MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 対談
これからの日本の暮らしを考える~リノベーションという手法の可能性について~
- MUJI
- 今回のMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトの最大のポイントは、賃貸住宅が舞台だということです。当たり前のようですがじつはすごいことで、なぜかというと、例えばリノベーションのコストについて無印良品とURが一緒になって考えたことは、一戸あたりの工事費をなるべく抑えることです。壊しすぎない、つくり過ぎないよう、ひとつずつ丁寧にレベルを決めていくことで、賃貸事業としてやっていく。
例えば鴨居や床を残す。残してはいくけど、床は、畳の厚みと同じ麻畳を開発する。つまり、あまり構成を変えないということですね。それから、使い手に余地を残すということも考えています。仕切られていた壁をできる限りとって大きなワンルームにしていくとか。ただし残った壁に家具をつけられるなど、そういった工夫をしています。みんなの英知というか、まさに努力の結集でそのコストを実現しました。
また、単につくったというだけでなく、どうそこに暮らせるのかということを提示できるのではないかと思い、もうひとつ大きな提案としてシェアハウスを取り入れています。
このプロジェクトについて、試作住戸を実際に見てどんな感想をお持ちですか?
- 大西
- 非常に素敵だなと思いました(笑)。無印良品の製品に通じる、単なるシンプルさではなくて、じつはそこに木のぬくもりがあったりとか、シンプルななかにも何らかのあたたかみがあるような。素材感覚とでもいうのでしょうか。そうした感覚を今回のプロジェクトにも感じることができました。
今までの公団住宅のなかで使っていた素材とは違った素材感がそこに存在していて、それでいて先ほど原さんがおっしゃったようなエンプティというのが実現されている。これを住む人がどう自分のテイストに合わせていくのか、あるいはどのように付け加えていくのか、実際にどう住まわれるのかという調査もさせていただきたいと思うくらいです。非常におもしろいなと思っています。
- MUJI
- この50年くらいでURの住宅設備は相当変わっているんですね。お風呂なんかは、考えられないくらい小さかったり、その清潔度合いであったり。なので、お風呂とキッチンは今の設備水準に合わせて変えていく。このあたりもポイントかと思うのですが。
- 原
- 壊しすぎないというのはとても大切なことですね。コストのことを考えつつ昔からの住宅をリノベーションするというのは大事なことで、単にゼロから新しいものを作るというだけでは知恵の継続にならないんですね。
関西の大規模住宅開発なんかは、かつて西山 夘三(にしやま うぞう)さんが設計されていますが、「nDK」というモデルは食寝分離についてよほど研究されたものだろうと感じられるわけで、そこに対するリスペクトがまずなければいけない。リスペクトを持ちながらも、それをどういうふうに工夫していけるか、そうした知恵の継続のなかに本当のスタンダードというものが見えてくるわけですよね。
そうしたことを考えていく上で、無印良品がそこに関与しているというのも意味があることで、無印良品は主張しないんですよね。主張しないから頼りなかったりアピールが不足したりして、時代の風雪のなかで浮き沈みをするわけですが、そこはじっとこらえる(笑)。こらえているうちに、やがていい背景をつくれるようになってくる。
暮らしというのは住み手の能動性が発揮されたときに初めて生きてくるので、従来のものから新しいボキャブラリーを入れていくときにそれが嫌みにならないというか、そういう空間づくりが必要になると。そうすると、そこは感じのいいものになっていくのではないかと思うんです。
無印良品の社長の金井さんも「感じがいい暮らし」というのをよく言われるんですが、感じがいいというのはステータスシンボルとは対局にあるんですよね。いい車とかいい家というのは、自分はそれを持つのは心地いいんですけど、それを見た人はあまりいい気分ではない。つまり奢りと誇りが合体したような状況があるわけです。そういうことを捨てていくこと、奢りと誇りを捨てていくことが「感じのいい暮らし」なんですね。自分よりも隣人にとって、ほどほどをわきまえた、あるいは先人の知恵をリスペクトするような、あるいは周辺の人たちの暮らしを配慮するような家ができたときに、「感じのいい家ね」と言ってもらえたりする(笑)。
そうした感じのいい再生をどうやっていけるかというのはとても大事で、無印良品の考え方と一致しているかもしれませんね。URがずっと考えてきた平均的な、あまり豪華ではないところに、どういう幸せを見つけていけるかという知恵の掛け合わせができるかもしれないなと思いますね。
- MUJI
- URの「公営住宅標準設計C51型」と呼ばれる戦後の集合住宅の原型ともいえる団地の間取りは、本当に良くできています。家族構成は変わっても、その空間構成はそのまま使えます。風も通るし、光も十分にはいり、現代のようにエアコンなどのテクノロジーを前提としない住宅なので、とても快適ですね。
今回のリノベーションは、ほとんど間取りを変えずにつくっているのですが、暮らし方は随分と変わりました。特にキッチンでしょうね。つくるところと食べるところ、この2つのシーンを整理していまの時代の暮らし方を考えてみました。単に食べるだけでなく、仕事もしたりする。こうした考え方や提案が、いままでのダイニングキッチンという固定的な枠組みにとらわれずに、住み手の創造性をより喚起してくれるといいのですが。
- 原
- キッチンは、キッチンとダイニングを組み合わせたところに新しい熟語をつくっていかなくてはいけないですね。「熟語」というふうに僕らは言っているんですけれども、テーブルとかガスコンロというのは単語ですが、そうした単語を合わせて暮らしの形すなわち「熟語」ができてくると。昔のダイニングキッチンというのは熟語ですね。
しかし昔の熟語が今は通用しなくなってきている。ダイニングキッチンがあっても、一家団欒でいつも家族一緒に食べるわけではなく、ひとりで食べたりすることも当然ある。しかも、ひとりで食べるけれどもインターネットを介して社会とつながっている時間も長い。
昔の住宅には、パソコンというものを開いて、そこから世界とつながっていくという空間はなかったですよね。どこでパソコンを開けばいいのかということもきちんとプランニングされていなくてはいけなくて、ソファだと膝の上に乗せることになりますが、安定感がなくてよろしくないと。いわゆる書斎というものが少し切り替わりつつあって、そういう空間をどこかで見つけ出していかないといけないですよね。
キッチンの作業性とスタディルームの作業性は、意外とひとりで生活するなかでは連続性を持っていたりするんですね。例えば「キッチンスタディ」のような、左にいくと限りなくキッチンで右にいくと限りなくスタディであるようなテーブルの配列も、合理性を考えると出てくるかもしれませんね。ダイニングの編集を自分でできる、そうした熟語性というものを、簡潔ながら考慮されていると“感じがいい”のではないかと思いますね。
- MUJI
- 今回のMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトでは、キッチンとダイニングテーブルをふたつ繋げて別の使い方ができる、増設できる家具も提案しています。こういうところまで熟語として見えてくると面白いですね。
- 原
- 自在性を発揮するといっても、いい参考事例がないとなかなか気がつけないですから、事例を見せてあげることが大事ですね。