MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 対談
これからの日本の暮らしを考える~リノベーションという手法の可能性について~

MUJI
大西さんにおうかがいしたいのですが、高齢化はどんどん進んでいるわけですが、一般のデベロッパーがつくる分譲住宅は一般的なファミリー世帯が購入します。夫婦ふたり暮らし、子どものいる3人暮らしとか。
一方、URとしてはまさに、社会の縮図のような、高齢の方や、なかなか分譲住宅に移れない若い方、それから海外の方がいたり、というふうに社会の複雑化というか多様性を吸収していく必要があり、その役割はどんどん重要になっていく。その辺りはいかがですか?
大西
おっしゃるとおりで、昔の公団住宅と今のUR賃貸住宅というのは、住んでいる人の多様性という意味でいうと、すごく変わってきているというのが実態です。
昔は中堅勤労者が大部分だったんですね。ところが最近はまさにそのとおり団地でも高齢化、少子化が進んできている。団地の一角にある公園では、子どもたちを見ることが少なくなり、おじいちゃん、おばあちゃんが団地の階段を昇り降りするのを苦労している。単身の方や海外の方も増えてきている。そういった様々な状況があらわれてきているんですよね。ですから、これからは時代に即応した多様な機能を住棟のなかに入れ込んでいくことを検討する必要がある。今までは何か新しいものをどんと一気につくるというやり方をしていたんですが、それは、ある意味では非常にリスクが高いんです。

大量に新しいものをどんと市場に提供するということは、それが立地やマーケットに合わなければ大量の空き家を生み出すことになります。むしろ、空いた住戸を違う用途にする、もしくはリノベーションによって同じ住宅であっても若い方向けのものに変えてしまう、もしくは高齢の方の住みやすい住戸に変えていく、そうした様々な変化をつけるやり方のほうがリスクも少ないんです。
ですから、これからやりたいと思っていることは、ひとつは住宅の間取りやしつらえを変えていくことで、多様な住まい方、例えば高齢の方が住みやすいような住戸をつくっていくというリノベーションもあるでしょうし、若い世代には畳が敷き詰められた住戸よりも、シンプルでおしゃれな住戸をつくって出していく。そしてあるところではキッズルームを用意して子どもの朝と夜の一時預かりをしたり、学童保育の足りないところを補ったりする。さらには高齢の方のために、今まで住宅であったものの用途を変えて、介護福祉施設などに変える、もしくは在宅療養支援診療所をひらいてもらう。そうすることによって、団地全体がひとつのサービス体系のなかで、子どもも若い世代も高齢の方もいる、世代もミックスされた住環境をつくっていくことができると思うんですね。

今まではひとつの目的、用途純化(※)という時代の流れのなかでつくってきましたから、同じような人たちが住んでいるのが団地だったんです。これからは、子育て世代も介護を受けながら暮らす高齢の方も、団地のなかで移転をしながら住み続けていくことができる。そういうような用途が複合した複合住宅地というものを実現していくために、リノベーションというのはいい手法ですね。立地に応じた用途をそこに実現していくことは、上述の例では地域の福祉拠点にもなるし、結果として魅力のある住宅地になる、そういったことを実現していきたいと思います。

※ 用途純化とは、地域の特性に応じて、住宅、業務、商業、工業の各施設の混在を抑制し、適切な都市環境の実現を図ること。近代都市計画の基本理念の一つであったが、ニュータウン等では住宅施設に純化しすぎたために、都市機能の衰退を招いたこともあり、適度な用途混在が求められるようになった

MUJI
少し話は戻りますが、URは純化という考え方で、住宅地域、商業地域といったゾーニングをして建てる場所を分けていきました。それに対して複合化の時代であるということと、暮らしのスタンダードは何かということを考えるときに、ど真ん中にその答えがあるのではなくて、多様性のなかからスタンダードを見つけていくというようなこと、そしてそれは、まさにどう新しい時代を見つけていくかということだと思うのですが、いかがでしょう。
無印良品はまさにそこをやってきているわけで、こういうふうに住みなさいという典型を教化していくのではなくて、自分の可能性をそこに発現させていくための、いい背景をつくっていくというのが基本的な考え方なわけです。
自分の暮らしを自分で編集していく素材を、無印良品は数千アイテムの生活雑貨を持ちながら供給しているわけです。無印良品の持っているスタンダードな感じというものは単に機能に対して簡素化ではなくて、若い世代にも高齢の方にも自在にフィットするような融通無碍なフレキシビリティが目標なんですね。

例えば一つのテーブルをつくるにしても、若い人向けにシンプルなテーブルをつくり、高齢の方向けに別の形の、例えば角が丸くなったようなシンプルなテーブルをつくるということではなくて、ひとつの同じテーブルを18歳の方でも65歳の熟年夫婦もいいねと思ってくれるような、そこに自分たちの暮らしの形を見立てていけるような自在性をあらかじめ持っているというのが、無印良品の製品の考え方の背景にあるわけです。
日本の美意識もまさにそこにあるわけですね。これまでの純化という考え方、キッチンで料理をし、ダイニングキッチンではご飯を食べるといった機能を限定的につくっていくと、今の家族や営みの多様性には合わなくて、むしろどんな暮らしをも育みうるような自在性を家として表現していくことが、おそらくこれからの住宅づくりでは重要になってくる。そこに自分たちの暮らしをつくり上げていくような家ですね。

僕らは、シンプリシティとは切り分けて空っぽ、エンプティという言葉を使っているのですが、シンプリシティというのは洗練されてはいるけどそれ以外の使い方はあまり許容しない、エンプティというのは何もない茶室のようなもので、どんな生活を入れ込んでいくのかは使う側の自由であって、若い人も熟年の老夫婦もそこに住めるような可能性を引き出してくれるものですね。それをどうつくっていくかというのが、これからのリノベーションのベースになってくると思いますね。
大西
じつは事業者として考えると、リノベーションというのはとても経済的にマーケティングができる手法なんですね。繰り返しになりますが、今まではひとつのものをつくってどんと供給する。それがダメだったら空き家になる。家賃を下げる。そうではなくて、リノベーションをすると、その立地に合ったものを5戸、10戸といった小さな単位でマーケットに供給することができますよね。その団地に一番フィットするものは何なのかということを、実験できるわけです。それが普遍的なものであれば他の団地でもやってみることができる。ですから、ひとくちにリノベーションといっても様々な形がそこにはあるだろうと思っています。

例えば今新しくDIY住宅というのを始めたんですが、お住まいの方に自らDIYで自分流の部屋をつくってもらって、URはそのお手伝いをするといった方法もありますよね。あと、従来のシンプルな公団型の住宅は、それはそれなりの良さがあって人気があるんですが、そういうものとはちょっと違ったカラーバリエーションやデザインをつけてみるような供給の仕方だとか、今まさに様々なことにチャレンジしているという状況だと思います。
いま原さんがおっしゃったようなエンプティという概念、使う側に任せるというのは、じつは日本においては昔からある基本的な考え方ですよね。昔はちゃぶ台や布団は必要なときに出してまた片付ける。それが当たり前だった時代に、当時の公団は、日本で初めてダイニングキッチンという概念を提示して、ダイニングテーブルを据え付けた住宅を供給しました。初めは珍しいので引っ越すときにテーブルも持っていかれてしまうことがあったので、鎖をつけていた時代もあったようですが(笑)。
そしてこれからの時代というのは、まさに自分流に暮らしていける、そうした多様な暮らし方を提示していくことがURとしては必要なんだろうと思います。