MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
トークイベント「MUJI×URで考える団地の未来」

※このレポートは、2017年1月15日に無印良品 グランフロント大阪Open MUJIスペースで行われたトークイベントの模様を採録しています。

川内
プロジェクトが捉えた課題と解決方法
プロジェクトスタート時の課題は、3つありました。
1つ目は、空家の増加。これに関連する2つ目は、高齢化。長く住んでいる方が多く、その後の若い入居予定者が少ないのです。
そして3つ目は、コスト。リノベーションして新しくするのは良いものの、いたずらにお金を掛け過ぎてしまうと、家賃があがり借り手が限られるため、事業として成立が難しくなります。今後74万戸への横展開を考慮すると、コストはなるべく抑えたいところ。この3つの課題をなんとか解決したいというところから、思考をスタートさせました。

空家と高齢化の解決方法は、古いという団地の印象を一新するようなリノベーションを施すことで、30代の方々にとって魅力的な空間をつくること。そして、コストに関しては、もともとURさんはメンテナンスを徹底しており、空き住戸が出た時点で改修工事を行っていました。そこで、その改修費と同価格を目標とすれば、入居者の入れ替わりのタイミングで、このプロジェクトがどんどん広められるのではないかと考えました。

具体的な設計方針としては、「生かす」「変える」「自由にできる」、以上3つを立てました。まず、「生かす」と「変える」について。団地には入居者さんたちが長年愛着を感じる、新築では出すことができない古い良さがあり、それらを壊さず活かしたいと考えました。また一方で、新しいスタンダードをつくるという目標のもと、間取りが小さく区切られているなど、現在のニーズにそぐわない点は変えていこうと考えました。

そして、「自由にできる」について。アンケートで明らかになったように、自分で間取りを自由にしたいというニーズは強いもの。その点、無印良品は、部屋を家具で仕切ったりカーテンで仕切ったりと、その時々の暮らしに合わせて間取りを変化させることを得意としています。賃貸住宅でありながら住む方が自分で変えられる余白を残すことによって、ニーズに応えるだけでなく、実は、改修費のコストダウンにも繋げられるのです。
 
具体的な事例とともに「生かす」
まず、「生かす」について。スライドを追いながら、具体的にご紹介します。 40~50年前に建設された団地は、広い隣棟間隔のなかに広場や公園があり、時の経過とともに樹木も大きく育ち、非常に素晴らしい住環境となっています。この環境はぜひそのまま活かして、風や光が通る心地良い住宅にしていきたいと考えました。
川内
続いて、部屋のパーツ。最近では室内ドアの取手はレバーハンドルが主流です。確かにその方が使いやすいかもしれないのですが、味のあるドアノブなど、現在手に入らないような貴重なパーツが、URさんの団地には多くあり、これらはそのまま使うことにしました。
川内
次に、システムキッチン。狭く使いづらい点など、変えなければならないところは変えつつ、耐久性のあるタイルや、粋な形の吊り戸棚などは、積極的に残すことにしました。キッチン自体は新しく使いやすいものに取り換えて、タイルは特殊な塗料で再塗装、吊り戸棚も塗り直して、使える分は使うことにしました。

そして、団地の代名詞ともいえる6畳の和室。隣にある4畳半との仕切りを外して、なるべく開放的な一室へとリノベーションしようと考えていたのですが、間にある柱と鴨居には昔から木が使われています。時の経過で味わいある飴色になった木を取り外すのは忍びないということで、空間は繋げつつも、柱と鴨居はそのまま残すことにしました。室内は白を基調とするため、デザイン的にも飴色の木が空間を引き立てる役割を果たしています。また、鴨居を残すことで、カーテンを付けたり、襖を付け直したりすることもできるため、入居者さんご自身で空間を自在に変化させることができます。

さらに、団地の代名詞と言えば、90cmの奥行ある押入れ。布団が主流だったかつては必要とされた押入れですが、現在は持て余してしまいがちです。そこで、襖と棚を外して塗装することで、多機能なスペースとして使えるようにしました。
川内
具体的な事例とともに「変える」
続いて、「変える」について。先ほど事例として紹介したキッチンですが、タイルが欠けてしまうなど、残せない場合は、完全に取り外して塗り直すということもしています。

また、畳について。1つの住戸におよそ6畳2室、合計12枚はあるものです。畳は歩く音を緩和してくれるなど非常に優れたものなので、同様の機能を求めて現代的な別の物に差し替えると、想定外のコストがかかってしまいます。そこで、全く別物にするのではなく、畳の表面を麻にアレンジして、カーペット風に見せることにしました。これならば、デザインも良く、防音機能も果たします。この「麻畳」は非常に好評で、当プロジェクトのほぼ全ての住戸で使用されるだけでなく、URさんの通常の住戸でも一部使っていただいています。
川内
もう1つ変えなければいけなかったのは、配線です。時代の変化とともに電子機器類の使用が増して、無理に後付けした線があちこちと露出して空間の魅力が損なわれていました。これを壁の中に全部埋め込んでしまうと、またコストと時間がかかってしまいますし、そもそもMUJI×URの間取りは壁が少ない。そこで、天井の脇にT字型の木をぐるりと回して、その上に全ての配線を流すようにしました。こうすることで、見栄えを落とさず、とても楽に配線でき、後付けも簡単にできるようにしています。
川内
具体的な事例とともに「自由にできる」
最後に、「自由にできる」について。これは余計なものを作りこまず、余白をつくるということに尽きます。具体例として、オリジナルのキッチンを紹介します。これは、コの字型のキッチンと、全く同じ素材のコの字型のテーブルを合わせてつくったもの。組み方を変えることで、一文字のキッチン、作業台の大きなキッチン、L型のテーブルとキッチンと、スタイルを自在に変化させることができます。キッチン周りのスペースを残しているからこそできることです。
川内
次に、小天井を紹介します。将来的に仕切りや棚がほしいという要望が出そうな箇所に小天井をつけておくことで、無印良品のユニットシェルフを下に入れ、オプションアイテムの突っ張り棒で固定すれば、簡単に取り付けることができます。これで、部屋の真ん中に棚を置いても地震で倒れることもなく、突っ張り棒に耐えられるだけの強度がない天井でも、安全に取り付けることが可能となります。もちろん、小天井の上に物を置くこともできるため、スピーカーを置いていらっしゃる住人さんもいます。
川内
さらに、先ほど申し上げた押入れについて。多機能な収納スペースや住空間としても使用できるようにと、襖を取ってシンプルに仕上げています。住まわれている方が、テレビを置くなどして自身で自由にアレンジできるようにしています。
川内
そして、襖について。近年の襖は、段ボール状のものに両面1枚ずつ襖紙を貼って仕上げているケースが多いのですが、無印良品ではその工程を無くして、あえて段ボールの素材感をそのまま活かすことにしました。ダンボールふすまです。
川内
このように、棚やカーテンや段ボール襖で仕切ったり区切ったり、住まう人自身が自由にできる余白を残して設計しています。