好立地×小さな森を囲むゆとり空間
新千里北町団地

大阪府豊中市にある千里中央駅を囲む一帯は、日本で最初に誕生した大規模なニュータウンです。北大阪急行電鉄南北線(大阪市営地下鉄御堂筋線)と大阪高速鉄道大阪モノレール線が通る千里中央駅。愛称「せんちゅう」といわれるこの駅を中心点として、1960年代から1970年代後半に建てられた9つのUR団地が存在します。MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトでも、過去に3つの団地を案内させていただきました。今回は、その中でも初期に建てられた、千里ニュータウンのパイオニア的な存在である新千里北町団地をご紹介しましょう。

都心に通いやすく、周辺にショッピング施設も多い

まずは、改めて”この街について“のお話から。千里ニュータウンの完成年代が示すものは、そう、大阪万博(日本万国博覧会)です。1970年に千里丘陵で開催されたアジア初かつ当時史上最大規模の博覧会。大阪万博の開催に向けて、日本初の大規模ニュータウンが切り開かれました。岡本太郎さんが手掛けた「太陽の塔」がそびえる万博記念公園まで、モノレールで10分少々。万博記念公園では、複数の屋台が出るフェスティバルや野外音楽イベントも多く、大規模な催しから、手づくりのお弁当を持ったピクニックまで、気軽に訪れることができる近さです。

では、視点をせんちゅうに戻しましょう。大阪市営地下鉄御堂筋線で梅田駅から乗車20分足らず、新大阪駅なら乗車15分足らずで、千里中央駅まで到着。都心から、これほど近いにも関わらず、穏やかな暮らしが広がるベッドタウンです。駅周辺には、阪急百貨店やヤマダ電機、衣服や雑貨を中心とした大型ショッピングモールやスーパーなどが充実。「仕事帰りに電球を買って帰ろう」「今日は鍋にしようかしら」そんな思いを家路でスムーズに叶えることができます。

小さな手づくりの森を囲む、ゆとりの空間設計

千里中央駅から徒歩約6分、あっという間に新千里北町団地に到着します。1966年から1967年に建てられた、千里ニュータウンのパイオニア的な団地。階段室型の5階建て26棟・730戸。団地内は緑豊かで、ヤナギ・モミジ・マツなどの日本らしい樹々から、イチョウやヤシの木まで、和も洋も多種多様な樹々が仲良く並んでいます。棟と棟の幅は広めに取られており、ゆとりの空間が生み出されています。都心へのアクセスも良く、お買い物にも便利で駅が近く、そして団地内は緑豊か。まさに、良いとこどりの団地ではないでしょうか。

さらに驚くべきことに、この団地の中央には、小さな小さな森があるのです。贅沢にも約1棟分の敷地を使って、高さ約2mほどの手づくりの森が柔らかな緑を揺らしています。住人たちが心穏やかに暮らせるようにと、ぎっしり棟を建ててしまうのではなく、中央に森をつくるという発想。まさに、ゆとりの空間設計がなされています。手づくりだった若いこの森も現在50歳。山肌は苔生して、樹々は天高く伸び、今では里山をそのまま持ち帰ったような本物の森となりはじめています。

森のそばの集会所と広場で交差する、住人たちの日常

この小さな森のすぐ隣に、集会所と藤棚の広場があります。集会所には卓球台があるため「卓球サークル」の実施や、他にも体操・楽器・手芸など住人発信で様々な企画が行われています。今は年配層の利用が多いのですが、2016年の秋からは育児中のママに向けた「子育てサークル」もスタートするようです。広場は、ちょうど各棟に向かう通過地点にあるため、住人たちが自然と顔を合わせるスポットとなっています。お昼にベンチでお弁当を食べる人の姿、ベビーカーを押すお母さんの姿、仲良く散歩をする夫婦の姿などが見受けられます。

夏場は毎年、この広場を舞台に、自治会主導の「夏祭り」が開催されます。いくつかの夜店が並び、催し物が行われ、この団地の夏の風物詩を楽しもうと住人たちが集まり賑わっています。小さな森が隣接する憩いの広場で、子供から大人までもが集まってつくる夏の思い出。この立地に建つマンションや一軒家暮らしではなかなか味わえない、”村のお祭り”のようなひとときを体験することができます。

電車も車も便利。住人が語る、この団地の穏やかさ

団地の中を歩いていると、鈴なりに実を付けているカリンの樹を発見。見事な実のりを眺めていると「住んでいたけど、気付かなかった!ありゃすごいねぇ」と気さくに声をかけてくださる年配の男性が一人。お聞きすると、御年80歳で、新千里北町団地に住んで約20年になるそうです。この団地は駅まで近くて便利なだけでなく、高速道路も近いため、友人や親族が車で訪ねてくるにも便利で良いと教えてくださいました。

「利便性も環境も良くて居心地が良い。万博という一世一代の大きな催しに向けて開拓された街だから、当時はこの団地に入れることは一種のステータスだったんだ。そのためか、今も品の良い住民が多い気がする。そうそう、最近ご近所に、都心でIT職に就くインドの方が住みはじめてね。ゴミ出しの方法がわからないみたいだったから、カタコトの英語と日本語でコミュニケーションを取ったりして。そんなふうに、この団地の人たちは、穏やかでゆるやかな関係性で繋がりながら暮らしているんだよ。」笑顔でそう話してくださいました。

※取材日(2016年10月)時点の情報になります

リノベーション住戸について

さあ、穏やかな気持ちでいっぱいになったところで、MUJI×URリノベーションプロジェクトのお部屋を覗いてみましょう。今回リノベーションした間取りは、MUJI×UR Plan11(51.31m²)、MUJI×UR Plan30(61.41m²)。もともと3DKや4Kであった間取りの室内を、2LDKの開放的な間取りへとリノベーションしました。階段室型の団地なので、お部屋は両サイドを窓に挟まれています。採光も風通しも抜群です。駅側の窓から見えるのは、少し離れたところに建つ背の高いオフィスビル。反対側の窓から見えるのは、すぐ裏手の緩やかな傾斜に広がる戸建住宅地。団地単体が独立しているのではなく、団地もオフィスも住宅地も、連続性のある一つの街として設計されています。

室内は白を基調としたシンプルなつくり。コンパクトな部屋サイズながらも、リビングやキッチンや寝室などが、機能別に一つ一つの部屋として扉や壁で区切られているため、”部屋”というより“家”という感覚を強く得られます。荷物がかなり多い方は、団地内の貸し出し倉庫を利用するという手もありますよ。とくに、働き盛りのご夫婦のマイホームとしては最適かもしれません。平日は都心のオフィスで働いて、帰り道にスーパーで買い物をして、近すぎず遠すぎない室内距離のなか、夫婦で仲睦まじく過ごし、週末は心地の良い陽射しと風を部屋に存分に取り込んで、のんびりと過ごす。そして、いつかお子さんとご一緒に、家族揃って団地の夏祭りに参加してみてはいかがでしょうか。