MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
1/27 MUJI×UR トークセッション 「団地の暮らしと間取りの変遷」

※このレポートは、2024年1月27日(土)に無印良品 グランフロント大阪で行われたトークイベントの模様を採録しています。

part2:MUJI×URの取り組み
豊田
MUJI HOUSEの豊田と申します。
私からは、MUJI×URの取り組みについて紹介させていただきます。よろしくお願いします。
MUJI×UR の立ち上げメンバーとして、MUJI×URのプランを作らせて頂いています。
豊田
公団の長い歴史を経て、2012年にURさんと無印良品が出会いました。
当時の課題は、高齢化が進み、団地に若い方に住んでもらい、もう一度団地を活性化したいという目的がありました。そこで、無印良品とURが組んで、若い人に向けた間取り・室内のリノベーションを考えて行くことが始まりました。

先ほど加納総裁や本城課長の話がありましたが、新しい住戸を考えるのは団地のカリスマの方にやっていただくと考え、どんどん進めるという方法もあると思いますが、無印良品の場合、非常にたくさんのお客さまがいらっしゃいます。
例えば、MUJI passportというアプリがあるのですが、国内で2,000万以上ダウンロードされていたり、ファンの方が多いという特徴があります。
商品を開発する際にお客様の声を聞き、開発していくというのが無印良品の得意とするところで、MUJI×UR の立ち上げ当時もお客様の声を聞きながら、どういったリノベーションをしていったらいいかを、考えていこうということでアンケートを取りました。

当時、団地が世の中にどのくらい浸透しているのかを聞こうということで、団地・公団に住んだことはありますかという設問を用意しました。
豊田
実際、住んでいる、住んだことがある、あるいは遊んだことがあると、何かしら団地に関わっているという方を全部含めると、9割以上の方が団地と何かしら関わりを持っていました。ある意味、住まいの原風景になっているのではないかなという風に感じました。

これを活性化することで、新しい暮らしのスタンダードとういか、新しい暮らし方の提案をしていけるのではないかと、URさんも含めて考えていきました。

実際どのようにリノベーションをしていったらいいかな?ということで、いろんな意見を聞きました。
豊田
1番意見として多かったのは、「間取りを自由にできるとよい」ということでした。
今までは、2DKとか●LDKのように間取りを作っていたのですが、暮らし方が多様化すする中、決められたものから解放され、自由に暮らしたいというご意見が多いのではないかと考え、 そういった意見を大事しようと思いました。

一方で、古い団地の魅力についてです。築40~50年という古い団地をリノベーションし、若い方に団地に住んでもらおうということでスタートしたのがこのプロジェクトです。
先ほど井上先生からもありましたが、リノベーションにあまりコストをかけられない状況の中で、どういう風に団地の魅力を伝えていこうかと考えた時に、魅力を絞って若い人に伝えていこうと思いました。

一方で、こちらも井上先生からありましたが、陽当たり・風通しは、魅力的な要素なのでできる限り間仕切りを少なくして、明るくて風通しのいい暮らし方というのを、もう1回、商品化していきたいなと。

URさんの全国での住戸数ですが、約70万戸もあるんです。非常に大変な数がある中で、 新しい正解を見つけることで、次の新しい暮らしのスタンダードを作れるのではないかと、このプロジェクトをスタートさせています。

私もプロジェクト立ち上げ当時、団地を見させていただきました。
とても魅力的な住まいだなという風には思っていましたが、それが若い方にはなかなか伝わっていないというのも感じていたので、あまり手を加えずに、壊しすぎず、作り込みすぎない、団地の良さをちゃんと生かした上で、商品を作っていこうということを考えました。

そこで考えたのが、こちらの3つです。
豊田
まず、古い部分はできる限り生かしていこうと。古い良さというのは何なのかということを踏まえ、現地を見ながら考えて作っています。

一方で、水回りや部分的に変えなくてはいけないところは、当然変えていく。
そういったことにプラスして、お客さまのご意見にあった、「自由にできる」こと。
決まった間取りや暮らし方を強制するのではなく、お客さまの暮らし方によって住まいを変えられる、そんな自由にできる暮らしができないかということを考えました。

まず、生かす部分ですね。
こちらがビフォーの状態とリノベーション後の状態ですが、こういった感じでリノベーションをしています。
豊田
先ほどもありましたが、間仕切りをできるだけ取ったり、古い柱や鴨居など、こういった木部というのは、時間が40年、50年経って非常にいい色に変化していたりするんですよね。 こういったものは、積極的に残していきました。

