


MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
トークイベント「MUJI×UR 10周年記念トークイベント『これまで』と『これから』」
※このレポートは、2023年3月4日に泉北茶山台二丁団地で行われたトークイベントの模様を採録しています。
- 長谷川
- 本日は「MUJI×UR 団地まるごとリノベーション となりのひろばを使ってみよう」にお越しいただき、誠にありがとうございます。ただ今から「MUJI×UR 10周年記念トークイベント『これまで』と『これから』」を開催いたします。私はこのプロジェクトの立ち上げメンバーの一人で、現在URコミュニティ大阪住まいセンターに在籍している長谷川と申します。よろしくお願いします。
- 豊田
- 私、同じく立ち上げメンバーでMUJI HOUSUEの設計を担当している豊田です。よろしくお願いします。

- 長谷川
- 本日は堺市の泉北茶山台二丁団地のMUJI×URプラン03のお部屋の中からライブ配信をお送りしております。このプロジェクトは2012年「団地をリノベーションする住まい」として住戸リノベーションからスタートし、10年が経って本日を迎えることができました。実は当初は「5年は頑張りたいよね」とメンバーで話していたのですが、そこからずいぶん経って10年も経過したことをとても嬉しく思っています。改めまして団地にお住いの皆様、モデルルームやイベントにお越しいただいた皆様、そして10年お付き合いいただいたMUJIの方々にも感謝申し上げます。それではトークイベントにまいります。

- 長谷川
- まず振り返りとして当時の状況をお話します。UR都市機構は1955年に発足した日本住宅公団から団地作りを始めています。1990年ころから団地の建て替えを行っており、2010年ころからあえて建て替えではない、負荷を押さえた活用方策を模索しておりました。その背景には個別化とも言える暮らしの多様化があります。また建設業界で言う「スクラップ&ビルド」、つまり大量消費社会を見ていると、我々が行ってきた大量供給と大量管理をずっと続けることの不安や疑念を抱いておりました。
そのような中、URでは団地の緑豊かなゆとりの空間、陽当たりと風通しのいいコンパクトな間取り、程よいコミュニティ単位と住みつなぐ暮らしの魅力を再発見していましたところ、MUJIさんにその魅力と可能性に共感していただき、2012年連携がスタートしました。MUJIさんの「感じ良い暮らしと社会」を作っていくスタンスと、URの団地作りから発祥とした暮らし全体を作っていくスタンスの響き合いが大きかったと感じております。スタート時から「お客様とのコミュニケーションを大切にしよう」、「予算感はしっかり持とう」と話しておりまして、プロジェクトを進めるなかでメンバーで共有した思いは「団地らしさを大切にし、暮らしの良さを伝える」、「古いものを大切にしながら、新しい価値を与える」、「『借りて住む』ことの選択肢を増やす」というものでした。

- 長谷川
- このような思いのもとスタートした団地は大阪のリバーサイドしろきた、新千里西町、そして本日のイベント会場にもなっている泉北茶山台二丁です。続いて豊田さんにバトンタッチさせていただきます。

- 豊田
- 私のほうからはもう少し具体的な設計内容についてご紹介します。最初にURさんから与えられた「こんな団地にしていきたい」という課題が、高齢化社会のなかで若い人を団地にどんどん入れて活性化していきたいということがありました。そのためにどうしていくべきか考えました。団地の魅力を考えてみると3つポイントがあると思いました。まずは陽当たりと風通しです。一般的なマンションですと敷地ギリギリで建てられることが多く、なかなか陽当たりがよくないことが見受けられますが、団地ではそのようなことがありません。暮らしの本質を捉えている魅力的な住まいだと感じました。また一般的には新しさが魅力かもしれませんが、実際に団地を拝見してこの古さが若い人にとっては逆に新しく感じるのではないかと思いました。その古さをできるだけ活かして設計していきたいと思いました。また当時は72万戸の団地がありましたから、暮らしのスタンダードになっていくのではないかという可能性です。たくさんやることでスケールメリットがあり、たくさんの人に団地のメリットを知っていただけることも団地の魅力だろうと思いました。

- 豊田
- そのなかで「生かす」、「変える」、「自由にできる」という3つのポイントを大事にした設計を始めました。一方でもともとある団地のよさを決して見失わないように「壊しすぎず、作りこみすぎない」という点も大事にしています。


