MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
トークイベント「千里ニュータウンと団地の魅力」

※このレポートは、2016年2月6日に新千里東町団地集会所で行われたトークイベントの模様を採録しています。

川内
最後に、私からはMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトがどういう思いでスタートしたか、どんなコンセプトで進んでいるかについて簡単に紹介したいと思います。
戦後に欧米の暮らしが日本に入ってきて、食堂と寝室を分ける、それを狭い空間で実現するかたちで、ダイニングキッチンが開発されました。それによって日本人の暮らしがどんどん変わっていきました。新しい戦後のスタンダートを75万戸もつくってきました。

一方で、無印良品は1980年から生活雑貨を通じて、無駄なものを省いて本質的なものを提案し暮らしを豊かにする、というコンセプトで始まりました。そういう意味でも「スタンダートをつくり上げる」という点で共有項がありました。

なるべく部屋を仕切って2DKにして子ども部屋をつくり、そういった暮らしが当時は望まれていましたが、子どもが減ってきたこと、そして新しい今の暮らしに価値を置き換えるということで、MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトはスタートしています。
生活雑貨で日本の暮らしを考えてきた無印良品、そして住まいそのもので日本の暮らしを考えてきたURが一緒にプロジェクトを進めています。

2012年4月に「団地について」のアンケートを実施しました。一週間で2,247件のアンケートが返ってきました。そこで「今まで団地に住んだことがありますか?」という問いに、「現在住んでいる」と回答した方が21%、「過去に住んだことがある」と回答した方が30%。一度は住んだことがある方が約半数もいることがわかりました。そして「住んだことはないが遊んだことがある」と回答した方も41%おり、つまり全体で92%の方が団地に対して親近感を持っているということがわかりました。しかし3DK、2DKという間取りが今の暮らしに合わなくなっているということもわかり、そこを再価値化しようと思ってプロジェクトが始まりました。
川内
生かすところ
「新しいものは古いものよりいいんだ」という価値観がかわってきています。古き良きものは生かしていこうという発想。団地では南面配置にこだわってきましたが、棟と棟の間が離れているので、そのインフラを活かそうということになりました。また団地75万戸のなかでMUJI×URでの間取りの変更、価値付けの変更が徐々にできればと思っています。

「団地について」のアンケートで、一番要望が多かったのが「間取りを自由にできるとよい(自分で改装できるとよい)」ということでした。自分の暮らしに合わせて部屋をカスタマイズするという要望があり、 「最小限のものだけ置き換える」「自由にできる」ということもやってきました。
川内
「生かす」ということでいうと、キッチンは使えないのですが吊り戸棚は使い易い位置にあるので、塗り替えて使っています。またタイルも塗り替えて使っています。基本的に和室が多いので、鴨居や柱、敷居がたくさんあるのですが、新しいものには出せない風合いを残しました。古い木材をうまく残してアクセントにしています。
川内
自由にできるところ
どうしても変えないといけないところはキッチン。どうしても今の暮らしにあわないので、無印良品らしいシンプルなキッチンをつくりました。収納は自分で工夫して置けるようにしました。
川内
また、畳が多いのですが全部床にするとコストや音の問題がかかるので、洋風にも和風にも変えられる「麻畳」を開発しました。 畳の形状をしていますが、置き換えるだけで雰囲気が変わります。
川内
配線が増えたものを整理するため、配線を隠しつつデザインのポイントになるようなレイアウトをつくっています。
川内
コの字型と同じデザインのテーブルを用意して、キッチンをカウンター、T字、L字にすることができます。住む方が自分の住まいにあわせられるのが特徴です。
川内
基本的に間仕切りを取れるものは取り、家具で仕切れるものは家具で。キッチンとダイニングが一緒になっています。そして、家具をおくとリビングとダイニングが分けられるようになっています。
私からはMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトの紹介をさせていただきました。ありがとうございました。

(質疑応答)

