MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
1/27 MUJI×UR トークセッション 「団地の暮らしと間取りの変遷」

※このレポートは、2024年1月27日(土)に無印良品 グランフロント大阪で行われたトークイベントの模様を採録しています。

part4:住まい方調査で見えてきたもの
野呂
関谷からは実際にお住まいの方の声をお話しさせていただきましたが、 全体的にどんなコメントがあるか、どう捉えているかということをお話しさせていただこうと思います。

今まで話題に出てきた通り、団地そのもののポテンシャルとして、住宅環境・広さ・陽当たり・風通しなどは非常に高く評価いただいていています。
野呂
団地の多くは建設から時間が経ってきていることもあり、プラス面では屋外環境・木々が育っているところや、先ほども「ビンテージ感」とおっしゃっていただいた、味わいのある、古くからの団地の良さというものを評価いただいています。
アンケートの中では、「設備がもうちょっと新しかったら」というお声をいただくこともあります。
そういったところは、今後のリノベーションに向けて、フィードバックを重ねてなるべくご満足いただけるように、改善を進めているところです。

加えてですが、リノベーションという観点で見た際に、意外だったことや見えてきたことをお話させていただきます。
1つは、住まわれる方の住まい方がとても多様化しているということです。
最初に井上先生からダイニングキッチンという考え方のお話をしていただきましたが、今はもうダイニングとリビングという区分けもなかなか難しいくらい、皆さん色々な使い方をされています。
例えば、テレワークの場所という概念が出てきたり、家を出る時間が違うので家族の食事やくつろぐ場所が別々だという方がいたりと、いろんな方がいらっしゃって、暮らしに合わせて住まい方を変えているということが見えてきました。
野呂
また、リノベーションされたお部屋に住みたいという方も多様化してきています。そのリノベーションされた部屋に住むことで、ライフスタイルにいい影響があったという方がいる一方、「リノベーションしていたの?」と知らずに入居した方も最近増えてきています。質、量ともにリノベーションが団地全体に浸透してきている、そのような流れになっているのかなということが見えてきました。

加えてもう1つ、団地を経営・運営している側からすると、難しいことも分かってきました。
このグラフは「京都女子大学×UR」でリノベーションされたプランと一般住戸との比較を示しているのですが、リノベーションをした方が「満足」、「やや満足」と答える方がやはり多くなり、満足度が高く住んでいただいています。
野呂
一方で、そのお部屋に今後どれだけ住む予定なのかという居住予定年数をお聞きすると、一般住戸に住む方よりも、リノベーションされたお部屋に住む方の方が、居住予定年数が少ないということが分かってきました。

調べていくと、リノベーションされたお部屋に住みたいと思われる方が、若い世帯であったり、住み替えていく前提で「気に入ったから今ここに住みたい。でもそこに永住するわけじゃない」という方が多いという傾向が見えてきました。
我々も団地を経営している上では、なるべく長く住んでもらいたいというのが本音なのですが、ライフスタイルに合わないのであれば、住み替え先でも引き続きUR団地に住んでいただくためにはどうしたらいいのかということを最近よく考えています。

具体的には、ライフステージが変化するタイミングで住まい方が変わり、今のお部屋に住めないという方についても、あえて所有しないという選択肢をなるべくいっぱい作っていく。 そうしたことで、着替えるように自分の気分に合わせて住み替えるということが1つの団地、あるいは1つのエリアでできたら、URにずっと住んでいただけるのではないかということで「住まい方すごろく」というものを考えてみました。

この「住まい方すごろく」には元ネタがありまして、1973年に上田篤さんという建築の方が発表された「現代住宅すごろく」というものが、当時の住まいの考え方を如実に示しています。
野呂
振り出しから始まり、ベビーベッドもあるのですが、そのうち独り立ちして、下宿、木造アパート、実は途中に公団・公社アパートもあるのですが、最終的には庭付き郊外一戸建て住宅で上がりと書いてあります。
ここの上がりに向かって進んでいくというのが、当時も今も多くの方が抱いている、住まいに対するイメージなのかなと思います。

それに対して、「住まい方すごろく」は、井上先生にもご協力いただきながら「京都女子大学×UR」を展開している洛西ニュータウンで考えてみました。
野呂
Aさんという仮想の人物を想定しています。
京都出身で地元に就職し、洛西ニュータウンで家を探していました。実家が持ち家ではあるものの、古く住みづらく将来持ち家をどうするかを不安に思っているので、賃貸に住み替えができればいいなという方です。
野呂
この方が最初に住んだのが、「インナーバルコニーのある暮らし」というお部屋です。家賃重視で、内装にもこだわりたい。部屋数も、1人暮らしの中では比較的多いので、使う空間で気持ちを切り替えて住むことができるところを、気に入って住んでいます。
野呂
Aさんがご結婚されたので、少し広い部屋へお引っ越しです。 部屋数は変わらないのですが、リビングダイニングを家具で緩く分けることで、夫婦それぞれがストレスなく、食事や作業、テレワークもできるよう、先ほどもご紹介した、「無限のハコ」というプランで考えてみました。
野呂
お子さんが誕生し、長男0歳、長女3歳になりました。お子さんが生まれてからバタバタで、引っ越しも考えづらいため「無限のハコ」にそのまま住み続けることにしました。
野呂
元々のリビングダイニングにプレイマットを敷いてこどもの遊ぶスペースに、赤ちゃんはもうちょっと近くで見ていたいのでキッチンのすぐ横に赤ちゃんのスペースをつくりました。
3歳のこどもが遊べるよう、少し仕切ることでスペースを用意してあげることが出来ます。キッチンが真ん中にあるので、広いリビングダイニングで2人のこどもに目を配る住まい方ができるのではないでしょうか。
野呂
こどもが大きくなり、部屋の多いお部屋に引っ越しました。こども部屋の小窓が勉強机みたいになるのでこどもたちが気に入って使ってくれる想定です。
野呂
長男も中学生になったので、それぞれ独立したお部屋を作るため、さらに部屋の多いプランに引っ越しました。お父さんとお母さんはリビングダイニングの脇の半個室のようなスペースに追いやられてしまうのですが、家族の気配を感じられるのではないかと思います。
野呂
こどもたちが独り立ちしました。夫婦2人暮らしに戻り、新婚生活の時と同じ広さの部屋に引っ越し、今度は家賃をちょっと浮かせて新しい趣味も始めました。
野呂
このすごろくは、庭付き郊外一戸建てが1つのゴールではなく、住まい方に合わせて戻ることもできますし、今のお住まいにずっと住み続けることもできます。
そういった柔軟性や可変的なことが1つのエリアでできるということを、今後パッケージとしてご提案できれば、それがエリアのブランディングや団地としての価値を引き出すということに繋がっていくのではないかと思っています。

今後、空き家が全国で増えていき、所有者責任も厳しく問われる時代になると考えられます。若年層の方には家を所有しないという選択肢はより一般化していくのではないかと考えています。
野呂
賃貸住宅が、分譲住宅の庭付き郊外一戸建てというゴールに向かう途中の仮の住まいというより、その時その時のライフステージに適した住まいを、いろんなバリエーションの中から選ぶことができる、そういったサービスであることを皆さまに捉えていただけるよう、我々もバリエーションを増やしてPRしていくことができればと思っています。
一例ですが、マイカーを持つのではなく、カーシェアやサブスクリプションが最近流行していますが、そういったサービスのように自分のライフステージに合わせて住まいを変えていく、着替えるように住み替えることができるように我々も頑張って行きたいと考えています。