MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
MUJI×URトークセッション 「10年前の未来と10年後の未来」

※このレポートは、2023年10月1日(日)に無印良品 グランフロント大阪で行われたトークイベントの模様を採録しています。

part1:MUJI×UR今までの10年の振り返り
豊田
本日は、よろしくお願いします。
豊田
こちらの画像は、MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト立ち上げメンバーの当時の思いがこもった一枚です。
これは、2013年に出したMUJI×URの最初のカタログとなった表紙です。最近のイメージ写真は無印良品の家具や雑貨などを入れて華やかな印象がありますが、当初は団地の押入れを白く塗っただけのストイックな印象でした。

長谷川さんと私が立ち上げメンバーとして、MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトの今までの10年を作ってきました。熊谷さんと中村さんがこれからの10年をつくっていく、若手の2人となります。

今回は、「今までの10年の振り返り」と、2012年と2023年に取ったアンケートの比較や結果などを基に、今後10年の可能性についてお話をしたいと思っております。
豊田
2012年にMUJI HOUSEとURさんが出会いました。2011年に東日本大震災があり、景気としても非常に良くなかった時代でした。当時のURさんの時代背景も含めた課題はどういうところにありましたか?
長谷川
URの歴史的なお話となるのですが、UR都市機構は、1955年に設立しました。日本住宅公団の後継にあたります。当時は高度成長期に向けた住宅不足に、住宅を供給していこうという住宅政策の元、設立された公団です。
1990年頃から、設立当初に建てた団地が古くなり、建て替えを進めていました。2010年頃からは、変化していく暮らし・考え方に対応するため、建て替えだけでなく、違う方策を模索しはじめました。
その際、団地を見つめ直したことで、「団地にはこんなに豊かな暮らしがある」ということが見えてきました。
MUJI HOUSEさんとの団地についてのディスカッションでその旨を伝えた際に、「団地の暮らし方すごくいいですよね。みなさんが豊かに暮らされていますよね。」と共感していただきMUJI×URが始まりました。
長谷川
当時、「団地らしさを大切にし、団地暮らしやすさを伝えていきたい」、「古いものを大切にしながら、新しい価値を加えていきたい」、URは賃貸住宅の管理・経営をしていますので、「借りて住むという選択肢を増やしたい」という3つの未来を思い描いていました。

高度成長期に使われていた「住宅すごろく」という言葉があり、あがりが持ち家でした。「持家ではなく、賃貸住宅がゴールでも面白いのでは?」と、当時のメンバーで議論を重ねて行きました。
豊田
当時、団地について詳しくなかったのですが、URさんの団地の住戸を訪れたときに、冬でもちゃんと陽が入り、風が通ることをすごく大事にして設計をしていたことが良く分かりました。
設計を学ぶ際、日当たり・風通しを大事にしましょうと言われるのですが、日当たり・風通しを大事にしている設計をあまり見ることが無かったので、「あ、ここにそういうものがあったんだ」というのが私からしても非常に驚きでした。

一方で、団地だけに限りませんが、少子高齢化で高齢者の方が増えてきています。若い方に住んでもらうことで、団地を活性化してもらいたいというのは課題としてありました。

しかし、若い方にそのままの団地を見せても、良さをなかなか感じにくいだろうと思い、無印良品的に翻訳するようなかたちで若い方に伝えていこうと考えました。

無印良品は、お客さまの声を拾い上げ、商品にするのが得意な会社です。商品と同じくように、団地でもお客様の声を聞いてみようと2012年にアンケートを取りました。

団地との関係について聞いたところ、住まれている方、あるいは過去に住んでいたことがある方、団地に訪問・遊んだことがある方まで含めると、9割以上の方が、団地と何かしらの関りを持っていました。日本人の暮らしに団地が浸透していることが分かりました。

どのような部屋だったら団地に住んでみたいかもいろいろな角度で聞きました。
「リノベーション後の団地に住んでみたいか」、「お風呂やキッチンはグレードの高いものが良いか」などを項目にいれたのですが、「間取りを自由にできると良い」という項目の数値がとても高い結果となりました。
「可変性がある」、「自分でカスタマイズできるといい」と私たちは受け取り、みなさんから求められていることを知ることが出来ました。

アンケートの結果を踏まえ、団地の魅力をURさんと整理して行きました。
ディスカッションでは、いろいろな話が出ましたが、最終的にこちらの3つに落ち着きました。
豊田
一般的に「古い」ことは課題と捉えられてしまうかもしれませんが、若い人にとって、この「古さ」は、団地の魅力になるのではないかと考えました。
「古さ」を魅力にしたというのはかなり斬新だったのではないかなと、今でも振り返ると思うところがあります。

また、団地の日当たりと風通しを生かした設計をしていきたいと考えていました。間仕切りをできる限り少なくし、部屋の真ん中まで陽が入る・風が通り抜けるといった本質的な暮らしができることを強調していこうと考えました。

建築やリノベーションは、1回作った後にも、いろいろな問題が発生し、それを都度なんとか改善しうまく収めていくことがよくあります。

しかし、URさんの団地は日本に70万戸もあります。同じ間取りもたくさんあるので、1戸で問題点を解決できると、次は、その解決策を同間取りの住戸に一気に展開していけるメリットがありました。
70万戸という住戸数があるので、このプロジェクトを成功させることで世の中に対し、新しい暮らしのスタンダードと言いますか、一石を投じることができるのでないかという思いがありました。

1つの作品を出して終えるプロジェクトもありますが、MUJI×URはそうではなく、何十年も作り続けることで、日本の暮らしに浸透して行く可能性を秘めているのではないかと考えていました。

