MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
7/14 MUJI×UR トークセッション 「住まいと暮らしのセッションによる豊かさ」
- 大江
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今、ニューヨークの賃貸住戸に住んでいるのですが、僕は独り身なので、やっぱり何かあった時のことを考えてしまいます。
近所のおじちゃんが、僕にいつも「グッドモーニング!ニーハオ!」って挨拶をしてくれるのですが、何回か「日本人やねん」って説明をしたのですが、もうめんどくさいからしょうがないなと思って「ニーハオ!」って言っています。
やっぱり頼りになる人には普段から挨拶をしていますね。
共用部で演奏をしたり、家にあるもう使用しなくなった服などを、良かったら使わないかなどという話をすることがあります。そういった、ちょっとしたやり取りみたいなことが、実はものすごく大事なんだなって最近思うんです。
- 大江
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こちらの写真はタウンハウスです。僕は1・2年とか割と短いターンで引っ越しをする「引っ越し魔」なんですけど、この時はあれよあれよと言ってる間に10年住んでしまいました。
この家では、3階建ての2階部分に住み、下に大家さんの事務所がありました。
大家さんから、「千里、リノベーションをして自分の家族を全部呼んで住みたいので出てくれないか?」って言われるまで10年住みました。
- 大江
- デッキが40畳ぐらいあり、そこにこうやって犬のおもちゃや僕の手袋とかを広げて干したりしていました。
- 長谷川
- お部屋のベランダがとても広かったんですね。素晴らしい。
- 大江
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家でヘッドホンをつけてキーボードでスケールの練習などをしていると「なんで大きな音でピアノを弾いてくれないの?もっとみんな聞きたいと思っているよ。」って近所から苦情が出るんですよ。
感謝祭の時になると「食べなさい」とピーカンパイやターキーがドアノブに引っ掛けられていたり。
現在は大家さんのジョニーが持っている別物件に移り住んで3・4年が経ちました。
- 大江
- 今の家はトイレが2つ並んでいるんです。不思議でしょ。だから犬と僕で別で使ってます。お風呂はこっちで、シャワーも一応あるのですが、シャワーカーテンが短くて。
- 大江
- 奥は物置きにして、乾燥機と洗濯機。大家のジョニーが初めて日本に行ったときに「すごいもん見つけた」って僕の部屋にウォシュレットをつけてくれたんですよ。ニューヨークでウォシュレットがあるところって少ないので、日本食レストランか僕の部屋ぐらいじゃないですかね。
- 長谷川
- 奥にも水まわりがあるんですね。
- 大江
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そうなんです。
洗面所にある体重計はだいぶ古くて、上京した84年に購入しました。森山良子さんや石川さゆりさんがレコーディングのリハーサルにいらっしゃると、「お、年季が入っているわね」って言われます。
この棚は、日本で買った整髪剤とか歯磨粉や薬などを置いています。
- 大江
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Tシャツは帽子が入っていた箱に丸めて縦にいれています。
お花みたいになるので、どれにしようか選んで違ったらまたキュッキュッキュッと丸めて戻します。
帽子の収納場所がないので、帽子は両面テープが付いているフックを壁につけて、脚立に乗ってかけています。
自分でやったので、古くなると劣化して突然帽子が落下してくることもあったり、そんな感じで楽しんでいます。 - 長谷川
- MUJI×URでも、空間をきれいに見せるためにどのように収納したら良いのかを議論をしています。千里さんのご自宅は機能的な収納と見せる収納とが両立されていると感じました。
- 大江
- MUJI×URのお部屋は押し入れがこんな感じになるんですね。ふすまを外すだけで広々としますね。
- 長谷川
- ありがとうございます。4畳半や6畳のお部屋を締め切ってしまうと、広がりがなくなってしまうので広々とした空間を感じてもらえるようにしています。千里さんのご自宅を拝見し、空間についての考え方や見せ方がすごく共感できました。
- 大江
- ギターを置いていますが、日本に帰る友達が置いていった棚です。あと、黄色い棚は道で拾ってきたものになります。ブルックリンは道端に「Take me home」って書かれた家具とかが置いてあることがあるんです。傾きがないか、安定しているのかを確認して大丈夫そうなものを抱えて家に持ち帰り、収納として使っています。
- 長谷川
- ブルックリンでは道端にあるものを家に持ち帰るのは日常的なんですか?
