MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
10/6 MUJI×URイベント 「未来を考える 団地Lab.」

※このレポートは、2024年10月6日(日)に無印良品 グランフロント大阪で行われたトークイベントの模様を採録しています。

part2:MUJI×URについて
豊田
改めまして、MUJI HOUSEの豊田です。よろしくお願いします。
私は、無印良品のリノベーションの責任者なのですが、MUJI×URのプロジェクトは立ち上げから関わっていまして、最初の経緯から色々ご紹介させていただきたいと思います。

まず、URさんとMUJI HOUSEは2012年に出会いました。今もそうですが、当時も日本全体で高齢化が進み、団地も同じように高齢者の方が多いという中で、若い方に団地に入居してもらうことで団地を活性化したいという思いからスタートしました。
豊田
みなさんご存知かもしれませんが、無印良品は暮らしにかかわる小物や家具、洋服などさまざまなものを販売しています。
無印良品の特徴として、お客さまとのコミュニケーションをとること得意としています。
MUJI passportのアプリをダウンロードされている方もいらっしゃるかと思うのですが、日本でも2,000万以上ダウンロードされていたり、たくさんのお客さまに支持をしていただいていると考えています。
豊田
無印良品は、お客さまの声を活かした商品開発を行うことを得意としており、資料の写真の中にある、「持ち運びできるあかり」はお客様の声を活かした商品ですし、この写真の中にはないのですが、「体にフィットするソファ」などもお客さまの声を聞きながら開発を行い、商品化をしています。

私の所属しているMUJI HOUSEでは、新築の戸建て住宅の販売を行っていて、家づくりのプロが揃っています。
URさんと出会った時に、実際に団地を見させていただいたのですが、団地ってこんなにいいところなんだというのが最初の所感でした。

古いというのはもちろんあるのですが、陽当たりや風通しが素晴らしいし、自然環境も周辺に揃っている。

団地の素晴らしさは知っていたのですが、改めて訪れてみて、こんな素晴らしい場所が世の中にあるんだなということを改めて体験することが出来ました。
団地の住戸を大きく変えるのではなく、できる限り団地の良さを生かしたリノベーションを行うことで、無印良品の若いファンの方にとっても魅力的なプロジェクトとなるということを確信し、URさんとの取り組みがスタートしました。
リノベーションを開始するにあたり、まずはお客さまとのコミュニケーションをしていこうと考えました。団地についてどのようなイメージを持っているかなどアンケートを実施し、2000〜3000 人ぐらいの方にお答えいただいたと記憶しています。
豊田
アンケートで、団地に住んだことありますかと伺ったところ、90%以上の方が団地に住んだことがあったり、遊んだことがあるという回答が得られました。団地は日本の住まいの原風景になっているのかでは考え、ここをしっかりとPRをしていくことで団地のよさを伝え、新しい暮らしのスタンダードができてくるのではないかと考えました。
豊田
リノベーションについても同じくアンケートでみなさんのご意見を調べたところ、様々なご意見をいただいたのですが、1番多かった要望は「間取りを自由にできる」ということでした。

賃貸住宅はどうしても固定された間取りや仕様になってしまい、部屋に自分の暮らしを合わせないといけないということがあるかと思います。そうではなく、今は様々な暮らし方があると思いますので、自分の暮らし方に合った部屋に住みたいということが背景にあるのかと思いました。
そういったご意見をいただき、その部分を大切にしたリノベーションを考えていくことにしました。若い方に団地の魅力をどう伝えて行こうかと考えた時に、団地の古さはもちろんあるのですが、この古さは若い方にとっては逆にビンテージ感やレトロ感などそう言ったことにつながるのではと思い、それらを生かしたデザインにしました。

また、陽当たり、風通しがとても良い環境なので、そちらの部分もさらに強調したリノベーションを考えて行きました。

先ほど素本さんからもありましたが、URさんは約70万戸というお部屋の数を抱えている日本一の大家さんです。ものすごい数の住戸をお持ちでしたので、このプロジェクトで1戸1戸丁寧にリノベーションを行うことで、いずれ日本の暮らしが良くなっていくのではないかと考えスタートしました。
豊田
リノベーションを行うに当たり、「こわしすぎず、つくりこみすぎない」ようにしています。もちろんフルリノベーションを行うという考えもあるのですが、そうではなく、団地がそもそも素晴らしいという考えがベースにあるので、そこにあまり手を加えないで作っていくというのが大切なのではないかと考えています。
豊田
MUJI×URについてですが「生かす」「変える」「自由にできる」という3つのコンセプトをつくり、こちらを住戸の設計に生かして行きました。
古い部分を生かしていくところと、古いのは良いとは言っても水回りは変えたりしています。あとは、お客さまのアンケートでいただいた「間取りが自由にできる」というご意見を生かし、お住まいになる方が自由にできる部分を作りました。
豊田
こちらの資料はリノベーション前の状態です。こちらでももちろん良いのですが、MUJI×URでリノベーションをすると、できる限り大きく空間を繋げて行き、光や風を通すことが出来ます。
豊田
あとは柱なども古い物件のリノベーションを行う際に取り外してしまうこともあるのですが、経年変化で色が飴色に変わっていてかっこいいよねということで、こういったものを生かしたデザインを私たちで考え、つくりました。

