MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト リレートーク vol.2
千葉海浜ニュータウン5万戸の団地再生への取り組み

※このレポートは、2014年5月27日に日本デザインセンターPOLYLOGUEで行われた、パネルディスカッション式のトークイベントを採録しています

土谷
ちば地域再生リサーチの6つの事業の柱のうち、最初に話された「住まいのリペア・リフォーム」事業について質問です。このエリアは賃貸・分譲・戸建等あわせて11万人、5万5千戸からなり、丁寧にリフォーム講座まで開催しているにも関わらず、なぜ、それが広がっていかないのでしょうか。それとも他の業者等に頼んでしまっているのか、そもそも、そういった動きが起きていないのか、そのあたりはどのようにお考えですか?
鈴木
対象はURの賃貸住宅です、全ての部屋が同じつくりなので、一つの技術を覚えてしまえば、どこ行っても同じようにできてしまいます。また、材料もデッドストックにならないので、相当リスクを回避しています。分譲や戸建てのリフォームの方が、利益は多くなると思うのですが、リスクは大きくなります。
DIYに関して言うと、高齢者が多いところですし、それをやるというパイは少ないんじゃないかと思います。また、コミュニティビジネスというのは、地域の中で困っている人を助けるためにビジネス的な手法を取るんですね。そういう観点で言うと、コミュニティという範囲を自分たちでつくってそこから広範囲に展開しないので、そこの一定の範囲の中での市場に限定されることになります。ですから、DIYは一定程度普及するけども、それ以上はいかないだろうと思っています。
土谷
いかがでしょう。会場の皆さまからご質問ありますか。
参加者
情報を充実させることに関して、何か取り組みをされてることがあれば、教えていただきたいです。
鈴木
色々な買い物サポートをしている中で、“御用聞きシステム”を情報端末でやるのは不評でした。高齢者が多いので情報端末そのものを持てないんですね。
今までは高齢化中心にやってきましたけれど、今は子育て世代の方々のサポートも始めていて、そういう人たちには、ソーシャルメディアを使った情報の充実があっていると思います。この地域に人を呼びこむためには、この地域がどんな地域を知っていただく必要があるので、ホームページなどで地域情報の充実を図っています。
土谷
すいません。さっきの人口の話の中でグラフの山が二つあるのですが、高齢者と子育て世代、全体としては減っているんですよね。
鈴木
場所によります。高齢者が減っている所と子育て世代が減っている所があります。そういうところは、ミクロなデータを見ていかないと対応を間違えかねないと思っています。
土谷
かつては、幕張は立派な埋め立て地で、人気があった場所です。そこに人が集まってきて、時代と共に場所の価値が下がっていっています。しかしその中で戦わないとそのまま滅びていってしまうよというメッセージのもと、10年前から活動をしていて、徐々に活動が認知されて、色々な役割ができてきました。商店街の活性化なんていうのも、小さなイベントをすることで、商店街の売上が伸びていると聞いています。そういう地道な活動を頑張っているのですね。
栗原
私は三月までUR東日本賃貸住宅本部で、団地の建て替えや、賃貸住宅のリノベーションなど、団地の活性化のための色々な仕掛けを進めてきましたが、やはりどこの団地も高齢化が進んでいて、若い人たちがいなくなってきています。
それから、商店街も活気が無くなっている。そういう中で、どうやって団地を活性化できるかという検討をしていたのですが、鈴木先生の本を読んだときに“私たちがやろうとしていることは10年前からやられている!”ことがわかりました。
また、一つ一つの事業については、どこかの団地では実施しているケースもありますが、様々な事業を統合して、全体として上手くまわるようなシステムを作っているという所が他の団地と大きく異なっているところです。
もう一つは、一つの団地だけではなくて賃貸と分譲、公営や戸建住宅など、色々な団地や住宅が混ざった広いエリアを対象としているので、パイが大きくなっていて、色々な居住者がいる中でビジネスチャンスが増えているわけです。一つの団地だと出来ることの広がりがなかなか出てこない中で、地域で取り組んでいるというところも素晴らしいです。
それから、一番凄いと思ったのは、やっぱり、ビジネスにしているということです。利益を上げる所まではいかないようですが、常駐の職員を雇って事業展開できているところは、実は多くない。例えば、見守りサービスにしても、ほとんど自治会のボランティア的なものか、高齢者施設を運営しているところが併せてやっているというのが実態で、そういう形でしか成り立たない事業です。いろいろな事業を組み合わせることによって、成り立つ所まで持ってきているところが非常に先進的で、これからの団地再生の中で考えていかなければいけない大きいテーマだなと思っています。
高齢化が進んでいる一方で、高齢者と定義されている65歳以上の人は元気なんです。しかも、会社を退職して暇を持て余しています。高齢化してるから地域が衰退するというのは事実と違って、団地の中で時間があって能力も凄く高い人が増えていると考えれば、次のビジネスの発想が出てくるんじゃないかと思っています。
土谷
なるほど、元気な高齢者の活用ですね、そのあたり鈴木先生にうかがいます。先生の取り組みでは、最もお金になりにくいといわれているコミュニティビジネスを、事業としてまわしているということ。それをこれからどのように広げていくのかということと、そして、65歳以上の方の活用事例を教えてください。
鈴木
この地域の団塊世代2,500人にアンケートを取りました。現役の頃は企業戦士で働いてきたから、もう激務は嫌だと言う人がほとんどです。私たちが10年前にコミュニティビジネスをやろうとしたときに、そのサポートをする組織にビジネスモデルを見せに行って、これ、どうすればいいですかって聞いたら、“そんなの死ぬ気でやるんです”と言われたんです。えっ?精神論なの?と思いましたが、死ぬ気でやるということに対して団塊世代は、これまでも頑張ってやってきたので、そうはいかないでしょう。5万円くらい、孫にお小遣いをあげられるくらいに働きたいということでした。2200人のうち30人ぐらいがそんな回答をしていました。しかし、30人いるということは、それだけ地域が元気になるので良いとも思います。
同じアンケートで、配偶者の方に“ご主人がそういうことをやろうとしたら、どうしますか”と質問したところ、“サポートする”と回答した人が大多数ですが“夫がそういった活動が苦手だから迷惑かけるから辞めさせる”、といった回答も多かったです。私たちのNPOにも、そういう人たちは来るんですけども、奥さんが連れてくるパターンも結構あります。
また、ボランティアをやりたいという人も30%程いました。そういう人たちは気の向くまま、やりたい時にやるということなのでしょう。私たちがボランティアを導入していないのは、仕事に責任を果たしてもらうようにしたいからです。
土谷
ボランティアではなくて、きちんと仕事として、お金を払ってやってもらう。そこにやりがいを感じてやってもらう。そういう人が30人ぐらい、5%ぐらいいるというのは理解できます。とはいえ、企業の中で働いてきた人が、引退して急にコミュニティビジネスをやるとなっても、できるのかな、と素朴な疑問がわきます。実際はいかがですか?
鈴木
これからです。ボランティアでやる人たちはもちろんいても良いのです。あるいは、地域通貨を使ってやっている方がいてもいいんです。そういう人たちの総和が地域を良くしていくはずなので、お互いに邪魔をしない。そういう人達が色々な活動を立ち上げることは、当然増えてくるという風に私は思っています。