MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
バスで行く。東京団地ハイキングツアー

※このレポートは、2013年11月2日に都内で開催されました、「バスで行く。東京団地ハイキングツアー」の様子を採録しています。

東雲キャナルコートCODAN(東京都江東区)

到着後、現地には二人目のゲスト、建築家の堀啓二さんが出迎えてくださいました。まずは集会所で堀さんから本団地についての説明をいただきました。

土谷
皆さんお疲れ様です。本日は堀さんに起こしいただきました。早速ですが、よろしくお願いします。
みなさん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。このプロジェクトでは、URがこれからの都心居住に対してどういった住まい方があるかを建築家と一緒に実践していく、というものです。都心には様々なライフスタイルがあります。核家族だけでなく単身の女性、高齢者、外国人、家で仕事をしている方等、様々な方が都心に暮らしています。今では郊外に暮らして都会に働きに出る、というスタイルが主流でしたが、都心で働きながら住むという形に移行していくのではと思っています。

人口は減っていますが単身住戸などを考慮すると、世帯数は増えています。都心でどういう生活をすればいいのか、nLDKという住まいの形ではなく、様々なライフスタイルに対応できるようにと考えました。

今まで公共住宅は、「南面採光、日照時間4時間」という条件で並行配置で作られていましたが、そうすると街並みが分断されてしまう。それに対してこの計画では、日照から採光、眺望という考え方をしました。人の生活が街に滲み出て1つの活気ある街ができないか、ということでヨーロッパの団地のような「囲み方」を採用しました。

ここ東雲では敷地を大きく6つの「街区」に分けています。普通であれば南に対して平行に住宅を配置するのですが、それだと顔が向かいあえません。大きく外周を囲みつつ、中央に「S字アベニュー」を作ることで、人の生活が外部ににじみでてくることを意識して設計した住宅です。

私が手がけた6街区はL型棟+単独棟で中庭をゆるく囲む様に作られています。S字アベニューを歩いて分かるように、ゆるく1mくらいあがっている。1階部分、半地下に駐車場があるので、レベル調整しています、そして中庭とのレベル差も解消し、自然に中庭にあがれるような設計になっています。中庭にはSOHO対応の住宅が。“在宅ワーク”という言葉では看板は出せないのですが、“SOHO”なら出せるんです(笑)。1階部分はSOHOエリア、中庭にいても仕事の様子が見えるような計画を作りました。

住まい方にもいくつかパターンがあります。ベーシックユニット&フリースペース、を提案しました。基本的な生活はベーシックユニットで。そのあと廊下を介してフリースペースで趣味を楽しむ、仕事で使うなど、様々なアクティビティが出来る場所を設けました。

そして私たちが提案したのは「立体街路」です。集合住宅は通常片廊下ですが、家は色々な場所との接点があるものなので、高層でもその接点を持てるようにしたい、そう考えて南と北の住戸をつなぐ街路をつけました。様々な空中公園など「公共的な場所」を作り、そこと街路で繋がる設計を意識しました。

それと南入りと北入りの両方がある。大きなテラスを介して住宅に。単なる片廊下になりがちば北にも活動がでる様な外観を作り出している。というように、半囲み型住棟で極力外部に対するアクティビティが外に開いていくということを意識。

S字アベニューには生活支援施設が入るようになっています。完成当初はあまり入居していませんでしたが、10年経って久しぶりに来たら店舗は全て埋まっていて安心しました。特にお子さん向けの施設が多かったです。
土谷
街区ごとにコンペを実施したときの諸条件や、このエリアでの実現背景についてお話いただけますか
大きいコンセプトは決まっていました、それをどうアレンジするか議論を重ねました。基本的に1街区から6街区までは同じコンセプトにし、そして6チームの個性ある建築家が集まっているので、デザインガイドラインを作りました。通常のガイドラインは形状を決めるものですが、ここでは形の指定を一切していなません。例えば「色は白を貴重に」、とか「木をこのくらい植えなさい」とか、比較的やわらかいガイドラインでした。
UR
当時設計を担当していました、UR職員です。デザインガイドラインには理念しか書かれていませんでした。詳細ガイドラインは別途あるのですが、誘導型、理念共有型のガイドラインをシェアし、議論を重ねました。
土谷
堀さん、高橋さん、ありがとうございます。それでは実際に見学に行きましょう。