右奥の方にキッチンがあるのですが、キッチンもどうあるべきかをURさんと議論を重ねて考えました。
最初は既製品のキッチンを入れようかと考えていましたが、なかなかMUJI×URのプロジェクトにあうものがなかったため、URさんと相談して「ないならつくってしまおう!」と、URさんの団地に合わせた仕様で無印良品がデザインをしたキッチンをつくりました。その他の商品も共同で開発し、建材、畳などもつくっています。
豊田
こちらは麻でできた畳で、「自由にできる」という部分を大事にして、和室のように使うことで、床でゴロゴロできるような暮らしもできますし、テーブルやソファを置いたイス座の暮らしも出来ます。
豊田
デザイン的にも、和室ならではのちょっと古めかしさを感じてしまう縁を無くすことで大分よくなったかなと思っています。

一般的に畳にはい草が使われていますが、表面を麻にすることで強度が増すため、先程紹介したようないろいろな暮らし方を選べることが特徴となります。
あと、URさんのお部屋には押入れが多く残っています。そちらも上手く活用することがポイントになっています。
豊田
押し入れをなくして居室やリビングの延長にすることもあります。資料の右の押し入れ部分に机などを置くとワークスペースにできるようなつくりになっています。

右手前にある白いものがふすまです。半透明となっているため、外からの光を通すようになっています。家で仕事をして音が気になる場合は、この半透明ふすまを閉じて使っていただくことで、音を遮断することが出来ますし、光を通すのである程度の明るさを確保できるような場所にできたり、そんな工夫を各所に施しながら設計をして行きました。
豊田
こちらのキッチンも大きさが2.6mくらいあるのですが、壁から出た「持出しキッチン」も開発しました。

キッチンの下に収納があるのが一般的だとは思うのですが、料理をしない方や収納を必要としない方もいらっしゃるだろうとなり、こちらも選ぶことができるようにしました。
収納が必要な方は、無印良品で販売をしているゴミ箱やユニットシェルフや小物を入れていただくとピッタリはまるようになっています。

収納が必要ない方は広々と使っていただけますので、どちらも選択できることを大事にしています。
豊田
MUJI×URは大阪の3団地からスタートして、10年以上かけて今は北海道から九州まで61団地・70種類のプランを展開しており、どんどん広がっていっている状況です。

実はMUJI×URはさらに進化をしておりまして、「MUJI×UR団地まるごとリノベーション」というプロジェクトが2021年から、スタートしております。
今までは、住戸のリノベーションだけだったのですが、URさんの共用部の素晴らしさを伝えて行こうと住戸の外もリノベーションを始めました。
現在、全国の4団地で実施しております。
豊田
まず、1つ目は千葉市花見川区にある花見川団地です。
こちらの団地は5,000戸以上と非常に大きい、日本でも有数の大規模団地で、団地内には60テナントぐらいの商店街があります。

光が遮られてしまい、商店街が少し薄暗く、空きテナントが目立つような状態になっていたので、リノベーションを行うことで団地を活性化し、改めて団地の素晴らしさを伝えていくことができるのではないかとプロジェクトをスタートしました。
豊田
実際に、MUJI HOUSEが行ったことは、建物を整備するハード面はもちろん、ソフト面は商店街をリノベーションして団地の入居者の方の居場所をつくるためにどうしたら良いかを考えるためのワークショップを開催しました。
ワークショップは毎月開催し、団地にお住まいの方や近隣の方に参加していただき、どのようにしたら団地や地域が良くなるのかを話し合い、そこで出た意見をハード面に生かして行きました。
豊田
こちらの資料が実際のものとなりますが、左側が商店街をリノベーションする前の状態です。先程もお伝えしましたが、光が遮断されてしまいちょっと薄暗く、空きテナントが目立つような状況でした。
豊田
右側は円形広場という広場ですが、こちらもあまり生かされていない状況でしたので、どのように活用したら良いのかを考えCGに起こしてみました。
豊田
実際にお住まいになられている方や商店街で商店をされている方など、花見川団地周辺地域の方々に集まっていただき、ワークショップでご意見を聞きながら、どんどんブラッシュアップをしていきました。
お話を伺い、商店街の真ん中にベンチやテーブルなどを実際に配置しました。

