MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
高島平団地リノベーション完成 ここだけの話 2014

※このレポートは、2014年1月10日に東京エコッツェリアで行われた、パネルディスカッション式のトークイベントを採録しています。

パネリスト:

水井 淳氏

UR都市機構 東日本賃貸住宅本部。技術の建築職。
設計部門担当で、バリューアップ改修、耐震改修、住戸改修などの工事に携わり、UR団地の魅力のアップを図るための空間・暮らしの提案を模索している。

パネリスト:

豊田 輝人氏

「無印良品の家」商品開発担当。
無印良品の家を中心に、マンション・戸建分譲・リノベーションなど、無印良品の住空間新プロジェクトにも携わる。

パネリスト:

土谷 貞雄氏

無印良品「くらしの良品研究所」コーディネーター。HOUSE VISION、デベロッパー、家具メーカーなどの業務支援も数社おこなっている。中心となる業務はWEBを活用したアンケートやコミュニケーションの仕組みづくり、コラムの執筆など。

土谷
みなさん、こんにちは。今日はお越しいただきありがとうございます。
MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトは去年から始まって、今年で2年目になります。1年目は、大阪を中心に3団地。2年目の今年は、大阪の千里青山台団地東豊中第2団地、そして東京の高島平団地ということで、少しずつ進化しています。
申し遅れましたが、本日、司会をさせていただきます土谷と申します。今日は、お2人のスピーカーをお迎えしています。無印良品から設計者の豊田さん。それから、URから設計担当の水井さん。お2人が中心になって、お話しを進めさせていただきます。ということで、早速ですけれども、まずはプロジェクトの概要説明をお願いします。
水井
UR都市機構の水井と申します。よろしくお願いいたします。 本日は、お集まりいただきありがとうございます。 早速ですが、MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトの内容について、ご説明させていただきます。仕様、施工等、後、共同開発パーツについての苦労話とか、そういった話もできればと思っています。また、既に先行してMUJI×URの部屋に実際に住んでいる入居者の紹介や、ゲストの千里シェアルーム大使等のお話をいたします。

まず、無印良品は生活美学の専門店として、生活の基本となる本当に必要なものを本当に必要なかたちでつくってきました。一方URは、団地を通した日本のライフスタイルの提案や団地建設による技術開発、調査研究をおこなってきました。この両者が団地の持っている様々な可能性を活かして、これまでにない新たな暮らしのスタンダードを賃貸住宅で実現しようとする試みをはじめました。

環境やコミュニティといった団地での暮らしの良さを新たなリノベーションを通じて伝えたい。

水井
URの団地は、ご覧のように非常に緑も豊富で建物の間隔も離れており、生活環境を形成しています。
URにおいて団地を設計するにあたっては、“マント空間”という空間の捉え方があります。住宅、広場、駐車場といった団地を形づくる構成要素を「くるむ」空間のことを“マント空間”と呼んでいます。そういった生活をする上での住戸、住棟、住棟周りを含めた空間であり、日照、通風、プライバシーを確保するということを行っています。
水井
UR団地では、プライバシーを確保しつつ、安全な歩行動線を確保した団地形成や、あるいは車道をしっかり取って、歩道と車道、歩道、歩行者との分離を図っています。ある程度の規模の団地内には、保育園や学校、スーパーや病院などもあり生活がしやすいインフラが整っています。また、団地内には、公園が多数あり、自動車と歩行者の分離した道路計画をしている団地もあり、安全性にも配慮しています。

古いものを大切にしながら新しい価値を与えるリノベーションを提案したい。

水井
団地が建設された当時(昭和30~40年代)の風景です。当時、団地は最先端の住居設備を誇っていた住宅でした。ただ、40年以上経過している現在では、住居にもとめる機能や性能、デザインなどは大きく変化しており、当時のままでは陳腐化している状況ともいえます。
もちろん、昭和50年代以降もURは賃貸住宅を建設しており、その建設した時期のトレンドを十分把握し、賃貸住宅を供給してきています。
今回は、今ある昔つくられたものを活用しつつ、新たな価値を付加することで、古いものを活用した新しいモノに生まれ変わらせることを検討しました。