- 大江
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サステナブルな習慣という感じです。「虫がついていたら、家中が虫だらけになるかもしれないから気をつけなさい!」と注意してくれる人もいます。
拾ってきたものは一応洗って使用しています。僕の場合トラブル無く使えていますね。 - 長谷川
- 暮らしていく中で増えてしまったモノをどのように所有するのか、それとも、どのように手放していくのかというようなことをMUJI×URでも議論をしています。今のお話をお聞きして、個人で完結ではなくて、まちぐるみというのか、近隣に住んでいる皆さんとシェアできているということが、すごくいいなと思いました。
- 大江
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僕が今住んでいるブルックリンは、お互いが助け合って生活しています。僕がネットで注文したものが届くと、隣に住んでいる人が「君のために荷物を預かっておいたよ」と荷物を僕の部屋まで持ってきてくれたりします。そんな時は、お礼に日本から送ってもらったお茶を渡したりと日々コミュニケーションをとっています。
モノを手放してスリムに生きることも大事だとは思いますが、僕はモノを捨てる時は慎重になります。
これは重要だっていうものを常に選別して近くに置いています。
置いたら忘れないように携帯で置いてある場所をメモしておきます。そうすると、例えば11月にこういうことやったなと思い出せます。
これを繰り返して行くと、自分にとって重要なものが決まってきます。
すごい高価なブランドのTシャツなども洗濯機にかけて、小さくなってしまって「仕方ない!」と手放すこともあります。
アメリカに渡る時に、友達に成田空港まで送ってもらったんですが、その時に着替え用に「侍」って書いてあるTシャツを買って飛行機に乗る前に着替えたんです。
今日たまたまですが、「侍」を着ていたりするんですよ。
- 大江
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これだけはどうしても手放すことができない、自分にとって大事なものです。
どんなに高価なブランドものでも、今はご一緒しているけれど、時期がきたら多分人に渡って行くのかなというのがうっすら見えてくるといいますか、そういうことを感じたりします。
- 大江
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資料の右のイスは大阪の家具屋さんのものです。
東京にいた時にシングルソファを作ってもらったのですが、これだけはどうしてもアメリカに持って行きたくて、持ってきました。
犬が亡くなる前に、目が見えなくなっていたので、イスにぶつかってしまい角のところがどんどん剥がれていってしまいました。
左の椅子が最新作で、犬が亡くなり悲しみの中ウォーキングをしている時に「Take me home」と書いてあったので、これはもしかしたら、犬の生まれ変わりじゃないけれど、僕に会うためにきたのかなと思って。頭の上に乗せて家まで持って帰りました。
20分くらい歩いていると、ブルックリンの人たちが僕の姿をみて「Oh my god!」と言われたり、みんなを笑いに巻き込みながら帰りました。
この椅子に座って、パソコンを台において原稿を読みながらラジオを録音したりしています。パスタを茹でるお鍋に触れてしまい、録音中なのにカンカン鳴らしてしまったりと生活空間の中で仕事しています。 - 長谷川
- ブルックリンは日本の東京よりもっと大都会というイメージだったのですが、今のお話をお聞きしていると、とても隣人同士が近くて温かいなと思いました。
- 大江
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ブルックリンは都会ではないので、人との繋がりがすごくあります。
僕は昭和35年生まれなのですが、当時コンビニが初めて23時までオープンしているって聞いて、狂喜乱舞してお菓子を買いに走りましたが、今僕が住んでいるところのスーパーマーケットやコンビニは21時にお店が閉まってしまうんです。 - 長谷川
- ある意味、健全ですね。
- 大江
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暮らしていると困ることもありますね。
教会などが行っているフードパントリーというものがあります。
フードパントリーが開催されると、今日食べるものがなかったりする人たちの長い行列ができて、キュウリとか白菜とかにんじんや玉ねぎやお米、パンなどをもらうんです。みんなで助けあって暮らしています。 - 長谷川
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自分の暮らし、団地での皆さんの暮らし方を見ていると、ドアを閉めてそれで終わりで周りの方とコミュニケーションを取ることが少なくなってきたなと、特にこの10年ぐらい感じながら仕事をしていました。
千里さんのお話をお聞きしていますと、先程お話しました、団地の建設当時の設計思想ととても重なるところが多く、色々な方が集まって住むときに、お隣さん同士の助け合いってすごく大切なんだと、改めて気づかされました。
私は技術職なんですが、そういった助け合える場をどうハードとして造っていくのがいいのかと考えてしまいました。
- 大江
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向かいの家には双子の独身男性が住んでいて、僕と同い年の63歳なんです。
彼らが「俺もう次に引っ越しする先が決まっているんだ」っていうので、どこに行くのかを聞くと指で天をさして「天国」って言うんですよ。
僕の住んでいるマンションのゴミを分別する仕事をしているのですが、「君も家にいるんだったら、一緒に仕事をしようよ。1日でギャラ50ドルだよ。やった方がいいよ!」って誘われます。
彼らはお母さんが残したレンガづくりの推定資産10億以上の大きなマンションをブルックリンに持っているのですが、兄弟の中が悪いんです。
「そんなマンションなんて持っていてもしょうがないよ。1日50ドルでの暮らしで僕はいいんだよ」って。