- 豊田
- まず「生かす」ですが、左がリノベーション前の状態です。上に鴨居がありますが、右のリノベーション後にも残していきました。
柱の飴色に変化した感じは非常にヴィンテージ感があり、若い人にとってはとても新しく映って魅力的なのではないかなと思います。こういうものは積極的に残していきました。


- 豊田
- そのほか団地によくある和室の押し入れも残すために、写真のような形で中側は取っているのですがフレームの部分は白く塗ってリビングの延長のように使えるように残したのが特長です。 写真ではリビングの延長のようにしていますが、既製品の収納のようにしていただくことも可能で、お客様が自由にカスタマイズする使い方を想定して作りました。


- 豊田
- そうは言っても変えなくてはいけない部分もあります。たとえばキッチン。左のリノベーション前は壁付けのキッチンでしたが、「もう少し家族のコミュニケーションを活性化したいな」という思いもありまして右の写真のように対面型に変えたりしています。
オリジナルキッチンをURさんと一緒に開発して設置しております。


- 豊田
- また和室です。畳があると若い人にとっては古めかしい印象になりがちです。
そこで右写真のように、縁をなくしたデザインで表面を一般的な井草ではなく麻にすることで、表面を強くしてへたれにくい畳を開発しました。


- 豊田
- そのほか「自由にできる」ことも大事にしています。一般的な賃貸住宅だとどうしても自分の暮らしを間取りに合わせなくてはいけないことが多いのですが、これだけ世の中の暮らしが多様化するなかで間取りのほうをカスタムして変えられないかなと考えました。たとえば組み合わせキッチン。左の写真では、右側にキッチンがありますが、隣に同じデザインで同じ幅、高さ、奥行きのテーブルを設置することでこのようにキッチンを大きく広々と使うことができます。
あるいは右の写真のように前に組み合わせてあげても広く使うこともできますし、ここで食事を取りながら料理をして対応することもできます。


- 豊田
- また左の写真のようにL字に組み合わせて外を見ながら食事をするなど、住む人が選んでカスタマイズできるやり方を考えていきました。
そのほか右写真のように天井から吊り下げる小天井と無印良品で販売しているユニットシェルフと突っ張り棒を組み合わせることによって簡易的な間仕切りのような使い方ができます。


- 豊田
- 左写真の、右奥に見えるのがユニットシェルフです。
このユニットシェルフがなくなるともっと広々とした一体空間として使うこともできます。こういったこともカスタマイズできる要素として加えています。


- 豊田
- また麻畳を左写真のように広く敷くと、今までの畳と同じように床でゴロゴロ生活することもできます。
一方で右写真のようにソファを置いて洋風な暮らしもできます。表面を強くすることでいろいろな暮らし方に対応できるかなと考えていきました。


- 豊田
- こちらは段ボール襖というURさんと共同開発したもので段ボールでできた襖によって部屋と部屋を仕切ろうと考えました。
非常に軽いので持ち運びが自由です。開きたいときには取り外して立体的に使えます。そんなふうにして自由な暮らしをしていただこうと考えて作っていきました。
- 長谷川
- 豊田さんありがとうございました。このようにMUJIさんからは今あるいいものをどのように残していくのか、どこを変えていくのかというご提案をいただきました。URは歴史もあって基準やシステムも古くからあるので、それらが今のご提案や今の暮らしに合っているのかどうかを考えるきっかけになりました。そこで10年が経ちまして、今年度末で全国61団地、70プラン、約1,200住戸になる予定です。
- 長谷川
-
こちらは当初の2013年の募集結果です。年代構成では若い人を入れたいお話がありましたが、結果的に20代、30代の方々から7割以上の応募がありました。かつ最高倍率ではエレベーターがなくて遠慮されがちな5階で11倍という結果となり、大変喜んでおりました。
この10年の活動を通じて見えてきたものは、MUJIさんのスタンス「今ある価値を見出し、新たな工夫をつけたすデザイン」と「届けたい人に届けるプロモーション」を平行していくことを我々URは学ばせていただきました。またURは65年以上団地作りのなかで、長年、住まいの中と外を同時に考えていくことをしてきました。さらにそれを街につないでいくデザインをしております。それが「居住性能と屋外性能を両立させた住まい・暮らし・まちをつなぐデザイン」。このことをMUJIさんにも共感していただいて一緒にできました。たとえばお部屋から見える風景をどう作っていくかという議論ができたと思います。それらを実践した結果、元気な団地・まちに繋がっていくことが見えてきた10年だったと思います。