団地の特徴である押入れも、どのように生かしていこうかと考えました。中棚を取り、居室の延長として使えるようにもできますし、家具を置けば収納としても使えたり、色々な使い方が出来るようになるのではないか?と考えていきました。
豊田
あと、トイレの扉です。こちらの扉は、URさんの中では「潜水艦」と呼ばれているのですが、なかなか今では見ないですよね。次の世代に引き継いでいったら面白いんじゃないかということで、きれいに白く塗装はするのですが、ドアノブはそのまま残します。こういったものは、どんどん残していきました。
豊田
一方で、変えなくてはいけないキッチンなどは変えていきました。こちらはURさんと無印良品で共同開発したシンプルな真っ白いキッチンですが、こういった商品なども開発していきました。
豊田
あとは和室です。どうしても古めかしいデザインになってしまうので、どういう風に変えていこうか試行錯誤しました。
こちらも共同で開発したものになるのですが、麻を使った縁のない「麻畳」を作りました。
豊田
次に、皆さんからの要望にある「自由にできる部分」について、いくつか取り上げさせていただきます。 まずは、キッチンについてです。やっぱりキッチンをどう変えていくかというのは、暮らしを考える上で非常に大事ではないかと私たちも考えました。
そこで、最初は既製品のキッチンを使用しようと思っていたのですが、なかなかいいキッチンがなかったので、「じゃあ、開発しましょう」ということで、これもオリジナルで開発しました。

元からあるキッチンに、同じ高さ、同じ幅、同じ奥行きのテーブルを作りました。
それらを、組み合わせれば自由に使うことが出来るという考え方で、例えば、横につければ、横長の大きなキッチンにすることもできます。前につければ、奥行きのあるキッチンとすることもできる。あるいは、テーブルをこういう風に使えば、キッチン+ダイニングテーブルという形で使うこともできます。
こういったところも、お客様が自由にできるような形を提案していきました。
豊田
あとキッチンの収納ですね。収納も料理をされる方は当然必要だと思うのですが、あまりしない方はそんなに必要ないということもあるのではないかなということで、収納も自由にしています。収納が必要であれば、全部無印の商品のラックですが、こういったものを入れていただいて、自由にここもカスタムにしましょうと。使わない人はもうこのままで広々と見えるし、こういう使い方もあるのではないかなという仮説を立てて、 作っていきました。
豊田
その他、先ほども出てきました麻畳。これは、暮らし方を選べるという意味でも大事なパーツになっています。
左側は、普通の畳の使い方と同じく、ゴロゴロしながらテレビを見たりとかということも、もちろんできます。右側は椅子座での暮らしで、ソファやテーブルを置いてもへたりにくい強い素材の麻で作っているので、こういった洋風な暮らし方もできますし、昔ながらの畳での暮らし方もできます。こちらも住む方が自由に選べるようになっています。
豊田
その他、ふすまですね。団地の暮らしでは、ふすまもポイントだと思っていました。
団地の和室をどういう風に変えていくのがよいかを考えた時に、ダンボールを使ったふすまを考えました。ダンボールと言っても、梱包用のダンボールではなくて、非常に強い「強化ダンボール」というものを使用しています。本気で切ろうとしたらノコギリなどを使わないと切れない強い素材となっています。ダンボールなので非常に軽く、取り外しが非常に簡単にできるという特徴があります。
ふすまがあれば空間を仕切ることが出来るのと、ふすまを外せば一室空間としてお部屋を使うことが出来るということも選べます。
豊田
暮らし方を変えられる家具ということで、スチールユニットシェルフです。
これは無印良品の商品ですが、この商品につっぱり棒をつけることで、天井から突っぱることが出来ます。
豊田
そして、ここに「小天井」と呼ばれる、ちょうどスチールユニットシェルフが突っ張れる高さで、天井を作ったりしています。
こうすることで、先ほどのKEPの話じゃないんですけれど、もし間仕切りたい時は、こういったものを使っていただいて、突っ張って連結していただければ、間仕切りとしても使えますよと。もし必要なければ、取っていただいて普通の収納としても使えますよという考え方となっています。
豊田
寸法の話なのですが、無印良品の先ほど言ったこのスチールユニットシェルフなどは、収納も幅が86cmというモデュールを使っております。
これは元々、日本の古くからの住宅で1間という寸法の体系があるのですが、それが大体1m82cmで、その半分が91cmの寸法となります。