そこで出た言葉が「こわしすぎず、つくりこみすぎない」です。 団地ならではの良さがあったので、できる限り生かした設計をしていきたいということと、最低限の作り込みにすることで、若い人に対しての翻訳機能を果たせないかと考えました。

コストも大きな課題の1つです。
コストをかけてかっこいい作品を作ることもできますが、プロジェクトとして永く続けることが出来ません。そのため、コストも抑え、プロジェクトとして長く続くよう「作品」ではなく、「商品」として作ることにしました。
その中で考えたのは、既存のものをできる限り「生かすことです。

また、可変性の部分ですが、自由にできる部分を残していこうという、この3つを生かした設計にしています。
豊田
例えば、既存のものをできる限り「生かした」部分についてですが、あめ色に変化した木材というのが実は魅力的なんじゃないかなという風に考えました。柱や鴨居といった部分を、積極的に残していったというのが1つです。

日当たり・風通しを良くするため、間仕切りを取り、できる限り広々と使えるようにしました。これが象徴的な写真の1つです。

あと、古い団地はよく和室があり、和室をどのようにリノベーションするのかも課題でした。
豊田
例えば、押し入れです。押し入れの中、棚を取って白く塗り、居室の延長線上としても、家具を置けば収納としても使えます。ここでも可変性を少しだけ表現しているかなと思います。 なおかつ、コストもかけない。壊しすぎてしまうと、コストがかかってしまうので、最低限の壊し方を考え作りました。
豊田
あとは、団地ならではの建具です。
こちらお手洗いの建具ですが、こういった珍しいものを、「これは面白い、ぜひ残しましょう」と大切にしています。古い建具などは塗装しなおして残しています。
豊田
こういうノブなども今だとほとんどみかけないですが、こういった可愛い形のノブとかも、積極的に残しています。

一方で、水回りやキッチンは、変えていった方が良いのではないかということで、オリジナルのキッチンを開発しました。
和室の畳ですが、どうしても若い方にとって、この畳の縁のデザインがどうなのかなという不安があり、麻を使った、縁なしの畳もURさんと一緒に開発しました。

自由にできる、可変性を大切にしてやっていきましょうということを考えていきました。これも、また後でご説明していきたいと思います。

MUJI×URは大阪でスタートしました。
長谷川
最初は、3団地、5タイプ、12戸だったと思います。
豊田
お部屋の募集の倍率も高く、最高で29倍とかでしたね。非常に好評を得たということで、どんどん広まっていきました。10年経った今では1,000戸を超え、1200戸。大阪からスタートし、東京や中部・九州まで展開をしています。
今現在もどこかの団地でお部屋を作っているというような状況です。
長谷川
もう少し日本地図的に都心だけでなく各地方に広がれば、もうちょっと面白いなと思いますね。
豊田
そうですね、まだまだスタンダードにはなってないかなと思いますので、スタンダードにしていきたいです。
一方で、若い方に団地に住んでいただこうという思いもありスタートしましたが、実際にお住まいになられた75%は子育て世帯も含めた40代以下の方々となりました。
長谷川
MUJI×URがスタートした10年前の年齢構成として、若い方に多く来ていただいたという結果になっています。
豊田
当初の目標はある程度達成できたのかなと思っています。
今までは住戸をリノベーションしてきましたが、次の取り組みとして、「団地まるごとリノベーション」が、2021年からスタートしました。
今までは、住戸の中をリノベーションし、若い人に住んでいただこうというプロジェクトだったのですが、団地まるごとリノベーションは「外側」の、建物の外観、広場、あるいは商店街、公園、集会所といった共用部をリノベーションし、さらに団地の魅力を、いろいろな方に向けて発信していこうと考えました。
スタートしたばかりで、お披露目はもう少しかかるとは思いますが、こちらがイメージです。
豊田
上の2つが、大阪の中宮第3団地のプール跡地と泉北茶山台二丁団地の広場です。下の左側が、神奈川の港南台かもめ団地の集会所、右下が千葉の花見川団地の商店街のリノベーションです。それぞれの団地で設計や工事が動きはじめています。
長谷川
団地に賑わいがでてくるようなイメージでいいですね。リノベーションが完成したとしても、全てガラッと変わってしまうわけではなく、団地にお住まいの方と一緒に、少しずつ例えば10年かけて団地を変えていく、そんなイメージで取り組んでいます。
熊谷
MUJI×URが始まった10年前は、高校生でした。そのころから団地が好きだったので、MUJI×URのことは知っていました。MUJI×UR当時の担当者が、どうしたらいいのだろうとたくさんの議論を重ねて今があるんだなと思いました。私が担当になった今も、たくさんMUJIさんと話をしています。
長谷川さんと豊田さんもお互いにとても会話をするので、若手の我々も話さないといけない、考えないといけないという思いになり、毎回打合せでは議論を重ねています。
中村
私も、MUJI HOUSEに入る前から、MUJI×URのことは知っていて、憧れて入社を希望しました。
今で言うと、団地のリノベーションはどこの会社でもやられるようになってきたと思うのですが、当時MUJI×URは団地のリノベーションの先駆けだったのではないかなと思っています。あまり褒めてしまうと、手前味噌な感じになってしまうのですが、今プロジェクトに参加することができて、すごく嬉しく思っています。
豊田
このプロジェクト自体がかなり両者にとっても、挑戦的なプロジェクトだったと思います。我々の現場の思いが非常に強く、会社とはフリクションがあったかもしれませんが、結果的には良かったと思っています。