「借りて住む」を魅力的にしたい

水井
団地には、もともとさまざまな住戸のプランがあり、同じエリアで、ニーズに合わせた間取りが選べるなどの魅力があります。また、リニューアル事業も行っており、機能の更新も随時行っています。
今回は、団地リノベーションという考え方で、MUJIとURがコラボレーションして、新たな住戸プランを提供することで、さらに「借りて住む」賃貸住宅の魅力を高めていくものです。

これらを踏まえ、高島平団地でMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトを実施しています。
豊田
昨年度から引き続き、大阪の新千里西町団地リバーサイドしろきた団地泉北茶山台2丁団地の住戸もリノベーションを行っております。
今年度は、首都圏に初進出をします。1つめは8,287戸の規模を誇る、UR最大の高島平団地です。

ここでは、リノベーションで大切にした考え方をご説明したいと思います。
昨年から引き続き、「生かす」、「変える」、「自由にできる」ということを大切にしました。

リノベーションでは、一般的には全てを壊してつくり直すということが行われますが、そうではなく、それまでの40年、50年前の状態をできるだけ残すことを考えました。例えば、天井の古い感じとか、柱の凹みとか、傷とかを、できる限り残して塗装したり、ビンテージな空間と言ったらいいんですかね、今の新築ではつくれないような、ここにしかない空間、住まいを意識してつくりました。
そうはいっても、変えなければいけない部分がありまして、キッチンやトイレ等必要な部分は最低限変えています。

また、「自由にできる」という部分では、一般的な賃貸住宅は間取りが固定されていて、自分の暮らし方を間取りに合わせなければいけないのですが、そういった暮らしを開放することを考えて、住み手ができる限り自由にできる、住んだ人が自分の暮らしに合わせて、変化をさせることができる部分というのをできる限りつくりました。

まず、「生かす」の代表的な部分をご紹介します。
豊田
古い柱や鴨居といった木部は経年変化をして味わいがあります。団地の象徴の1つと考え、残すことで空間のアクセントとしました。
豊田
こちらは、以前は押入だった部分です。襖をはずして、部屋とつなげました。こうすることで部屋の一部としても使えますし、収納としても使えます。また、押し入れの形はそのまま残して白く塗装することで、古い団地の記憶を残しました。


続いて「変える」の部分です。
豊田
今回のプロジェクトで共同開発をした「組み合わせキッチン」です。このキッチンと、テーブルとスツールがワンセットになっているタイプで、いろいろな配置に組み合わせることができます。
豊田
床材で使用した「麻畳」です。表面に麻を使うことでさらさらした足触りです。縁をなくすことですっきりとしたデザインとなりました。
豊田
床材として使用した「麦わらパネル」です。収穫後の麦わらを使用したものです。これまで単に燃やされていたり、肥料として地中に埋められていたのを有効利用したものです。さらっとした足触りの天然素材の床です。


続いて間取りから暮らしを解放する、「自由にできる」部分です。
豊田
キッチンは「組合せキッチン」といってキッチンとテーブルが同じ高さ・素材でできています。そうすることで一列に並べて大きなキッチンとしたり、向かい合わせに置いて対面キッチンにするなど、様々な使い方が可能です。

床で過ごす

ソファで過ごす

豊田
「麻畳」は表面が強いので、床に座る生活だけでなく、テーブルやソファを置くことができます。和風はもちろんのこと、洋家具を置く暮らしのどちらでも対応できます。

シェルフの仕切りがない場合

シェルフでの仕切りがある場合

豊田
無印良品のシェルフを組み合わせて間仕切としても使えるようにしました。暮らしによって間仕切り方を変えることができます。

左の「シェルフでの仕切りがない場合」の写真は、リビングを通ってLDKが一体として使えるタイプ。ここをシェルフで区切れば、右の写真のようにリビングとダイニングをゆるく区切ることもできます。無印良品の家具に合わせた高さの小天井をつくって、シェルフをつっかえ棒でささえるというような仕組みになっています。もともとの構造がシンプルなので、団地の内装に無印良品の家具の寸法が、非常に調和しやすくなっています。

もともとは布団など大きなもの以外の収納には使いにくかった押入ですが、シェルフを並べることで洋服や生活雑貨など小さなものも収納しやすくなります。

次に、プランについてご説明します。