こちらもオリジナルのテーブルとベンチで、URさんと開発しました。「つながるストリートファニチャー」と言いまして、地面にビスで固定されているのですが、ビスを外すと移動させることができます。ベンチなどもどんどんくっつけることができる仕様になっているので、1つだけ使用するとベンチですが、ベンチ同士をくっつけると資料のようにお子さんがごろんと寝転がったり、将棋をやったりといろいろ活用できるように考えました。

こちらのベンチを商店街へ設置することで、公園のように滞留できる場所になると考えました。
また、樹木も隣に植えたのですが、今はまだ小さいですが、こちらも数年経てば大きく育ち、木陰ができれば商店街に買い物に来て休むことができる場所になるかなと思います。
豊田
その他ソフトの部分ですが、関係者を集めてワークショップを開催しました。団地のイベントや商店街に遊びに来ていただけるような特産品作りなどの企画を行ったり、地域資源の活用を考えました。花見川団地の近くには花見川という川が流れているのですが、サイクリストの方の利用が非常に多かったため、そういった方々を商店街に呼び込める企画を検討しました。

MUJI HOUSEのスタッフが最初は団地に入っていきますが、いずれ地元の方に引き渡すことになりますので、そういった活動に参加していただけるキーマンを発掘して、一緒にこの活動を行っていこうとしています。
豊田
「団地の商店街暮らし、はじめました」というwebの企画からスタートしたのですが、こちらの男性はMUJI HOUSEのスタッフです。実際に花見川団地の商店街の中で暮らしていて、商いも行っています。
豊田
1階が商店で、2階が住居になっている商店街となっていて、彼はDIYが得意ということがあり、1階の商店部分は、DIYで工房にしました。工房では、団地にお住まいの方の困りごとにお応えしています。例えば、ちょっとした棚を作ってほしい・直したいなどと言ったご要望に対応をしながら2階に住んでいます。商店街に住んでいるので、商店街の中に入り込んで、商店街の方との仲を深めたり、どのような困り事があるのかを聞きながら、設計やイベントに生かしています。
豊田
こちらが、実際に行ったプチマルシェの様子です。
豊田
また、商店街にはパン屋さんやお肉屋さん、八百屋さんなどが出店していて、各店で人気の商品はあるのですが、商店街としての特産品がなかったため、「商店街バーガー」というものをつくりました。

価格が1000円で、受付で渡されたトレイを持って各店舗に行くと、お店の方が食材を載せてくれます。商店街を回ると、ハンバーグとコーヒーフロートが完成する企画となっています。イベントを開催するとすぐに完売してしまうくらい好評となっています。
豊田
特産品ですが、「商店街バーガー」の他に、オリジナルブレンドのコーヒーを作りました。こちらは、近くにある大学の学生さんメインで商品化を進めて行きました。コーヒーの香り、味についてはワークショップを開催し、どのようなブレンドにするのかを試飲会も行い決めて行きました。団地のイベントでは必ず参加してくれ、オリジナルのコーヒー豆だけではなく、ハンドドリップコーヒーの販売も行っています。
豊田
商店街の中には買い物に来た方が休むことができるスペースがありました。こちらのスペースを建築系の大学生にデザインしてもらい、商店街に遊びにきた子どもたちが集まるようなスペースと駄菓子屋さんをつくり、学生さんに運営をしてもらっています。
豊田
また、先程も少しお話しをした地域資源についてですが、花見川団地の近くには花見川という川が流れているのですが、サイクリストの方の利用が非常に多かったため、そういった方を団地の商店街に呼び込むイベントも実施しました。
豊田
こちらは「GACHA(ガチャ)」という自動運転バスとなります。車は専門の会社が作っていますが、無印良品がデザインをしました。

花見川団地は非常に広く、団地内を移動するだけでも大変です。高齢の方も多くお住まいのため、何か取り組みができないかと思い、自動運転バスを団地内に走らせる実証実験を行いました。
豊田
先ほども少し触れましたが、MUJI HOUSEのスタッフがメインで実施している企画などを現在は商店街や地元の方に引き渡して行っています。花見川団地には、「花見川団地盛り上げ隊」略して「花団」を発足し、花団未来会議やイベントなど一緒に活動をしています。

