の意識が高く、普通の団地のお部屋なのに、とてもおしゃれで、素敵な暮らし方をされていました。また、無印良品の家・住まいのコラムでは、「仕事部屋と住まい、ふたつの部屋を借りて住む 」とか「団地に住んで住人のための仕事をする 」など、すぐに実現できるかは別として、いろんな可能性を探っています。 例えばその中で「団地をまるごとシェアハウスにして住む 」という提案をして、実際に今回の「MUJI×UR」のプロジェクトではシェアを想定したプランを作りました。 そうやって、団地という舞台のスイッチをたくさん用意したらいいと思います。それによってどんどん切り替わって積み重なっていくうちに、小さな差が、団地全体をとても魅力的なものにする気がします。
大西
そうですね、URではルネッサンス計画2 という民間事業者とのプロジェクトで、多摩平団地でシェアハウスに取り組んでいる例もあります。シェアすることによって、もっといろんな自由度とかコミュニケーションができるものですね。
MUJI
みんなが集まる場所ができるという意義が大きいですね。無印良品はお客様と一緒に考えていくことで、人がつながるとはどういうことなのか、一緒に暮らすってどういうことなのかを、考えることそのものが大事だと思います。
金井
それを理解して動かしていくのは、一部の人ですね。例えばHOUSE VISIONに来る学生とか、そういう人をまずターゲットにしていくといいですね。一般の人は、まだまだシェアハウスに抵抗があるような気がします。 一方アメリカでは、「AirBnB(エアー・ビー・アンド・ビー) 」という、自分の家で使っていない部屋や普段使っていない別荘などの空きスペースを、ホテルとして解放する仕組みがあります。 これはソーシャルメディアの時代だからできる仕組みなのですが、アメリカ人でも日本人でも中国人でも、知らない人を自分の家に泊めるというものです。
大西
それはちょっと怖いですよね。大分抵抗ありますよね。
金井
そうなんですよ。抵抗ありますよね。全くの赤の他人に部屋を貸すというのは、一般的にはいやですよ。でもそのような仕組みが今、アメリカではとても成長しているのです。
MUJI
私はAirBnBを利用して、アメリカで泊まったことがあります。私の前に泊まった人の、その彼自身のプロフィールみたいなものが机の上に置いてあるんです。布団も敷いてあって、冷蔵庫を開けると食べたものがそのまんま残っているんですよ。で、「食べてどうぞ」ってメモが書いてある。そういった感覚です。
(一同、笑)
金井
これはシェアハウスよりも、はるかに難しい難問ですよね。なぜそれが可能かというと、Facebook(ソーシャルメディア)の力が非常に大きいと思います。 会ったこともない人が、「URという会社で働いている方で、友達や行動を見ても健全で、この人はちゃんとした人だな」ということがFacebookを見ると分かるわけです。 それで、私が泊まりたいというと「この人は無印良品に勤める、あの部門のなんとかさんだ、まあまあ、信用してもいいだろう」と、Facebookをみて思う。そういう関係が、ソーシャルメディアで起きているのです。
大西
人間関係が変わってきているんですよね。
金井
そうですね。だからシェアハウスの中でも、いい意味で、ソーシャルメディアが有効に機能し、新しい人間関係をつくっていくことができると思います。 だからAirBnBが実現していることを考えれば、シェアハウスのハードルは低い(笑)。
MUJI
無印良品が、ある一つのプラットフォームになりうるのではないかと思います。 HOUSE VISONの話をしている若者やリノベーション団地に入居してくれた人たちは、そういうことに抵抗のなさそうな人たち。理解をしてくれる人たちが、無印良品のファンには相当数いると思います。
金井
無印良品のお客様は、これだけいろいろな商品が溢れる中で、無印良品の簡素なものをよしとする人たちです。しかも、私たちが言わなくても、商品の背景も理解し、共感してくださっています。
MUJI
シェアルームの最後に。これからもURさんと一緒に、無印良品の家・住まいのコラムなどを活用しつつ、団地というフィールドを使って、ビジネスというよりも、社会全体のムーブメントをつくりたいと思っています。本日はありがとうございました。