MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 対談
これからの日本の暮らしを考える~リノベーションという手法の可能性について~

MUJI
リノベーションの魅力は、 “組み合わせ”と “プロセス”です、仕組みや知恵は必要ですが、これから縮小していく日本、その中でも空きスペースの見直しについて、URが供給者側になるだけでなく、住まい手と一緒になって作っていく可能性があることを一緒にやっています。

その中で、“みんなの家”のお話を以前伊東さんから伺って印象的だったのは、建築家が作るよりも、作るための参加プロセスが地元の人たちの喜びになったというお話でした。この話改めてお願いできますか?
伊東
建築を作るということは、その作るシステムそのものがすごく近代主義的で、つまりコンペティションがあって、そこに提案をして、採用されたら事業がスタートするという枠組みになっています。コンペティションでは思い切った提案をしないと勝てない仕組みになっています。しかし本当はコンペティションではなく、まず建築家を選んで、そこから住民と一緒になって考え始めていく、対話型で住人と作る方がはるかに住人の満足度は高いものになります。

しかしなかなかそうもいきません。“みんなの家”の場合は、そういった既存の仕組みから外れて、住人と一緒になって作っていきました。彼らの想いを全て受け取って設計していますので、同じ方向を向いて、我々も学生も住人も取り組んでいます。こうしたつくり方は、ある種環境的な方法のように思います。そしてそうやって一緒に作ると、作り手も住人も愛着が増しますよね。
大西
リノベーションの良さは、“変更”を前提としていることです。設計はある程度しますが、最後は現場に行ってどうするかを考えていきます。大量生産、大量発注は難しいのですが、リノベーションは小さな住戸を沢山作り直すので、作りながら施工者、発注者、設計者と一緒に考えながらブラッシュアップしているので非常に楽しいです。
伊東
以前、千葉の市原で美術館のリノベーションのコンペティションがあり、審査員だったのですが、バブルの頃に作られた美術館だったのがとても素敵な美術館に変容していました。そこでは以前の壁が残っていたりするので、通常新たに作るものとは違った面白さがありました。まさにリノベーションの楽しさはそこですよね。公共住宅以外でも、リノベーションしたらその方が安くてもっと楽しいものになる可能性は大いにあります。
大西
前の壁が残っていて、と言うお話ですが、まさにその良さをリノベーションで実感しています。新しく作る建築ではなく、リノベーションにはその場所が蓄えた「時間」という財産があり、その時間によって生まれる美しさがあります。

例えばそこにあるコンクリートの素材には、年月を経たよさが表れている。時間というのはある種の美しさを生みますし、その場所の記憶を残すことができます。何を捨てて何を付加するのか。MUJI×UR団地リノベーションでも、鴨居等の古い木部を残したりしています。それがリノベーションの醍醐味です。
伊東
街は生活の歴史をストックしながら少しずつ変わっています。建築の場合には全部さら地にする等、革新的に変えてしまう事が本当に良いのかをもっと考えなくてはいけない時代ですね。
MUJI
その社会が大きく変わってきているので、団地のストックをどう使うかはまさに今がチャンスですね。人口減、高齢化や少子化など様々な課題はある一方で、自然に開かれた環境や豊かな時間を感じられる団地のもっている環境が人々に求められているように感じます。今団地をどうリノベーションするのか。建築の作り方も今までとは変わっていくでしょう。建築をつくる過程も時間をかけて住んでいる人と一緒に考えていくことが起きようとしています。そういった新しいつくりかたによってできるプロジェクト、是非とも伊東さんにも手掛けていただきたいですね。
伊東
是非機会があればご一緒しましょう。今日はありがとうございました。
私は外から見るとデザイン的には美しい、中に入ると“楽しい”“気持ち良い”という状態を大切にしています。美しいというのは近代主義の美学ですが、もっと他の美しさもあるように思っています。
大西
なるほど、近代的な美しさではなく、楽しい、気持ち良いという感覚を大切にする感性が今後ますます大切にされていくのでしょうね。本日はありがとうございました。