このように、これまで紹介したようなハードとソフト両面をサポートさせていただき、団地の良さをどんどんPRしています。
豊田
花見川団地の商店街リノベーションは、今年の3月9日に完成し、花見川団地マルシェという大きなイベントを開催することができ、たくさんの方にお越しいただくことができました。

こういった活動を続けていくと、先日もテレビ局の番組で花見川団地を取り上げていただき、変化して行く団地の様子も撮影いただくことができました。
豊田
MUJI×UR団地まるごとリノベーションは花見川団地の他にも実施していまして、横浜市港南区の港南台かもめ団地では、集会所のリノベーションを行い、団地だけでなく地域に開かれた集会所をつくっていこうとしています。こちらは現在工事中となりますが、今年中には発表ができると思います。
豊田
港南台かもめ団地では、集会所のすぐ横にこども用のプールがあり、あまり活用されてなかったのですが、先日5年ぶりにプールに水を入れて楽しんでもらうイベントを行いました。多くのお店が出店してくださりイベントを一緒に盛り上げてくれました。
豊田
大阪でも2つの団地で取り組みを行っています。1つ目は堺市南区にある泉北茶山台二丁団地で、実はMUJI×URが開始した年にMUJI×UR団地リノベーション住戸の導入も行っています。

こちらでは、単に通路となってしまって使われていない団地内の広場をうまく活用できないかと考え、「となりのひろば」とネーミングし、イベントを行っています。
イベントには無印良品の出張店舗や地域の方と一緒にイベントを開催しています。
豊田
大阪2つ目の団地は、枚方市の中宮第3団地で行っています。こちらの団地には今は使われていないプール跡地があり、この場所を活用したイベントを行っています。 こちらでは、アウトドアリビングのようにプール跡地を使えないかと、資料のようなくつろぎ空間を設える企画を行っています。 このように、大阪の団地でも色々な企画を行っています。MUJI×URのwebサイトなどで情報を更新していますので、よろしかったらご覧ください。
豊田
続きまして、素本さんに紹介いただいた香里団地にもMUJI×URの物件がありますので紹介をさせていただきたいと思います。 実は香里団地はプラン数の展開が1番多い団地となっています。通常ですと1つの団地で2パターンくらいなのですが、香里団地は5パターンと非常に多くなっています。
豊田
その中で特徴的なプランを紹介させていただきたいと思います。 こちらはPlan36の物件で、ウッドデッキで外とつながる暮らしというタイトルをつけて設計をしたプランです。資料の左側が間取りとなりますが、1階の住戸のためバルコニーがあったので、くつろいでもらえるようにバルコニーを広げました。
豊田
こちらが実際の写真です。隣が公園のため、空や緑など団地の素晴らしい環境を楽しめるようになっています。こちらのプランは香里団地が唯一の展開となっています。

室内は先程紹介しました、URさんと共同開発をした組合せキッチンを使用して、対面キッチンとなっています。
豊田
技術的なことになってしまいますが、一般的に2階以上の住戸は排水の関係で水回りを動かすことが難しいのですが、1階の住戸は水回りを動かしやすいため対面キッチンにすることができました。左側がダイニングで、リビングには麻畳を敷いています。
豊田
洗面も変更し、住戸に馴染むようなかわいらしいデザインのものを採用しています。
右側は寝室で、押し入れのふすまを取って居室の延長として使えたり、収納としても使用することができるようにしています。
豊田
続きまして、こちらはスターハウスの1部屋となっています。Plan60で、37㎡となります。スターハウスについてですが、素本さんから上から見てY字型となっていると説明がありましたが、お部屋の三方が外に面しているため、陽当たりと風通し、眺めも非常によいお部屋となります。

一方で3方向が外部に面しているため、暑さ寒さを感じやすい点があり、そこを改善しようということでこちらのお部屋は断熱を補強するリノベ―ションを行っています。

建設当時は家に洗濯機がない時代だったので、洗濯機置き場は当初はありませんでした。リノベーションを行う際に、洗濯機置き場も室内に作り、現代の生活様式の変化に合わせています。
豊田
リノベーションした住戸はこちらで、対面キッチンになっています。
温熱環境を改善して、窓にインナーサッシという、通常サッシの内側にもう1枚サッシをつけることで、寒さ暑さを凌げるような設計にしています。

この玄関ドアの部分は外からの冷気を感じてしまうことが懸念されたため、玄関ドアの前に引き戸をつけ、閉めることができるようにしました。
玄関ドアが見えなくなると、デザイン的にとてもスッキリして、室内の見え方も大きく変わり、一石二鳥だったかなと考えています。