さっき話にでた、「ヘイ!」っていつも声をかけてくれる人です。
犬が亡くなった時も「君が大事にしていた犬は?」と声をかけてくれて。亡くなったことを伝えようとすると「わかっているよ。聞かない。」と言ってくれました。 お互いに見ていないようで、よく見てくれているんですよね。
彼は、朝6時から夜の6時までいつもマンションの角に立っていて、夜の7時からはベランダにあるイルミネーションのスイッチを入れて、ビールを飲んでいるんですよ。 ベランダから下を見ると、僕が頭の上に椅子を乗せて持って帰ってくる。そんな感じです。
隣人同士のコミュニケーションがとてもゆるいんです。郵便物を受け取ってもらったり、家の鍵を無くしても、「エリックが合鍵持っているから電話しなよ」って教えてもらって事なきを得たりとか。すごい「昭和」ですよね。 - 松枝
- 外との繋がりのお話も出たので、ニューヨークの周辺のお話も伺えたらと思います。
- 大江
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これは商店街や地区が貸し出していて、新生アーティストが一面を借り、自分の作品を描くという取り組みです。
アートの前でミュージシャンの人が撮影などで使用して良いことになっています。
人気がないアーティストの作品は、別のアーティストが上から塗りつぶして新しいアートを展開して行きます。
- 大江
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左の写真に写っているドアを開けると、広々とした空間の中にプライベートの空間が10軒ぐらいあって、シェアオフィスのようになっています。入居している人のほとんどがアーティストで、中央にシェアできる場所があり、お茶を飲んだり食事をしたりしながらお互いの話をしてコミュニケーションをとっています。
屋上ではラッパーの人がミュージックビデオを撮影していたりします。
右の写真はハドソン川越しにニュージャージーを見ています。 - 長谷川
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シェアオフィスに入居されている方は若い方が多いんですか?
- 大江
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そうですね。若くなくても気持ちの若い人もいますよ。
個室も完全な個室ではないので、シェアしている人たちの声が聞こえてくるんです。
なので「貸してもらってもいい?」「はいはい、いいよ」とあちらこちらから聞こえてきます。 - 長谷川
- そこもゆるく繋がっているんですね。
- 大江
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そこに住んでいるアーティストが近所のバーでアルバイトをして、シェイカーを振っていたので、僕も音楽をやっているという話で盛り上がったんですが、ある日突然リリースしてメジャーデビューをしていて「あいつや!」となったり。
この間まで「いらっしゃいませ」って言ってくれていたのに、髪型も変えて出来上がったアーティストになっていました。 - 長谷川
- 団地に繋げてばっかりで申し訳ないのですが、先ほどお話いただいた、アーティストの住戸としつつも共用の空間や屋外空間もみんなで使うという考え方は、スケールはだいぶ異なりますが、団地の造られた時の思想ととても合うのではないかと思ってお聞きしていました。
- 大江
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ニューヨークに「プロジェクト」という低所得者向けの高層アパートあり、そこに入るためには所得など色々審査があるのですが、まさに日本の団地なんです。
最近は、MUJI HOUSEさんのような企業が間に入って、ホテルのようなチェックカウンターにコンシェルジュがいて、部屋もリノベーションされていて、セントラルパークが見渡せるような好条件の物件とコラボしていたりします。
見学に行ってみたのですが、エレベーターに乗ると昔の団地の香りがするんです。
昔から住んでいる中国出身の方の家の玄関には「福」が逆さまになったものがぺたっと貼られていたり、カレーのいい匂いがしたり。 - 大江
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そんな懐かしさを感じながら、リノベーションされたお部屋に入っていくと、雰囲気が全然違くて。
家賃を聞くと結構な金額をとっていましたね。
コンサートができそうな、日比谷や大阪城の音楽堂みたいなステージがあり、席があるところは招待枠として使用して、アリーナは膝を抱えながら見てもらえそうでした。住人がステージを見ることができるスペースや一段高いところはBBQができるような場所になっていました。 - 長谷川
- そういうものがあると、元気な街になりそうですね。
- 大江
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そうですね。
銀行員の女性が自転車のカゴにラジカセを入れて、自分の好きな音楽を聴きながら通勤していたり。
うちの下では、車が通るたびに「俺の音楽を聞け!俺はジャマイカから来たんだ!」ってみんなで踊っているんですよね。
- 大江
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みんな自分の暮らしと、人と繋がる面白さを隠さない。
ちょっと派手な格好をして電車を待っていると若いカップルに突然話かけられて「I love your style!I like your shoes!」と褒めてくれてくれるので、写真を撮ったり、Instagramをフォローし合ったりして、どんどん知り合いが増えて行くんです。
知り合いが広がってゆくと「Blue Note東京で演奏してるやん!」、「俺、ジャズサックスフォンやっているんだ」「僕もジャズやってんねん!」って会話が広がって、東京に行った時の写真を見せてくれたりと、さらに人と繋がって行くんです。 - 長谷川
- どんどん人と繋がってゆくのが面白すぎます。