91cmから若干の余裕を持たせた寸法で、この86cmを割り出しています。
86cmに収まるような引き出しを作り、そこにさらに収納を作り、カトラリーを入れられる商品を開発し、カトラリーを入れていく。全部ピタッと合うようなモデュールを考えているので、隙間なく詰められるようになっています。
豊田
それが、URさんのお部屋とも相性が良く。写真はないのですが、 URさんの中で畳があるのですが、団地間という畳の大きさがあります。 そちらの短手方向サイズが85cmで、長手方向は170cmという感じなので先ほどの無印良品の商品設計に近いサイズとなっています。
URさんも色々試された中で、85cmというサイズが出てきたのかなとは思うんですが、私たちもやっぱり日本の家屋から考えたこの86cmというのを大事に、これをベースに色々なものを作っていっているので、そういった意味でも相性がいいのかなと思います。
豊田
これは実際に入れたものですね。
並べていって、ここにこのファイルがぴたっとはまっていくというのを、MUJI×URの中でもご提案しています。
前から見るとこういう感じになります。ファイルがぴたっとはまっていて、この中の引き出しも開けるとさらにそこに収納がぴたっとはまる。
スッキリとした無駄のない暮らし方というのを、無印良品としてずっと提案していたのですが、URさんの間取りとしても、非常にぴたっと相性があったのではないかと思っています。
豊田
先ほどの間仕切り家具がない場合というのは、こういったように一体的に使うことができますし、KEPの考え方と似ているかもしれませんが、ちょっと間仕切りたい時は、スチールユニットシェルフを使っていただいて、そこにぴたっと収納を入れていただくことで、間仕切りの代わりにすることも選べます、ということを大事にしています。

陽当たり・風通しについて、とても大事にして設計を行っています。
左下がビフォーの状態で、右がリノベーションした後の状態です。こちらは、大阪の千里青山台という団地でやらせていただいたものです。
豊田
特徴は、3面窓になっていることです。元々、陽当たり・風を大事にした、非常にいいものだったのですが、それをさらに特徴的に捉え、フォーカスして作っていこうということを考えました。
実はこの廊下まで「麻畳」を敷いたのですが、全部畳が繋がっていくように作らせていただきました。

実際にできたのはこちらです。
豊田
この部屋は、廊下も含め寝室やLDKに「麻畳」を敷き、ゆるやかに空間をつなげています。さらに、ちょっと見えないですが、写真左側にも窓があり正面と右奥の計3面窓があるので、陽当たり・風通しが非常にいい暮らし方というのを提案しています。
豊田
URさんの一般的な古い間取りをリノベーションした形です。ここでの特徴は、押入れの収納です。この和室の収納として押入れが使われていたのですが、ここでは陽当たり・風通しを良くしようということで、押入れを抜いて繋げられるようにしました。
豊田
押入れを抜いて繋げたことで、陽当たり・風通しが劇的に変わり、更に気持ちのいい空間になったと思っています。
豊田
最後になりますが、間口は非常に大きいのですけれど、お部屋が壁で分けられていて3つあります。
キッチンは南側に面しているのですが、もっと陽当たりを良くしたいなということで、壁を抜いて、ここも一体的に繋げてみました。
豊田
そうすると、キッチンがあって、この1つ、2つ、奥に3つある窓を繋げていくことで、非常に明るくて、風通しの良い空間ができたのではないかなと。ここに小天井があり、先ほどのスチールユニットシェルフを使用して、家電や家具などを置けるようなスペースを作っているのが特徴になっています。

「MUJI×UR」は2024年から北海道でもスタートし、全国で展開させていただいています。
豊田
61団地で70プランのリノベーションしたお部屋を展開しています。
70プランというのは、先ほど井上先生からありました、標準設計みたいな感じですね、1戸パターンを作って、それを横展開しているという形になっています。
井上先生から大阪の金岡団地から新しいことをスタートしたとお話しがありましたが、「MUJI×UR」も大阪からスタートしました。
住戸数の46%が大阪となっており、約半分を西日本のエリアで展開させていただいている状況になっています。

「MUJI×UR」を展開したことでどうなのかというところですが、当初の目論見通り、若年層、若い方に選ばれているということがわかりました。
入居いただいた75%の方が、40代以下、子育て層以下の方で若い方に支持されているのかなと思っております。

先ほど、公団設立当初は倍率31倍という話がありましたが、「MUJI×UR」も最高で東京の高島平団地で30倍を出しておりますので、あと1倍頑張ろうかなと思いますが、引き続きいろんなことにチャレンジしていきたいと思っています。

今日は間取りの話なので触れる程度となりますが、「団地まるごとリノベーション」という取り組みも2021年からスタートしています。
豊田
今までは、住戸のリノベーションだけでしたが、住戸の外である共用部の外観や広場、商店街、集会所といったところをリノベーションしていこうというプロジェクトがスタートしております。
現在4つの団地で展開をしており、大阪では中宮第3団地と泉北茶山台二丁団地。 あとは、神奈川と千葉の団地でも行っています。

団地の魅力は住戸だけではないので、共用部をリノベーションすることで、さらに団地の魅力を高め、PRしていくことを私たちとしても取り組んでいきたいと思っています。
団地で色々なイベントも開催していますので、団地の内外の方にも訪れていただくことで、新しい魅力・今まであった魅力も含め、どんどん展開していきたいなと思っています。
私からは以上です。ありがとうございます。