MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト 対談
これからの日本の暮らしを考える~リノベーションという手法の可能性について~
- 大西
- これまでの住宅づくりの歴史からみると、西山 夘三さんが食寝分離の必要性を唱えられたときの住戸の広さと家族の人数というものは、ずいぶん乖離していた時代なんです。昔の公団住宅は、まずそれを実現しようと。それに対して清家 清(せいけ きよし)さんの「私の家」は、家というものを全くシンプルな箱にしてみせた。自由に椅子を置いて、自由に畳を置いて暮らす。シンプルな箱のなかに自分の住まい方を自由にしつらえていく、そんな暮らし方を提案されていました。
今回はその考え方の良さを、昔の公団住宅をリノベーションすることによってもう一度実現しようということに近いなというのが、最初にこのプロジェクトを見たときの感想なんです。分かれてはいるけど空間としてはワンルームで、仕切ろうと思えば仕切れる。もうひとつは、昔はなかったような新しいキッチンというものを持ってきて、いまあるテーブルの置き方を自由にすることで現代の住まい方にあった暮らし方ができる。
それからもうひとつ大事なのは、情報発信をすることだろうと思いますね。無印良品と提携をした魅力のひとつは情報発信力なんです。
無印良品のWebサイトで、こういう暮らし方ができるんだということを提案できる。今までは募集パンフレットをつくって配布するというやり方ですから、自分にあった暮らしを見つけるのは相当の意欲がないとできない時代だったわけですが、今はWeb上でわりと簡単に見つけることができる。そういう時代だからこそ、こうした取り組みの価値がきちんと伝わるし、住まい方のモデルとしての提示をすることができる、さらにそこに、自分の住まい方を重ね合わせることができる。そういう意味で、情報発信のしかたが住まい手を変えていくということでもあると思うんですね。
- 原
- そうですね。住まい手の、住居を構想する能力を僕らは「住宅リテラシー」と呼んでいますが、リテラシーというのは文章の読み書きの能力のことですね。住宅のリテラシーというのは自分で設計する能力ではなくて、自分のライフスタイルに合った暮らしの形を発見していく力であったり、建築家に依頼してそれを実現していく力であったりします。そうした住宅リテラシーについては、日本はほとんど教えてこなかったですよね。
住宅やコミュニティの形というのはどんどん変化しますから、そうした社会の変化が激しい時代にはゆっくり知恵を熟成させる時間も、それを教える時間もなかったわけですが、そろそろそれが実現されようとしていると。リノベーションというのは自分で自分の暮らしをつくっていけること、新しい情報を社会のなかに発言していくことだと思うんですが、そのリテラシーを伸ばしていくためには、その場がWeb上のソーシャルネットワークサービスだったり、信頼できるWeb上の場所で、淡々と暮らしについて研究されていたり、あるいはユーザーといいコミュニケーションが取られていたり。いい知的蓄積ができてくることが重要なわけですよね。
じつは無印良品の家のWebサイトでは、そうした知的蓄積をすることを意図しているわけです。そこでは、「洗濯機はどこに置けばいいのでしょう?」といった、はっとするような問いがあって、そうした覚醒力がある問いによって人が集まるということもありますね。その問いと答えの繰り返しのなかで、究極の答えは得られないんだけど、住宅リテラシーは一気に上がっていくんです。そうしたことはとても大事で、住宅の編集能力の高い人が増えれば増えるほど自在性を持った道具が生きてくるわけですから、そういう意味でも無印良品とコラボレーションしていただいているのは素晴らしいですね。
- (MUJI)
- 今回、無印良品では半年ほどかけて団地再生物語という連載コラムを書いていますが、どのテーマもヒットしています。「団地の部屋をシェアして住む」とか、「二世帯で賃貸に住む」とか。実際には、分譲マンションでは難しいでしょうけれども、UR賃貸ではそれができる可能性があると感じているのですがいかがでしょう?
- 大西
- 分譲マンションですと区分所有法というのがあって、共用部分を修繕するとなると、程度の差によっては区分所有者の3/4の合意が必要ですし、ベランダの壁を壊して外から入れるようにするといった、共用部分の取壊しのためには全員の同意が必要なので、実質的には不可能に近いです。URの団地でも、もちろん居住者の方へのご説明は必要ですけれども、決断というのは我々自身でできるんですね。例えば、団地の入り口の部屋があいたときに、思い切って住宅ではなく花屋さんにしたらどうかとか、花屋さんとカフェが併存したような場所をつくってみたらどうかとか。
色んな工夫を積み重ねて、さらに“感じのいい”団地になっていくのではないかと思うんです。URという事業体のリスクのなかでいろいろなことができるわけですから、そういう意味では分譲住宅より自由度が高いと思いますね。
- MUJI
- 民間と違って、市場に任せるのではなく、市場をリードすることができるのは、大きなポイントかもしれませんね。単に売れればいい、そういうことではなくて、暮らし方のありかたをしめしていくことができるということ。
- 大西
- 私は失敗してもいいと思っているんですよ(笑)。やってみて、ダメだったらまた住宅に戻せばいい。いろいろなことを試していくことによって、住宅地はもちろん、周辺の方にとってもいい影響がある、そうした機能を入れ込んでいくことができるんですね。先ほどのキッズルームや介護サービスの拠点など、昔はなかったけど今は求められているような新しい機能を、お住まいの方々のご理解が得られれば、戦略的に実験していくことも可能だと思いますね。