<6街区>

実は5街区・6街区はもともと民間に売られた土地です。それでも最後まで建築家が入っていたので統一的なデザインに仕上がっています。

S字アベニューは店舗が入っています。森の広場、ビスタの広場があり、ビスタの広場からは運河が見えます。植樹も、運河に向かう街路には運河がしっかり見えるように等間隔で配置し、S字アベニューではランダムに配置しています。
6街区は、中庭に面したところにデイケアセンターがあります。

その後、実際にいくつかの部屋の見学を。今回見学した場所は3つ。

2LDK+AN
6街区の部屋。ルーフテラスを挟み、アネックスが用意されています。アネックスは子供部屋、趣味、仕事部屋等、様々な用途に使用できます。



1K+S
同じく6街区の別レイアウトの部屋。高い天井、吹き抜けとスキップフロアが特徴。



<1街区>



2LDK+S
山本理顕氏設計の1街区へ移動。各階の中廊下に沿って設けられたコモンテラスやプライベートテラスによって採光、通風が確保されています。部屋に入ると、目玉ともいえる“シースルーエントランス”、高い天井と横続きのフロア、らせん階段を登るとプライベートテラスが。

日が完全に落ちる前に、最後の目的地へ急ぎます。

シーリアお台場三番街 (東京都港区)

本ツアーの最終地点、“シーリアお台場三番街”に到着。ミーティングルームへ上がり、窓からパノラマで臨むお台場の夜景を楽しみました。

土谷
今日の感想です。今回のツアーでは、団地の時代変遷について、かなり時代を飛ばしながら一気に見てきました(笑)。高島平団地までは想定しやすい変化ですが、東雲については大きく変わりましたね。新しい暮らし像とも言える、住む場所で働くという考え方、あたらしい都心での暮らし方への提案を目指したものが出てきました。今までの団地とはプログラムが違う、そしてなんと言っても圧倒的にそのグレードが高かったでね。歴史的に見ると建築家たちは公団・URという国家的なプロジェクトのど真ん中には関わってこなかったですが、そういう意味でも東雲では彼ら建築家がURに関わることの兆しを作ったとも言えるのでしょう。新築物件はなくなりましたが、現在のリノベーションに建築家が関わるようになるのもこうした背景がもつのでしょう。
門脇さんからも、今日の感想を一言お願いします。特に東雲をご覧になっていかがでしたか?
門脇
東雲は今まで見てきた団地とは全く違っていたと思います。参加者の皆さんが高島平団地を見学している様子と、東雲を見て興奮している様子は全く別の要素でした。東雲は、都市的高密度にあって、都市の中のワークスタイルというものだった。最後に見た1街区の山本理顕さんの住宅を見たとき、「この部屋8人くらいでシェアしたいね」という声もあがっていました。ただ一方で、国立富士見台から東雲までの流れを、どういう形で連続させて考えればいいのか考えたんですが、最後までわかりませんでした。国立、高島平の先に東雲があるのか、はたまた全く違った価値観のもとにあるのか、様々な観点から団地を見ることができたので、これから自分の中でも考えていきたいです。結論はありません。しかし東雲は連続的な進歩ではなく、全く違った方向だったと感じました。
土谷
門脇さん、ありがとうございました。堀さんも最後までありがとうございました。

その後、“お楽しみ企画”として、なんと先ほどお話いただいたUR職員から、サックスの演奏が!そして演奏いただいた曲は、1960年代に住宅公団が作った“住宅公団の歌”。スタッフから歌詞カードが配布され、サックス演奏とともに参加者・関係者含め全員で合唱しました。





最後は全員で集合写真を撮影し、長い団地ツアーの一日は幕を閉じました。
ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!