川内
今日の話の中で質問などありますか?
では私から門脇先生へ。押入れを取り、風が流れるようにという点にこだわっていますが、一方で都心に建つ高層マンションは南面を向いている必要がない。南面にこだわっているのは日本人だけかもしれないのですが、今後はどうなっていくでしょうか?
門脇
場所によるし時代にもよると思います。この団地は成長していた時代だったからこそ、いいところを引き出していたという背景がありますが。南の方角は良い、北は陽が入らないということは人間の感覚として身につけるべきだと思う。今教えている学生は、方角を考えずに住宅のプランを考えてしまう。マンションに暮らしているのでそうなってしまったのかなと。その感覚は享受すべきだと思っています。
川内
ありがとうございます。四季がはっきりしているという日本の特徴もあるのかもしれないですね。陽がない国は方角を意識する必要がないので景観を重視していますし、日本は外の環境を室内に取り入れて気持ちよく暮らすというDNAが染み付いているので、高層マンションはその感覚を失っていくという懸念があるのだろうと思います。
長谷川
URが何を考えているかというと、このご時世で新しいものを建てようとすると、昭和40年代のようなものは建てられない。ただ、URの団地ではかなりまだ昭和40年代のものが残っている。それをいかに残しながら見つめ直して、古いけれど良いところを伝えていきたい。できる限り今の暮らしにあったものがつくれないかと思っています。
川内
新千里東町団地は小さなスケールの広場がつながっている、外部の方が入ってこられるということでコミュニティも育っているのですが、こういった小さな広場のつくり方をした方がコミュニティが育つという確信はあったんですか?
太田
大阪府は、府営住宅で住棟がロの字型に中庭を取り囲む完全な囲み型を採用しましたが、UR新千里東町団地では完全に囲むのではなく、コの字型やL字型住棟配置として中庭が一部開くように工夫しました。中庭は、コミュニティづくりを重視した千里の団地計画の大きな特徴であり、サークル活動や子どもを介した交流が生まれました。とくに新千里東町団地の中層エリアの中庭は、仲間内で集まるのにちょうどいいサイズ感だと思います。
門脇
中庭はヨーロッパ的公共空間です。我々の空間は道なんですよね。道の間にたまりがあるという感覚。囲み型はコンセプトは違うものの、路地や道で井戸端会議が起きるのもその考え方の延長にあると思います。
川内
子供たちの遊具が危険だと言って使われなくなる傾向がありますが、その点いかがですか?
太田
1990年頃から、屋外での遊び方が変わってきているようです。子どもを砂場で遊ばせないとか、遊具を使わないとか、それは子どもが少ないということだけではなく、母親の衛生や安全への意識が強くなっているようだと長年住んでおられる方はおっしゃっています。
門脇
今日団地を歩いていたのですが、本当に子供がいません。人が暮らす場所として不健全です。日本の場合、悲しいことに団地は特定の世代しか暮らしていない。だからこそ、古いものに新たな価値を付けて別の世代が入居するのはすごく良いことです。世代がミックスするという点で、団地が楽しくなると思います。
長谷川
世代感ミックス、他世代交流が団地には必要だと思っています。高度経済成長時代団地に移り住んだ方は若い方ばかり、ただ年を経て徐々に世代間の広がりが出てきて、そして世代間の広がりが狭まってきている。そこをなんとか、若い人に住んでもらって、団地をより元気にしていきたいと思っています。もう一つ、機能特化という点。団地というのは住まいだけの住棟ですが、住まいだけではない、例えばカフェや花屋というものが入り込めないのかということも検討が始まっています。
参加者
URの方に質問です。子供の頃、泉北ニュータウンに暮らしていました。子供時代に団地の良さを理解しているので、結婚したときに、職場から近く、風通しの良いところと思って団地を選択しました。今URが勧めている取り組みは住人が減っている大規模郊外のかたちに力を入れていると思うのですが、都心部での取り組みについてはどうお考えでしょうか。古くなってしまっているところについて、お金を出して変えられるなら変えたい。でもできない点が多いので、なんとかできないかと思っています。
長谷川
長く住んでいただいている方、そしていろんなURにもお住まいいただいていて、団地の良さをうかがえるのはとてもありがたいです。実はURとして案内ができていないのですが、部屋の中を自己負担で模様替えいただくのは可能です。システムはあるものの、手続きがかなり多いのでやや煩雑。どこまでご要望に添えるかはわからないのですが、ご相談いただければと思います。 今後、こういったご要望に答えるために、URとしても力を入れる必要があると思っています。DIY住宅がはじまっていたり、カスタマイズもできるようになっていたりします。貴重なご意見ありがとうございます。
川内
ありがとうございます。お時間になりましたので、これでおひらきとさせていただきます。皆様、ありがとうございました。
この後、参加者の方は新千里東町団地内でのMUJI×URのモデルルーム、そして「ニューベーシック」の部屋を内覧されて、具体的な暮らしのイメージを膨らませていました。